【クローズアップ:緩和に転じる生乳需給】飲用消費振るわず 北海道は猛暑で乳牛ダメージ 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年8月23日
猛暑と長雨。列島を覆う気候変動にコロナ禍も加わり、本来なら逼迫する夏場の生乳需給が緩和基調を強めている。今後の需給動向も一段と先行きが見えない状況だ。
天候不順で需要不振
天候不順、特に西日本の長雨は夏場の飲用牛乳消費に影響を与えた。
Jミルクが19日に発表した最新の需給短信は、特に需要の柱である飲用牛乳の伸び悩みと、脱脂粉乳の原料でもあるヨーグルトの需要不振の継続に懸念を示し、引き続き家庭内消費拡大の重要性を訴えた。
調査会社インテージの直近の牛乳販売個数は前年対比93%と落ち込み、ヨーグルトはドリンク、個食、350~500ミリリットルの家庭用大容量タイプともマイナスが続く。
品目別に過不足割れる
今年の生乳需給見通しを難しくしているのは、天候の急変もあるが、品目的にも過不足がばらついていることだ。ヨーグルトの低迷は、脱粉生産拡大につながり、既に記録的となっている乳製品在庫の積み上げと連動する。バターは巣ごもり需要から家庭用が好調な半面、全体の7割を占める業務用がコロナ禍で低迷したままだ。目に見えるスーパーなどのバター需要はあるように見え、消費者感覚と実際の乳製品在庫とのギャップが広がる一因となる。
一方でJミルクは、目前に迫る9月の学校再開に伴う学校給食用牛乳の安定供給に向け、関係者の準備を呼びかけた。需給緩和下の安定供給。ブレーキとアクセルを同時に踏むような難題を前にし、関係者の危機感が透けて見える。
北海道増産にブレーキ
注目したいのは、増産ペースが高かった北海道にブレーキが掛かり始めたことだ。
月別の中央酪農会議調べの販売乳量は直近の7月で北海道がやや落ち、都府県は猛暑の影響で5カ月ぶりにマイナスに転じた。
7月単月で見る限り、北海道の生乳生産は順調に見える。だが詳細に分析すると全く異なった見通しとなる。ホクレンの受託乳量は、7月上旬こそ前年同期比3.0%増だったが時間を追うごとに伸び率が下がり、下旬には同1.1%増にペースダウン。さらに直近の8月上旬は同0.8%増にまで落ちた。
こうした傾向が、全体需給に今後、どう影響するか見定めが必要だ。
◎2021年販売乳量の推移(前年対比、%)
北海道 都府県 全国
・1月 101.8 99.2 100.7
・2月 98.3 96.7 97.6
・3月 102.2 100.6 101.5
・4月 101.8 100.9 101.4
・5月 102.1 101.1 101.7
・6月 102.6 101.5 102.1
・7月 102.3 99.6 101.2
逼迫9月が様変わり
こうした中で、学乳需要に伴い逼迫する生乳最需要期の9月初めの対応が例年と様変わりしつつある。
Jミルク見通しでは、9月の生乳道外移出は6万7000トンと前年対比5%近い高い数字を挙げた。うちホクレン分は6万トン。北海道の生産量からすれば対応でき、輸送体制も整っている。
だが、今年の盛夏対応はいつもと異なる。例年通り、需要の山は8月下旬から9月上旬までだが、その前後はいつもよりなだらかになる需要曲線を描く。つまりは、需給逼迫時は短期間で終わるということだ。バターに典型的な品目別の過不足は、気候変動、長引くコロナ禍とも合わさり、用途別需給調整を一段と難しくしている。
都府県で需給緩和と生乳廃棄
都府県の生乳生産は読みにくい。首都圏をはじめ東日本で猛暑が戻りつつあるが、西日本は天候不順が続く。
生乳需要は天気と温度の関係で大きくぶれる。晴天で温度が上がれば生産は減り需要は増える。逆に長雨で涼しくなれば生産は増える半面で需要は減る。乳製品在庫拡大の現状からすれば、生産が落ち着き需要拡大することが望ましいが、天候不順は逆の方向で進んでいる。
今は西日本を中心に需給緩和傾向が強い。九州北部では長雨で道路封鎖から集乳ができず、一部に生乳廃棄さえ起きた。長雨から買い物に外出できず牛乳の購入も減っているのが実態だ。
道内の粗飼料不出来と牛体調不良
一方で、全国生乳の6割近い主産地・北海道の先行きに懸念が広がる。
本州の天候不順とは真逆に、例年にない猛暑が続き牛の体に相当の負担がかかっている。先述したように、既に増産ペースの急ブレーキとなって表れているが、食欲低下や受胎不良など夏ばての後遺症が秋口の涼しくなってから出てくるとの懸念も強い。加えて、雨不足から2番牧草やデントコーンなどの粗飼料の出来が悪い地帯も多い。飼料の質量共に問題が出て、その後の乳量に響いてくる可能性もある。
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