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【クローズアップ】2024年度畜産酪農政策価格決定 政治的配慮も課題先送り2023年12月25日

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2024年度畜産酪農政策価格・関連対策は、政府・与党の折衝を経て決まった。コスト高止まり、需要低迷、離農加速など「畜酪危機」が続く中、政策価格などで政治的配慮を示す内容だが、多くの課題は実質先送りとなった。生産現場の将来展望は描けていない。 (農政ジャーナリスト・伊本克宜)

乳牛.jpg

「先行指標」の畜酪

今回の畜酪論議が関係者の注目を集めたのは、「畜酪危機」の打開策を探るのはもちろんだが、単なる畜種別の対策がどうなるかなどではない。今後の農政の行方を占う〈先行指標〉としての位置づけがあったためだ。

まず、生産基盤維持と直近のコスト高をどう政策価格に反映するのか。「国産シフト」を強調する食料安全保障、四半世紀ぶりの食料・農業・農村基本法見直し、それに伴う今後10年間の品目別目標生産数量と連動する次期酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)の在り方。「2024物流問題」も絡む加工原料乳の集送乳調整金の算定をどうするのか。

政府・与党の折衝で最終的に残ったのは「補給金」「和子牛」「畜安法」の3点セットだ。加工原料乳補給金単価・総交付対象数量、単年度措置の和子牛補てん事業の扱い、酪農生産現場の不公平感を招いている改正畜安法の運用改善である。

生産者手取りとなる加工原料乳補給金が最終的な焦点となるのはいつものことだ。特に酪農は関係団体が多く、政治力も強い。今回のコスト高止まりを反映し、補給金単価アップは早くから決まっており具体的な上げ幅が問題となった。また財政事情が厳しい中で、単価アップの場合はかつての限度数量である総交付数量を一定程度削減することで、財政規模を抑えることを財政当局は強く求めた。脱脂粉乳過剰による生乳需給緩和が交付数量削減の根拠だ。

令和6年度の加工原料乳生産者補給金及び集送乳調整金の単価並びに総交付対象数量について

畜産では、単年度措置の和子牛補てん事業の存続が課題となった。結果的に「優良和子牛生産推進緊急交付事業」として衣替えしながら継続した。通常、予算で「緊急」と銘打つ場合は単年度措置で、継続するのには事業名と内容を多少変更する。今回はその典型だ。

改正畜安法見直しは、根が深い。酪農制度改革は、安倍政権下の官邸主導農政の中で、JA全中の農協法外し、JA全農事業改革論議などとともに法改正が行われた。つまりは安倍官邸農政の悪しき〈残滓〉と言える。

改正畜安法は、暫定法だった加工原料乳補給金制度などを廃止し畜安法に組み込むことで進めたが、問題は指定団体の生乳一元集荷・多元販売、生乳無条件委託を廃止したことだ。つまりは流通自由化だ。酪農家は出荷先を自由に選び、複数の「二股出荷」も可能となる。

同問題は与党内の議論や政策価格・関連対策を話し合う農水省の食料・農業・農村政策審議会畜産部会でも大きな議題になった。結果的に、「二股出荷」などで生乳出荷量変更に期限を設け指定団体が受託拒否できる省令改正などを検討することになった。ただ、無条件委託がなくなった指定団体は、組合間の公平な対応など公正取引委員会の監視も受ける。省令改正では小手先の見直しで限界にきている。

北海道増産の配慮も

毎年、最終局面まで難航する酪農の補給金単価と総交付対象数量の扱い。P(単価)×Q(数量)=総額の計算で、財政規模と直結するからだ。今回の決定は、別の要因も配慮した。生乳全体の約6割を占める北海道が2024年度生産量を前年度計画対比1%増の403万トンに決めた。これまでの生産抑制型からの転換だ。大型酪農家の多い北海道は、生産抑制が経営収支に響く構造だ。脱粉過剰対策をしつつ不足も懸念されるバターの安定供給にも対応する水準とした。

こうした中で、24年度総交付対象数量は325万トンと前年度5万トン削減したものの、農畜産業振興機構(ALIC)事業で別途、18万トンを手当てし、5万トン削減分を実質的に救済した。

これまでにも増して政治的配慮となった今回の畜酪を政治力学から見よう。畜酪論議は白と赤のせめぎ合い、あるいは有力産地を抱える北海道と南九州選出の国会議員の力量が問われる結果となる。「白と赤」とは牛乳(酪農=北海道)と肉(肉牛=九州)を象徴する。この視点で見ると、やはり有力農林議員がそろう九州勢の「突出」が目立つ。

その影響は、単年度事業だった和子牛補てん事業の継続。さらに、価格が下がった時の補てん基準となる肉用子牛の保証基準価格は、黒毛和種で1頭当たり56万4000円となり、現行55万6000円から一挙に8000円も上がり関係者の間で驚きの声も出た。引き上げは想定されたが55万円台と見る向きが多かったからだ。

令和6年度の肉用子牛の保証基準価格等について

酪農も、本来の北海道選出国会議員の働きかけに加え、自民党の江藤拓農林調査会長の「これ以上酪農家が減っては問題だ。補給等総額でも前年を上回る水準を確保したい」との強力な一言が財政当局を動かしたともされる。最終的に補給金等で377億円と現行を2億8000万円上回った。江藤氏は衆院宮崎2区選出だ。

農政全般を取り仕切るのは自民農林最重鎮の森山裕党総務会長(衆院鹿児島4区)。食料安保をライフワークにし基本法見直しでは、「森山カレンダー」と称される日程表に基づいて具体化が着実に進む。むろん、畜酪決定でも絶大な力を発揮した。

(画像)
01:イメージ画像 牛
02、03 Excelの表

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