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【次期酪肉近本文案】酪農拡大路線を転換 生乳目標732万トン据え置き2025年3月19日

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農水省は3月17日、食料・農業・農村政策審議会畜産部会に次期酪農肉用牛近代化基本方針(酪肉近)を示した。焦点の5年後の生乳生産数量目標は、732万トンと現行水準に据え置いた。だが、現行酪肉近2030年度目標780万トンに比べ50万トン近い減少となる。需給緩和を踏まえた一方で、北海道は増産とした。本文案の概要と背景を読み解く。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)

3月17日の食料・農業・農村政策審議会畜産部会3月17日の食料・農業・農村政策審議会畜産部会

■副題「変革の時代切り拓く新ビジョン」

2030年度までの次期酪肉近の副題は「変革の時代を切り拓(ひら)く新ビジョン」。
今後5年間を射程に、「変革の時代」をどう乗り切るのかという「前向きのビジョン」を盛り込んだと、農水省では強調している。果たしてどうだろうか。

繰り返すのが「需要に応じた生産」だ。それだけ、生乳と牛肉は需給緩和が「重し」となっている表れでもある。

本文案では今後の酪農経営安定に「生乳1キロ当たりの収支を最大化すべき」と明記した。乳価を基本に「総合的な経営力」を促す。

具体的には、生産性向上や経営高度化を図りつつ、国産飼料など経営資源に見合った安定的な経営体の実現が、持続可能な経営につながると指摘。①経営資源に見合った生産規模②酪農家自らの経営分析・改善の推進③多様な経営体の増加――などを政策的に推し進める。

持続的な畜酪には「総合的な経営力」を備え、規模に偏らない収益性で堅実な経営を目指す。つまりは「自助努力」と「自己研鑽」が最重要とした。一方で、食料安保強化のためには、国産農畜産物の安定供給が欠かせない。個別農家の収益性向上とともに、地域全体としての生産者の維持・生産量の確保も重要で、そこに政策的支援の必要性がある。「自助努力」が前面に出ているが、政策面での「国の責務」とのバランスが問われる。加工原料乳ナラシ対策拡充にも触れたが、経営支援への効果は不透明だ。

■アキレス腱と畜安法

次期酪肉近で、関係者から何度も指摘されてきたのが、日本農業最大のアキレス腱とされる輸入飼料依存の加工型畜産の転換と、流通自由化で生乳需給調整機能が弱体化した改正畜安法の是正、抜本的な見直しだ。

本文案では、国産飼料の生産・利用拡大を前面に出した。だが、青刈りトウモロコシを中心とした粗飼料生産拡大に記述が集中し、子実用トウモロコシなど輸入依存が著しいトウモロコシ代替への政策的決意が見当たらない。

改正畜安法の是正は「一歩前進」と評価していい。主要補助事業とセットで全酪農家への生乳需給参加を促す仕組みを提示した。ただ、指定団体経由の生乳が先細り、非系統の流通が拡大する傾向は変わらず、引き続き「需給調整」を担保とした改正畜安法の見直しが求められる。

■四つの「目指す方向」

目指す方向は四つ。特に畜酪経営の安定、持続可能な生産のために、需要拡大の重要性を説いた。

◇目指す方向
・需要に応じた生産
・従来生産手法の見直しを含むコスト低減、生産性向上
・国産飼料拡大を通じた輸入飼料依存度の低減
・環境負荷軽減の推進

目指す方向のうち、最も強調しているのが「需要に応じた生産」。生産者団体、関係業界、行政が一体でいかに生乳、牛肉の需要を拡大し、需給不均衡の現状を乗り切っていくのかが最重要課題としている。

2030年度目標の次期酪肉近は、今後の生産拡大を射程に据えた「足踏み期」とも言える。生産基盤と飼養戸数を出来るだけ維持しながら、この変革期をどう乗り切るか、という問題意識だ。

■乳vs肉、あるいは北海道vs九州

次期酪肉近論議で、限られた予算の中で全体の構図を見ると、酪農と肉牛の政治的配慮に微妙な差があるとも指摘できる。言い換えれば、酪農主産地・北海道と肉牛主産地・南九州との政治力の差が反映されている、との指摘もある。

30年度の生乳生産数量目標は、現行計画の780万トンを求める意見が自民党、農業団体、乳業メーカーでも強かった。結果は現状の生産ベースの732万トンに落ち着いた。酪農家の1万戸割れ、特に都府県の地盤沈下を踏まえた。

一方で牛肉は生産量36万トン(部分肉換算)と現行の35万トンよりわずかだが増産とした。酪農は現行780万トンからの大幅な「減産」、肉牛は「微増」。この差は、需給状況と言えばそうだが、政治情勢も見る必要がある。

自民党畜酪委員会でも鈴木貴子氏など北海道選出国会議員の意見は出たが、以前のような大物農林議員はあまり見当たらない。半面、南九州は農林幹部の「ツートップ」森山裕自民党幹事長、江藤拓農相が党、農林水産行政の最重要ポストに就くなど、北海道と九州の政治力の差が歴然としているのは事実だ。農水省がこうした実情を考量したこともあるかもしれない。酪肉近を政治的文脈であらためて深読みすることも欠かせない。

■北海道と都府県の「連立方程式」

酪肉近で生乳生産は、現行780万トンの「堅持」を畜産部会で全中も北海道中央会も再三にわたって求めてきた。だが、本文案では732万トンと現在の生産水準に据え置いた。780万トンと比べれば50万トン近い大幅な減産目標となる。

これを生産現場はどう受け止めればいいのか。ここで農水省は用意周到の仕掛けをしている。畜産部会で同時に出した「生乳生産予測」である。北海道の増産基調と都府県の急激が減産のデータがはっきりわかる。そこで、農水省はある「連立方程式」を想定した。全体は前条の生産水準のとどまるものの、北海道は増産とすることで、北海道の酪農家に最大限の配慮を示した。また、参考値としながら概ね10年程度(2035年度)の「長期的な姿」として現行酪肉近目標と同様の780万トンを明記したのだ。

それにしても、30年度に732万トン、35年度に780万トンと5年間で48万トンを増やすのは事実上難しいのは明らかだ。農水省は関係者挙げて飲用牛乳、過剰が深刻な脱脂粉乳の「需要」を底上げしていけば、将来的に780万トンの姿が近づいてくると説明した。逆に言えば、需要拡大が難しければ、縮小生産もあり得るということだ。

【次期酪肉近本文案】酪農拡大路線を転換 生乳目標732万トン据え置き

■都府県、衝撃の300万トン割れ

「生乳予測」でショッキングなのは、北海道は増産傾向が続くとしたものの、都府県の減産には歯止めがかからず、むしろ減産が加速することだ。

5年後には300万トン割れの衝撃的な数字が濃厚となっている。この場合、現在、北海道と都府県の生乳シェアはほぼ6対4だが、5年後は北海道が全体の約7割を占める。北海道に生乳生産が偏在化することは、リスク分散からも、酪農の果たす社会的役割からいっても決して好ましいことではない。今後とも、北海道と都府県酪農の均衡発展が問われる。農水省の酪農政策も北海道と本州のバランスある酪農振興が重要となる。

■国産飼料転換は「換骨奪胎」

次期酪肉近は、国産飼料重視を打ち出したものの、内実は腰が引けていると言っていい。これでは畜酪生産コストの5割前後を占める飼料代引き下げの実現が危ぶまれる。

飼料は2030年度目標で飼料自給率28%、飼料作物の作付面積101万ヘクタールとした。現状の飼料自給率から見れば1ポイントの上げとなる。だが、現行の酪肉近目標34%と比べれば、6ポイントもの引き下げだ。飼料作物を増産するまとまった農地があるのか、作り手はいるのかなど現実問題として、国産飼料増産には難題がつきまとう。農水省はKPI検証もあり実現可能な数字として飼料自給率28%を明記したとした。やはり主力は青刈りトウモロコシを柱とした粗飼料自給の引き上げだろう。

畜産部会では、以前から飼料問題に絡め「飼料問題は食料安保の非常に大きな問題だ。飼料用米振興などのはしごを外すような書きぶりにならないようにしてもらいたい」など、疑問が投げかけられた。農水省の記述が、粗飼料自給率の向上、特に青刈りトウモロコシ振興のみ明記していることへの指摘だ。

確かに、青刈りトウモロコシは、面積当たりの生産性が高く、まとまった作付け、生産すればコスト低下につながり、飼料自給率アップには適している。だが、生産者委員からは「青刈りトウモロコシの一本足にはリスクがある」ともの指摘も強かった。本文案では青刈りトウモロコシに加え、濃厚飼料代替の役割も果たす飼料用稲、子実用トウモロコシの振興も明記された。ただその具体策も今後の検討にとどまっている。

課題は、リスク分散をはかるためにも多様な自給飼料の生産と、粗飼料ばかりでなく輸入依存が著しい配合飼料代替の自給濃厚飼料割合をどう高めるかだ。

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