米:農業倉庫火災・盗難防止強化月間2021
【農業倉庫火災・盗難防止強化月間2021】品質と安全モットーに 【現地ルポ:愛知県JA西三河・池田低温倉庫】2021年11月30日
米の需要は家庭用のほか、中食・外食産業など業務用需要の割合も増え、多様なニーズに合わせて安全・安心な米を安定的に供給することが産地に求められるようになっている。JAグループにとってはそれに対応した集荷・販売体制を構築していくことが課題だ。こうしたなかでカントリーエレベーター、ライスセンターなど大型乾燥調製貯蔵施設とともに農業倉庫の役割が一層重要になっている。JA全農と公益財団法人農業倉庫基金は、施設の重要性に鑑み、毎年11月15日から翌年の1月31日までを「農業倉庫火災・盗難防止強化月間」として防火・防犯意識を高めることや、保管管理体制の再点検などを徹底するよう呼びかけている。この強化月間の運動に合わせて、今回は愛知県のJA西三河・池田低温倉庫を取材した。
池田低温倉庫の外観
若手が育つ水田地帯
JA西三河は愛知県の三河湾沿いにある西尾市を管内として21年前に5JAが合併して誕生した。温暖な気候に恵まれ水稲、施設花き、施設野菜、茶、果樹、露地野菜など多彩な作物が栽培されている。
農地面積は約3500haでこのうち水稲が約1800ha、麦・大豆が約1200ha作付けされている。西尾市は、ここ数年全国トップクラスの単収を誇る愛知県にあっても有数の小麦産地で多収性で良品質な小麦の新品種「きぬあかり」の作付けが進んでいる。
米、麦、大豆の2年3作のブロックローテーションに取り組み、かねてから生産調整は達成してきた。管内の担い手農家の平均的な経営面積は25haで、1生産者あたりの延べ作付面積では65ha程度になるという。
施設園芸も盛んで花きではカーネーション、野菜・果樹ではキュウリ、イチゴ、イチジクなどが栽培されている。
太田知宏営農部長によると生産者の技術レベルは高く「担い手水田農家の後継者はほぼ100%います」と話す。JAでは西尾市内の小学生を対象に田植えから収穫体験までの食農教育にも力を入れているが、そのときの先生役を若手農家が積極的に引き受け、地域住民への農業理解促進に力を入れている
米では愛知県がブランド米をめざして開発した新品種「なつきらり」の栽培にも取り組み、2020年から本格的に作付けを開始した。2020年産では8・8haだったが、2021年産では25haに増えた。来年産はさらに増える見込みだ。JAは意欲ある農家が経営体として発展するよう新技術への取り組みや、労働力雇用などの面で支援しているという。
2021(令和3)年3月末でJAの正組合員は8605人、准組合員は2万2342人。販売高は米8億2000万円、麦1億7000万円、大豆他3億6000万円、野菜11億円、果物13億円、花き・花木26億円などとなっている。
米のロットの内容も分かりやすく表示
知識向上へ研修参加
安全で安心な米をしっかりと保管し品質を維持して消費者、実需者に供給することは国民への食料の安定供給の一翼を担うJAグループの重要な役割であり、組合員である農業者の所得維持、増大にもつながる。
JA西三河管内には南部、東部、西部の3ケ所に農業倉庫とカントリーエレベーター(CE)が設置されている。JAの農産課の職員が3ケ所でそれぞれ3~5人で米、麦などの出荷物の荷受から保管管理までの業務にあたっている。2020年産米では2100tを集荷した。フレコン利用も進んでおり30%程度を占める。
農業倉庫やCEの業務には資格が必要な業務が多い。乾燥施設の管理、フォークリフト、クレーン、ロボットパレタイザーなど動かすには資格がいる。JAではJAあいち経済連などが主催する農業倉庫業務に必要な研修に職員を積極的に派遣して知識の向上に努めている。正職員はもちろんパート職員にも資格を取得してもらっているという。
「パート職員も含めて、誰もがそのとき求められる作業ができるような体制づくりを心がけてきました」と農産課の伊藤英雄課長は話す。
今回取材した池田低温倉庫は南部CEを管理するスタッフ5人が担当している。南部CEは2018年度に愛知県低温農業倉庫CE協議会が主催した第2回JAグループ愛知カントリーエレベーター環境美化コンクールで最優秀賞を受賞している。
東部と西部はCEと農業倉庫が隣接しているが、南部CEと池田低温倉庫は約3kg離れている。そのためCEで紙袋に製品化された玄米を倉庫に車で輸送するのも5人のスタッフの仕事となっている。そこが他の2施設との違いだが、CEへの受け入れ、乾燥業務から、出荷計画に合わせた農業倉庫へ運搬と保管まで一貫して管理しているということになる。
保管日誌の記録毎日
この池田低温倉庫も愛知県低温農業倉庫CE協議会が取り組む「農業倉庫 環境美化コンクール」で2020年度の最優秀賞を受賞した。
同協議会では、2020年度から農業倉庫の衛生管理や環境美化を強化しようと同コンクールを始めることにした。食品衛生法の一部改正で食品事業者にHACCP(危害要因分析重要管理点)に沿った衛生管理が制度化されるなかで、原料の米麦についても、実需者から衛生管理の徹底が求められるようになったこともふまえ、取り組みを始めた。
倉庫内部のはい積みの様子
池田低温倉庫は1977年に建築され標準収容能力は1058tとなっている。前述したように倉庫担当のスタッフが常時勤務するのは南部CEである。池田低温倉庫はそこから離れているが、平日は毎日午前10時に倉庫の現場確認に出向く。出庫・入庫に関わらず交代で担当する。
穀温計は上・中・下の3ケ所
その日の天候を記録し、倉庫内外の温湿度をチェック。はい積みされた米の穀温は上段・中段・下段の3ケ所で計測、それを記録する。穀温は倉庫奥の冷房設備の左右2ケ所と、入口付近で外気の影響を受けやすい1ケ所の計3点で測定する。これは「保管管理日誌記入の留意点」を参考にして担当者で協議して設置場所と必要本数を決めた。
保管物品の品質管理にも力を入れている。月末には数量を確認するとともに、ロットごとに3ケ所からサンプルを採取して水分確認と目視による品質確認を実施している。農産課の佐竹俊亮係長は「保管管理日誌は仕事の軸。注意すべき基本点がすべて書かれており、記録を振り返って確認したり、職員でこれを共有することを心がけています」と話す。
保管管理日誌を見るとたとえば、どこを清掃したかも記録されている。少なくとも週2回は清掃することにし、その際は倉庫周辺、軒下、庫内などの見回りも徹底していることも分かる。
きれいに並べてかけられた清掃用具
清掃用具は置き場を示した写真(写真の右上部分)に合わせるように、倉庫入り口付近にほうきやチリトリが掛けてある。用具の定数管理も実施している。
日誌には保管物について「異常なし」との記載も当たり前のように続くが、こう記載すること自体がしっかり確認していることの証しでもある。
火災盗難への備えとしては、倉庫は無人で事務所から離れているが、平日は毎日職員の誰かが倉庫に出向いて巡回点検で確認しており、夜間は警備会社に委託し夜間の機械警備を行っている。
「誰もができる」合言葉
今回はコンクールへの参加を機に改めて自分たちが担当する倉庫を点検し、設備を改善したこともある。それは倉庫内の照度。倉庫内を確認するには十分な明るさではないことに気づき、作業安全に必要な照度140ルクスを確保するために照明器具の追加工事を提案し実施した。
また、独自の工夫も行った。月末の在庫確認や品質確認をする際、どこにどんな品種等級の米が何袋はい積みされているかを描いたはい見取り図を考案し作成した。エクセルを使って誰でも作成できるようにした。
これによって誰でも的確に出庫作業ができる。また、入庫する場合も見取り図を見ながらどこに配置するのが適当かを検討することができ、「全員で話し合っています」という。
左から磯貝勝さん、佐竹俊亮係長、伊藤英雄課長、山崎隼斗さん、石川琢翔さん
佐竹係長は徹底した倉庫の環境美化への取り組みについて「米は食品であり主食。自分たちの子どもに安全、安心な地元の米を供給したい」とその思いを話す。山崎隼斗さんも「食品を取り扱っているんだという意識が大事だと思います」と話す。
伊藤課長はコンクール参加がきっかけとなって、どうせ参加するなら最優秀賞をとろうとモチベーションが高まったという。「一人ではできないことをみんなで取り組む。一度、きれいに美化できるとこれを継続していこうという意識になる。ここが大事だと思っています」。
佐竹係長は「あそこ掃除した? やってくださいね、と嫌われ役でいいので繰り返しました。それでみんな当然のように清掃してくれるようになりました」と話す。倉庫内には「食品」を管理するスタッフの努力と組合員、実需者への責任感で凛とした空気が流れていた。
※山崎隼斗さんの「崎」の字は正式には異体字です
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