【クローズアップ】中酪、都府県に2億円支援 農政ジャーナリスト・伊本克宜2020年12月21日
中央酪農会議は、新型コロナウイルス禍で生乳需給緩和に伴う年末年始の生乳廃棄を防ぐため、加工向けへ資金支援を行う緊急対策に乗り出した。Jミルクも18日の会見でバター過剰など需給緩和に懸念を表明。業界一丸の対応が急務だ。
コロナ禍で業務需要低迷
中酪は18日の理事会後の会見で、コロナ感染拡大(第三波)に伴う12月以降の今年度内の生乳需給緩和の緊急対策を明らかにした。バター、生クリーム消費が伸びるクリスマス需要が一段落し、年末年始の生乳不需要期のピークを迎えるためだ。例年この時期は、小中学校が冬休みで学校給食向け牛乳がなくなるなど需給が緩和するが、今回はコロナ禍で経験のない需給調整が問われる。保存できる加工を対象にしたのは、飲用牛乳で需要が減少した場合、乳質劣化から廃棄せざるを得ないケースが想定されるためだ。
生産伸び需給ギャップ拡大
一言で言えば需給ギャップの拡大だ。Jミルクの当初見込みに比べ、生産は北海道を中心に上振れ。半面で需要はコロナ禍で乳製品の業務用需要が低迷したまま。飲用牛乳消費もここに来て伸び悩む。こうした中で中酪は都府県の指定生乳生産者団体が乳製品となる加工向けにした場合、乳価低落分を全国で支える「加工リスク平準化対策」を行う。中酪では、こうした需給緊急対策は「酪農不足払い制度時代の乳製品とも補償以来のこと」としている。
コロナ感染拡大で、国のGoToトラベルの全国一律停止や外食産業の売り上げ落ち込み、スーパーなどでの年始の休業拡大など、特に業務用乳製品の需要は低位安定が続く。
消費拡大と加工で対応
酪農問題を分かりにくくしているのは、制度が複雑な上、全国生産の6割を占める北海道と都府県の生産構造と生乳仕向け用途が全く違うことや、乳製品の8割近くある外食などへの業務用とスーパーなどの一般家庭用需要が異なる消費動向を示すなどによる。大都市周辺は主に飲用牛乳で処理されるが、一旦需給緩和となれば保存の利く乳製品の加工向けに回す。加工は輸入品との価格競争があるため乳価が低く抑えられ、今回のように都府県で加工向けが増えれば指定団体から酪農家への支払い乳代が下がり、酪農経営に影響が出る。中酪では、その打撃を最小限に食い止めるため緊急対策に乗り出した。
予算規模は2億円で中酪や指定団体が積み立てた財源から拠出する。12月から来年3月までの受託乳量からキロ12銭の拠出となるが、酪農家負担を出来るだけ軽減するため、広域指定団体内で出来るだけの財源手当てを確保するようにも求めた。うち5000万円は牛乳の無償配布など生産現場の窮状を訴える酪農理解醸成活動に充てる。
改正畜安法で需給調整に支障も
問題は酪農乳業業界だけで対応できるかということだ。在庫が積み上がるバター過剰はコロナ禍の影響は大きい。さらにさかのぼれば昨年1月、農水省の国家貿易のバター、脱脂粉乳の輸入枠設定が適切だったのかという問題に行き着く。1年前にコロナ禍は想定出来なかったにしても、環太平洋連携協定(TPP)を皮切りに「総自由化」の中で、輸入乳製品の脅威は増す。需要増のチーズも関税が年々下がり国産との競争は激化する。
それに加えて酪農不足払い制度を廃止し、改正畜安法を施行し、事実上の生乳流通の自由化を進めた。「売る自由化」が広がり、指定団体への「二股出荷」「いいとこ取り」でかえって生乳需給が難しくなっている。12月中旬の2021年度畜酪政策価格・関連対策を決めた農水省の食料・農業・農村政策審議会畜産部会でも酪農、乳業の複数の委員から「生乳需給安定に資する改正畜安法の検証を急ぐべき」などの指摘も相次いだ。
バター過剰対策も急務
第3次補正予算案で、バターなどの乳製品需給安定対策で17億円の予算が計上された。詳細はこれからだが、輸入品との価格差を一部補填する仕組みと見られる。脱脂粉乳は飼料用代替という処理法で有効な需給調整がなされた。しかし、バターについては処理法が限定される。年末年始の生乳廃棄懸念は、業界の自助努力に加え国の姿勢も問われる象徴的な出来事と言っていい。
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