【クローズアップ】畜酪政策価格・関連対策論議が本格化 酪農1万戸割れ、離農加速に危機感(1)2024年12月16日
政府・与党は、2025年度畜産酪農政策価格・関連対策の論議が本格化している。指定団体受託酪農家戸数が1万戸大台割れとなる中で、全畜種で戸数減が加速している危機的状況だ。生産基盤維持を維持しコスト高止まりをどう政策価格に反映させ、関連対策で支援するかが最大焦点となる。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
酪農1万戸割れを受け経営危機を都心で訴える全国の酪農家ら(12月2日、東京・JR有楽町駅前で)
■畜産は食料安保、防衛も担う
13日の自民畜酪対策委員会で、25日前後に決まる2025年度畜酪政策価格・関連対策で、さまざまな具体的な意見、提案が出た。ここで、いわば〈畜産国土防衛論〉ともいえる指摘に注目したい。
畜産・酪農は中山間地をはじめ条件不利地、限界地での農業生産も担い、貴重な栄養源を提供している。草地利用、鳥獣被害軽減にも役立つ。ふん尿は堆肥として周辺の耕種農家との連携で土づくり、産地の生産力向上にも貢献するなど、多様な役割を担う。加工原料乳補給金は、前年度単価をもとに直近の物価修正の「変動率方式」で算定するなどルールが決まっている。しかし数値以外の役割、社会的な貢献度をどう評価し関連対策で支援するかも重要な視点だ。
こうした中で、北海道、南九州などの出席議員から畜産・酪農と国境隣接地帯で地域経済を守る重要産業の位置づけにも注目すべきとの意見だ。北海道では根室、稚内など国境隣接地域で草地酪農が盛んだ。沖縄、鹿児島の離島ではサトウキビ作付けもない離島で肉牛生産が地域の主力となっている。どちらも食料安保の確保以外に、ロシア、中国などとの安全保障上でも重要な地域で経営を営む貴重な産業だ。
■全畜種戸数減で揺らぐ基盤
畜産は生産者のほかに、飼料、運送、食品など関連業界が多く、浮沈は地域経済に大きな影響を与える。13日の2025年度畜酪政策論議の事実上のキックオフとなった自民畜酪対策委員会で農水省による「畜産をめぐる情勢」説明で、あらためて離農の加速が浮き彫りとなった。
特に「めぐる情勢」で注目すべきは戸数減少率、つまり離農率。2024年は前年対比5・6%減と5年間で最も高い。一方で、乳用牛(成畜)50頭以上のシェアは46・8%と大規模化が進んでいる。それでも飼養頭数は131万3000頭で前年対比3・2%減、この1年間で4万3000頭も減った。離農加速が既存農家の規模拡大で補えない状態に陥ってきた。
離農加速は肉用牛も同じ。肉牛飼養戸数は2024年に3万6500戸で前年対比5・4%減と、この5年間で初めて離農率が5%台に上がった。24年は飼養頭数267万2000頭で前年よりも1万5000頭のマイナスに落ち込んだ。特に深刻なのが中小、家族経営が多い子牛生産・育成の繁殖農家だ。
24年は3万1800戸と3万戸の大台割れ目前となった。この1年間で繁殖肉牛農家は2000戸減っており、25年は3万戸割れが避けられないとの見方が強い。養豚も24年3130戸で前年対比7・1%減少と、高い比率で離農が加速している。この1年間で250戸減っており、趨勢から見ると3000戸の大台割れが濃厚だ。
こうした全畜種の離農加速は生産基盤の弱体化に直結する。今後の畜酪政策論議でも政策価格のほかに基盤維持、経営支援の具体的な対応が問われる。
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