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畜産部会で酪肉近構成案 生乳「現状維持」、需給や飼料なお課題2025年1月29日

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農水省は28日、食料・農業・農村政策審議会畜産部会を開き、次期酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近))の構成案を示した。焦点の一つ、生乳生産目標は「現状維持」とした一方、実効性のある生乳需給調整、経営安定対策、自給飼料転換の具体化ではなお多くの課題を残す。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)

28日の畜産部会で次期酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近))の構成案が示された28日の畜産部会で次期酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近))の構成案が示された

■5年後目標に変更

構成案で示した次期酪肉近で大きな変更点は、これまで10年後の生産目標数量を示してきたが、今回は5年後(2030年度)に短縮したことだ。

改正基本法を踏まえ、現在、企画部会で新基本計画を論議中だが、それと整合性を持たせた。

そこで、次期酪肉近で焦点の一つ、生産目標数量は5年後の2030年度に生乳、牛肉いずれも「現状の生産量並み」として、事実上の現状維持の考えを示した。

■現場混乱防ぐ「現状維持」

次期酪肉近では、脱粉過剰が深刻な生乳目標の下方修正があるのかが大きな焦点となっていた。北海道など主産地からは「国が減産目標を示せば酪農現場の生産意欲を損ないかねない」などの声が相次いでいた。

今回の5年後目標の「現状維持」は、農水省が生産現場の混乱を防ぐことを重視した表れだ。また、後継牛の減少の一方で機能性重視のヨーグルト需要の高まりなど、今後の生産と需要が読みにくい中で、とりあえず「現状維持」の現実路線を選択したとも言える。

新たな酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針(構成案の全体像)

新たな酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針(構成案の全体像)

■生産意欲損なわない長期目標を

次期酪肉近構成案を俯瞰(ふかん)しよう。情勢変化、酪肉の対応方向、目指す方向性を示した。目指す方向性は四つ。この中でも需給ギャップ解消と輸入飼料依存度の低減は特に重要な課題となる。

◎次期酪肉近構成案

◇情勢変化
・生乳、牛肉の需給緩和、在庫拡大や価格低下・生産コストの上昇、高止まり・環境重視、持続可能な生産求められる

◇対応方向

〇生乳
・牛乳・脱粉の需要拡大・ソフト系国産ナチュラルチーズの競争力強化・生乳年間安定取引の規律強化・全国的な生乳需給調整対応

〇牛肉
・輸出拡大・需要に応じた牛肉の供給維持・脂肪の「量」から「質」への転換

〇飼料
・粗飼料中心とした国産飼料の優位性を向上

◇目指す4方向性
・需給ギャップの解消・生産コストの低減、生産性向上・国産飼料拡大を通じた輸入飼料依存度の低減・環境負荷低減の畜酪推進

5年後目標と合わせ、畜産は生産に時間がかかり家畜改良増殖目標も10年後を想定していることから、長期的に目指す姿も示す。従来通り10年後目標と見られる。

10年後の「長期的な姿」は、生乳では需要拡大の進捗(しんちょく)を踏まえ「現行酪肉近の目標数量並み」を目指すことを検討とした。牛肉は、輸出拡大などの進捗を踏まえ「現状の生産量をやや上回る水準」を検討とした。ただ、牛肉生産の「礎」となる肝心の繁殖経営の離農が加速していることから、牛肉供給増大が現実的かは疑問視する声もある。

当日の畜産部会でJA全中の馬場利彦専務は「長期的な姿」に関連し「生産現場の意欲を損なわないよう求めたい」と指摘。あわせて国産飼料対応で「粗飼料中心としているが、子実用トウモロコシ、飼料用米の振興で濃厚飼料も少しでも国産転換を促すべきだ」と注文を出した。

■「具体策なし」需給通じた経営安定対策

5年後、10年後の畜酪振興で、大きな課題は実効性のある需給対策とその政策的支援の拡充だ。特に酪農は流通自由化を断行した改正畜安法制定以降、需給調整機能が極めて脆弱(ぜいじゃく)化している。次期酪肉近構成案では、その具体策が一向に見えてこない。

畜産部会でJA北海道中央会の小椋茂敏副会長は、酪肉近を改正する際には、経営や需給の安定に向けた対策の検証が欠かせないとして、検証の時期を明示するように求めた。改正畜安法の「欠陥」を踏まえ、酪農農経営の安定に直結する生乳需給安定へ、非系統を含めた全国参加型需給調整実施への国の関与強化を示唆したものだ。それには、現在の運用改善など規律強化を超えた改正畜安法そのものの抜本的な法改正も視野に入れる段階だが、構成案はそこまで踏み込んでいない。

■輸入依存と子実トウモロコシ

次期酪肉近の構成案でも、畜酪経営の根幹である飼料問題を重要な柱と位置付けている。飼料代は経営コストの5割前後を占め、これをどう減らし、経営体質強化を進めていくかは今後の畜酪経営の生命線と言ってもいい。

この中で、改めて驚くべき数字に注目したい。濃厚飼料の自給率がわずか13%だ。これは奇妙な一致だが、現在の国会論議でも経済安全保障関連でたびたび指摘されるエネルギー国内自給率13%と同じ。わずか1割強という数字がいかに安全保障上危険で薄氷にのっている状態かは、畜酪経営でも同じだ。

持続可能な畜酪経営には、飼料の自給をいかに高めていくかが重要だ。畜産部会でも国産飼料の振興、飼料自給率の引き上げでは認識が一致した。先進国でも韓国などに次いで低い飼料自給率27%の内訳は、粗飼料自給が80%ある半面、肝心の濃厚飼料自給率は13%と異常な低さを示す。

次期酪肉近では飼料自給率の目標値も設定する。現行酪肉近の2030年度目標では飼料自給率34%、うち粗飼料100%、濃厚飼料は15%を掲げている。濃厚飼料の自給は現状維持が精いっぱいで増やすことは難しいとの政策判断からだ。

この農水省の認識は、畜産部会での次期酪肉近論議でも変化はない。ポイントはいかに国産トウモロコシを増産するかだろう。具体的には、農水省が強調する良質粗飼料原料の青刈りトウモロコシばかりでなく、全農が宮城県のJA古川などで進める子実用トウモロコシの官民挙げた増産を通じた濃厚飼料の自給率大幅アップが問われる。

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