米:農業倉庫 火災・盗難防止強化月間2022
【農業倉庫 火災・盗難防止強化月間2022】米の品位守り産地底上げ【岩手県・JA江刺「中央低温倉庫」】2022年11月21日
需要に応じた米の生産が求められるなか、JAグループにとってはそれに対応した生産、集荷、販売体制を構築していくことが課題となっている。こうした体制づくりに向け、カントリーエレベーター(CE)、ライスセンター(RC)など共同乾燥施設とともに農業倉庫の役割が一層重要になっており、常に適切な保管管理に努めることが必要だ。JA全農と公益財団法人農業倉庫基金はこうした農業倉庫の重要性をふまえ、毎年11月15日から翌年の1月31日までを「農業倉庫火災・盗難防止強化月間」として防火・防犯意識を高めることや、保管管理体制の再点検などを徹底するよう呼びかけている。この強化月間に合わせ、今回は岩手県のJA江刺・中央低温倉庫を取材した。
中央低温倉庫
管内全域で特別栽培米を生産
JA江刺では、管内全域で減農薬・減化学肥料の特別栽培米生産に取り組んでいる。品種は「ひとめぼれ」。畜産と連携し牛ふんともみ殻を原料にした堆肥を水田に入れる循環型農業を基本にしている。2022年産では2800haを作付けした。
「江刺金札米」が地域のブランドで、2022年に101年目を迎えた。これを機に今年からサトウキビを原料としたバイオマス素材を使用した米袋での販売も始めた。特別栽培による安全・安心を全面に出した米販売とともに、SDGs(持続可能な開発)の達成に向けた取り組みにも貢献していく。
米ではそのほか輸出用米への取り組みも行っている。また、米以外では野菜(トマト、キュウリ、ピーマン)、リンゴ、そして肉牛が主力産品。農業者の高齢化は進んでいるものの、若手農業者も多くJA青年部の活動も活発で盟友同士で情報交換しながら、それぞれ農業経営を高める努力をしているという。JAはこうした若手農業者への研修制度や職員訪問などバックアップし取り組んでいる。
JAは2021(令和3)年度からの第10次農業振興計画で「持続可能な江刺農業の確立」を目指す姿として掲げている。営農推進部米穀課の谷謙治課長は「農業が継続できる環境を整えていきたい」と話す。
フレコンバック使い負担軽減
中央低温倉庫は県内初の玄米ばら集荷施設として2013(平成25)年に竣工した。荷受け、色彩選別機と石抜き機などによる調製で食味や整粒歩合の均一化を図り、フレコンバックを低温で保管する。
中央低温倉庫を設置する背景として、営農組合や法人など大型経営体への稲作の集約化が進み、それにともない紙袋での出荷からフレコンでの出荷に移行していくという動きがあった。しかし、個々の経営体で乾燥調製するフレコン出荷では年によって品質にばらつきがあり、場合によっては等級が落ちるというリスクがあることが明らかになった。
また、フレコン出荷に対応し、カメムシの被害粒など弾き出す色彩選別機を個々の組合員が導入すれば組合員に大きなコストがかかることになる。
こうした組合員のリスクやコスト負担を軽減し、出荷する米の品質の高位平準化をめざして建設されたのが中央低温倉庫である。
同倉庫の建設によってJA管内10地区にそれぞれあった農業倉庫の集約も進め、生産者からの均質化装置調製分としての玄米ばら集荷とともに、個人で調製して出荷するフレコンも荷受けし保管する管内最大の倉庫として機能を発揮している。
玄米ばら出荷する組合員は収穫後、乾燥ともみすりをし、グレーダーを通した玄米をフレコンに詰め運搬する。倉庫で改めてグレーダーを通し色彩選別機と石抜き機にかけ、新たに1等品質の1080キロのフレコンを作る。そのため出荷の際の量は800キロでも900キロでもいい。計量器を必要としない仕組みにしたのも特徴で、これも組合員の負担減につながる。玄米ばら出荷できる条件は「ひとめぼれ」の特別栽培米であることだけで、管内のどの地域の組合員でも利用できる。
精米センターと連動
中央低温倉庫の向かい側にある中央カントリーエレベーター
中央低温倉庫は中央CE、精米センター、江刺金札米販売センターと同じ敷地内にある。
中央CEと精米センターは直通配送ラインが設置されており、CEでもみすり後に精米センターに搬送された玄米を最短で中1日で迅速に精米にして販売できるという全国でもほとんど例をみない連動体制が構築されている。精米センターでは中央低温倉庫に保管された玄米も使用する。いずれの施設からも精米センターに供給される米は特別栽培の「ひとめぼれ」1等米のためコンタミのリスクがない。「鮮度の高い精米商品を販売できる強みがある」と谷課長は話す。
このように同JAでは保管管理された玄米が同じ敷地内で精米商品になるという事業が組み立てられているため「原料の玄米の品質確認はもちろん、精米の工程や、その結果を知ることができるため、倉庫の担当職員には玄米を保管、出荷すれば終わりではない、という意識があります」(谷課長)という。
CEと倉庫の担当職員は米穀課、精米センターと江刺金札米販売センターの職員は流通販売課と所属は違うが現場でお互いに話をするなかでそれぞれが意識を高め、課題を解決するという取り組みにつながっているという。
当たり前のことを実践
(左から)石母田さん、谷課長、青木さん
中央低温倉庫と中央CEは2人の職員と2人の臨時職員で運営管理を行っている。
この倉庫の機能は一言でいえば組合員が出荷する玄米を調製してグレードアップし均質化することにあるといえるだろう。
ただ、それは「機械だけに任せるわけではありません」と話すのは担当の調査役(監理役心得)の青木宏則さんだ。担当職員は全員、米の検査員の資格を持っており、「検査員としての目で搬入された玄米を見てどのタンクに入れるか、自分たちでコントロールして均質化のための確実なブレンドを図っています」という。こうした意識はすぐ隣に精米センターがあるからで、同じく担当の石母田俊基調査役も「精米になるという目でいつも玄米を見ることを心がけています」と話す。
組合員のなかには、はざかけ、棒がけなどで半乾燥させ付加価値を付けた米や、グレーダーの網目を大きくし食味値を高めた特選米などを搬入することもある。こうした特徴あるアイテムをきちんと区分けして調製することも重要で、それが組合員の所得確保につながることになる。
このような努力によってフレコンに詰められた玄米を衛生管理や事故防止などに徹底的に取り組むなかで保管していくことが求められる。
作業の注意点なども表示
それは「当たり前のことを当たり前に実施すること」であり、「マニュアルどおりの保管管理がまずは基本だ」と青木さんは話す。荷受けシーズンの前に徹底した清掃でさまざまな設備に積もった埃(ほこり)などを取り除くことから始まり、「掃除は絶対、毎日する」ことを決めている。
青木さんたちはCEも担当しなければならないが、たとえばCEでもみすり作業を始める前に向かい側にある倉庫に行って掃除をするなど時間の使い方を工夫している。CEの運営管理と兼務することによって、毎日、倉庫に入り清掃をはじめ保管管理ができるという面もあるという。
盗難防止対策では必要時以外は必ず施錠し、火災防止対策では火災報知器と消火器の点検はもちろん、そもそも施設内を火気厳禁とすることが原則だ、と青木さんは話す。また、同敷地内の精米センターに職員が日常的に常駐しており、CEの作業時を含め、倉庫の火災盗難防止のけん制機能がともなっていると言える。倉庫内にある均質化装置も清掃等を徹底している。
経験から新たな発想
こうした基本的な取り組みに加えてこれまでの経験から自らルールを作り、その徹底を図ることにも力を入れている。
通気性を確保するパレット
その一つが倉庫内の通気性の確保である。かつてJA管内でカビを発生させたという事故を契機に倉庫床面の上に空気が通るパレットを敷き、そのうえにフレコンを積むことにした。さらに精米センターや販売先などへ出庫が進み倉庫内にスペースができる2月、3月ごろからフレコンの保管場所の入れ替えや4段積みとなっているフレコンの上下を入れ替える天地返しを行うことにしている。
また、保管中の品質事故を未然に防ぐため、入庫時の穀温や水分を確認し、穀温が高い場合は平置きして穀温を下げてからのはい積みや、水分が高い場合は精米センターで早々に原料として使うこととしている。
除湿器も活用
そのほか水分を倉庫内に入れない対策も徹底することにしている。倉庫やCEなど施設のある場所は冬には吹雪となることもあるが、出庫のために入ってきたトラックから落ちる雪や雨で濡れたことがあった。それを機に、その都度、徹底的に水分を掃き出して乾燥させることを心がけている。
倉庫内には除湿器を入れているほか、エアコンを動かし空気の流れを作るようにしているが、温度によってはエアコンの動きが止まってしまうため、風を作るサーキュレーターの導入も検討している。
物の置き場を表示
また、精米センターはHACCP対応が求められていることから、CEや倉庫でもそれに準じた取り組みを行おうと「清掃用具置き場」など施設内にモノの置き場を表示することも行っている。
青木さんは、当たり前のことを当たり前に実践することに加え、このように「新しい発想で保管管理に取り組んでみる、という意識も大事だと思います」と話す。
その一つが出荷する組合員とのコミュニケーションだ。今年から業務用「LINE」で出荷者のグループをつくった。これを活用し組合員から出荷の予定を知らせてもらったり、青木さんたちから出荷の際の水分などの今年の注意点などを知らせようと考えている。
中央低温倉庫は組合員の出荷作業を効率化することに寄与しているだけでなく、谷課長は青木さんたちの品質向上の取り組みによって「江刺の一等米とはこれだ、と生産者に見本を示す場にもなっている」として、米産地の底上げにさらに役割を発揮したいと話している。
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