【点検・生乳需給悪化】コロナ禍〈非常事態〉宣言 農政ジャーナリスト・伊本克宜2021年10月14日
10月初めのJミルクの最新生乳需給見通しは、業界に改めて乳製品過剰の深刻さを示した。「災害」と同様としてコロナ禍の需給悪化の〈非常事態宣言〉とまで表現した。その背景と今後を〈点検〉する。
■乳製品在庫に危機感
生乳需給は、コロナ禍で業務用需要が回復しない一方で、都府県も含め生産は増産基調で需給ギャップが一段と広がっている。Jミルクの内橋政敏専務は「年末の不需要期に向かい、乳製品過剰がさらに深刻になりかねない」と危機感を強める。コロナ禍の需要不振を「災害」と例え、非常事態とまで表現した理由を説く。
2021年度生乳需給見通し
◎地域別生産見通し 千トン、%
・北海道 4285 103・0
・都府県 3321 101・4
・全国 7606 102・3
◎乳製品在庫 トン
脱脂粉乳 期首81200 期末105400 対策分含 96900
バター 38900 43400 36500
※対策効果分見込みは脱粉が1万トン、バター8000トン
特に深刻なのは脱粉だ。北海道内に大型乳製品工場を持つ雪印メグミルクは「荷が動かず在庫が積み上がり、このままでは置き場がなくなる可能性がある」と懸念する。脱粉の適正在庫は5万トン~6万トン程度。それが期末の年度末には2倍にまで膨らみかねない。
農水省は1日の会見で脱粉過剰の対応策を問われ、飼料用への輸入代替など従来通りの答弁にとどまった。だが、これまでの対応では、今後の生乳生産にも影響が出かねない状況だ。
■バター輸入枠増に違和感
需給緩和の一方で、国家貿易のバター輸入枠は5割増の9500トンに拡大した。ホエイなどの枠をバターに振り替え、乳製品全体の輸入枠は据え置いた。
安価な輸入バターは製菓・製パンを中心に一定の需要があり、入札のたびに競争率が2倍に達していた。だが、乳製品過剰下の中での輸入枠拡大には生産者団体から懸念の声も出ている。ホクレンはプール乳価からキロ2円を財源に独自に脱粉、バター在庫対策を実施している。これには輸入バターとの価格差を一定程度補填(ほてん)し国産需要拡大策も含む。輸入と国産の棲み分けがあるとしても、輸入枠拡大はこうした輸入代替策に影響が及びかねない。国内乳業メーカーなど主要13社の8月末バター在庫は前年比6・7%増で4万トンを突破し過去最高を記録した。
バター輸入を巡っては、かつて家庭用バター不足問題を受け、直近の需給に合せ年2回の見直しなど柔軟に輸入枠を設定できるようにした。20年度はバター輸入枠を1万4000トンの設定し、「国内生乳需給に影響が出かねない」などと指摘された経過もある。現在のバター在庫は20年度の大量輸入の影響もある。
■北海道も「減速」検討
脱粉5万トンの過剰となれば、生乳換算で約33万5000トンに達する。この数字は生産量が比較的小さい広域指定生乳生産者団体一つに相当する。この需給ギャップをどうするのか。
一番大きいのは生乳全体の6割近くを占める北海道の動向だ。ここで浮上しているのが、現行の増産ペースのアクセルをやや押さえることだ。ただ、マイナス生産の「減産」は避け、「減速」とする。今後10年間を見据えた食料・農業・農村基本計画見直しと連動し21年度からの新酪農・肉用牛生産近代化計画(酪肉近)で、北海道は30年度の生乳生産目標を440万トンと定め、増産を進めている。乳製品過剰を踏まえ、同計画にもブレーキがかかりかねない。
■「年末生乳廃棄」に言及
Jミルク需給見通しで、もっとも注視すべきは末尾の「当面の課題と対応」だ。前段の生産や需要の見通しは天候などで上下に振れる。これらを踏まえ、業界全体の問題意識を示したものだ。
今回は異例の長文になった。原案が修正された証しだろう。要はコロナ禍の〈非常事態〉の中で、このままでは年末年始の生乳廃棄の可能性が一段と高まっているとの危機感が読み取れる。
最悪の事態を回避するために、業界一丸で新たな対応の検討が避けられない。むろん国の一層の支援も欠かせない。
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