乳製品過剰で生乳廃棄の懸念――Jミルク、年末年始向け異例の緊急対策 農政ジャーナリスト・伊本克宜2020年12月11日
Jミルクは今週、生乳需給緩和で年末年始に「処理不可能乳発生の可能性がある」と、関係者に異例の緊急取り組みを呼びかけた。新型コロナウイルス禍で外食などの業務用需要は低迷し乳製品過剰在庫は膨らんでいる。一方で生乳生産は増産基調で、このままでは北海道を中心に乳製品工場が加工処理できず、最悪の場合は生乳廃棄の懸念が出てきたためだ。
コロナ拡大で業務需要低迷
乳業メーカー、生産者団体などで構成するJミルクは、年末年始の生乳廃棄回避の呼びかけを行った。コロナ禍での「酪農異変」を乗り切るには、生産から処理、販売、末端消費までのミルクサプライチェーン全体で対応しないと難しいと判断した。来週14日の週は相次いでJミルクや中央酪農会議の理事会などがあり、そこでも生乳廃棄回避の取り組み徹底を確認、内外に緊急の生乳需給実態を訴える方針だ。Jミルクの川村和夫会長(明治HD社長)は「春先のコロナ禍も生乳廃棄回避した。年末年始も正念場となるが業界挙げ乗り切りたい」と強調している。
12月はクリスマス需要で、ケーキや菓子向けにバター、生クリーム消費が増える。だが、事前の製造するため来週14日以降は需要が大きく落ちる。例年、特に12月28日から1月4日までの1週間の飲用牛乳の需要も落ち込む。生乳生産全体は順調で、業務需要低迷で乳製品にさばけず飲用牛乳消費も伸びないとなると、生乳の行き場が一気になくなりかねない。
中酪は全面意見広告
中酪は12月上旬、一部の全国紙の一面を使い意見広告を載せた。〈冬ならではのおいしさを〉〈家族のまんなかに、牛乳〉として牛舎で乳牛を世話する若い酪農家のイラスト入り。コロナ禍でも日本中の酪農へのエールに感謝を述べ、この冬も牛乳・乳製品でしっかり栄養を摂ってと訴えた。酪農家の苦労と感謝とこれからの頑張るととの強い意思表示をこめた。年末年始の厳しい生乳需給緩和も踏まえたことだ。まずは、酪農家の厳しい実態を知ってもらい、しっかり牛乳をはじめバター、生クリーム、チーズなどの乳製品の家庭内消費をしてもらう。意見広告にはそんな思いと願いが募る。
21年度畜酪で家族農業支援拡充
10日の農水省食料・農業・農村政策審議会畜産部会で21年度畜産酪農政策価格・関連対策を決めたが、酪農では特に都府県の生産基盤拡充に力を入れた。いわば家族酪農を支援する姿勢を示した。北海道、都府県共に均衡発展し、国産生乳需要に応じていくためだ。今回のJミルク生乳廃棄回避の緊急対策は、その動きと一見矛盾するようだが、コロナ禍の短期的な需給緩和ととらえるべきだろう。短期的な過剰対応は業界全体で乗り切っていくしかない。
「北海道400万トン」時代も先行き不安
北海道今年度生乳生産は、初の400万トン台に達する見通しとなった。中央酪農会議まとめた受託乳量実績では、上期(4~9月)で初めて200万トンを突破し、10月以降も前年対比2%超の伸び率を保っている。都府県も4年ぶりの増産に転じた。
新たな酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)は、10年後の生乳生産を780万トンと、現行の730万トンより50万トン増産を明記した。拡大する国産生乳需要を踏まえた。こうした中での「北海道生乳400万トン時代」は望ましい方向だ。都府県の生産祈願回復の兆しも期待したい。問題は、直近の生乳需給の不均衡が深刻になりつつあることだ。酪農家は増産を手放しで喜べない。そんな中での直近の生乳需給緩和だ。万が一、生乳廃棄に陥れば、酪肉近の増産方針と実態の整合性が問われることになりかねない。酪農家の生産意欲に悪影響も与えかねない。
酪農問題を考える視点の第一は「新酪肉近元年」の中で、生産者にいかに将来展望をもってもらうかだ。目先の需給緩和で増産方針に〈冷水〉を浴びせてはならない。
コロナ禍でレストラン、ホテルなどの乳製品業務需要が低迷し、一挙に乳製品在庫が増えた。これに春先からの学校給食用牛乳の停止が加わった。行き場のなくなった学乳を乳製品加工に回し、在庫拡大に拍車をかけた。こうした事態の中で国は脱脂需要を促すため輸入代替などを進めた。問題はバターだ。さらには需要が伸びている国産チーズをさらに消費拡大する必要もある。各指定団体は現在、21年度乳価交渉を進めているが、なかなか決着しない。乳製品過剰が交渉に悪影響を及ぼさないかとの懸念も募る。
過剰深刻なバター処理どうする
新型コロナウイルス禍で乳製品の需要が落ち込んでいる中で、農水省は2020年度バターの輸入枠を当初計画から3割削減した。当然の決定だ。乳製品過剰は生乳需給に悪影響を及ぼす。今後とも酪農家の経営安定を大前提に対応をすべきだ。
同省が1月下旬に示した乳製品輸入計画は、バター2万トン、脱粉4000トン。乳製品の在庫状況を踏まえ、既に関係者から過大な数字との声も挙がっていた。生乳需給が一変したのは、新型コロナ禍で。学校給食牛乳供給停止に伴い一時、用途別需給が大混乱に陥った。生乳廃棄回避へ業界挙げて保存の効く乳製品への用途変更を実施した。結果、バター、脱粉の大量の在庫が積み上がっている。業務需要は縮小し、販売先も限られているのが実態だ。
一方でスーパーでの家庭用バター不足の報道も時々なされる。バター需給問題が分かりにくいのは、用途によって事情が大きく異なるからだ。全体の8割近い業務用の在庫拡大の一方で、約200グラムと小ロットの家庭用は菓子作り、パンケーキなど巣ごもり消費堅調な需要堅調が続く。乳業メーカーの製造実態は業務用の1ポンド(450グラム)単位の大ロット生産が中心で、家庭用だけを増産する仕組みには対応しにくい。
問題は業務用バターの過剰だ。そこで農水省は20年度バター輸入枠を当初計画から3割削減し1万4000トンにすると発表した。既に9月までに1万2000トンを入札済み。追加輸入2000トンについて同省は「年末のクリスマス需要に応じるため」としている。ただ生産者団体などからは、乳製品過剰が生産抑制につながらないかや今後の乳価交渉に影響を出ることを懸念し「追加輸入はゼロにすべき」との声も相次いでいた。バター在庫は約20年ぶりの高水準だ。
年明けの1月末には21年度乳製品輸入枠を決定する。同省には、生乳全体需給を直視し国内酪農を守る視点が一段と問われている。
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