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水田フル活用で所得確保実現 飼料用米でシンポ2014年11月21日

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JA全中生産振興はかる

 JA全中は飼料用米の生産拡大による水田フル活用をめざして11月11日、「飼料用米生産振興シンポジウム」を東京都内で開いた。飼料用米に取り組む先進的なJAの取り組みのほか、JA全農の新たな取り組みの紹介や関係者によるパネルディスカッションを通じて生産現場における課題やその解決方向などを議論し認識を深めた。

支援策の継続が重点課題

◆水田農業の持続を

  主食用米の需要は少子高齢化と食生活の多様化で年間約8万tづつ減少している。米の消費拡大対策は重要だが、主食用米生産だけでは経営が成り立たない事態に直面しており、飼料用米をはじめとして非主食用米の生産拡大が課題となっている。
 JA全中の大西茂志常務は主催者あいさつで「わが国が誇る水田農業を次代につないでいくために主食用以外へと意識を転換する必要がある」と強調し、そのために大きな需要が期待される飼料用米に「中長期的な視点で向き合ってほしい」と呼びかけJAグループとして現場の課題解決や支援に全力をあげることを強調した。

 JAグループあげての取り組みのひとつが27年産からのJA全農の新たな取り組みだ。シンポジウムではJA全農米穀部の大貝浩平部長が今年産の約3倍となる60万tの生産振興目標実現に向けた方針を報告。米価下落による打撃が大きい担い手・大規模経営体を中心に積極的に生産提案し、全農による直接買取方式を導入する。 

 27年産は作り慣れた主食用品種での生産拡大を推奨する。買取で生産者の価格リスクを負担し、飼料事業部門と連動して畜産現場にもしっかりと供給していく。大貝部長は「飼料用米でも所得を確保、結果として主食用の需給も均衡するといった水田農業が確実に維持される道筋もつくりたい」と強調した。
 また、農林水産省農産部穀物課の鈴木良典課長も飼料用米の生産・利用拡大に向けた政策支援などについて解説した。

◆飼料用米にメリット

 課題提起とパネルディスカッションのコーディネターを務めた吉田宣夫・山形大学教授は飼料用米の需要は90万ha以上あるとして、各地の畜産部門とのマッチングが今後の課題だと指摘しながらも「飼料用米は政策大転換の事業。水田生産力の維持と食料安保の観点から不可欠。着実な拡大のため継続的な助成制度を岩盤政策とすべきだ」と提起した。
 パネルディスカッションは飼料用米の生産や流通などの課題を話し合った。
 栃木県農協青年部連盟の横尾光広委員長は黒毛和牛130頭の肥育のほか、自作地で8haの水田も経営。そのうち4haは飼料用米を作付けている。また作業受託でワラの確保も。
 飼料用米に取り組む意義について横尾委員長は「所得確保がいちばん」と強調した。銘柄米を作ってきたという誇りがあり、家族には抵抗もあったが、助成など飼料用米のメリットが理解されてきたという。
 農家所得については岩手県農林水産部の星野圭樹・水田農業課長が最近の米価をふまえた県での試算値を示した。それよると主食用米では米の販売収入に加えて直接交付金やナラシ交付金を見込むと10aあたり10万5000円程度だという。一方、飼料用米では現状の主食単収を元にした数量払い交付金が8万4000円程度だとしても、販売収入や耕畜連携助成などを加えると11万円は超えるという。さらに多収性専用品種に取り組めばその助成が加わることからもっと所得は増えることを指摘した。

 JAいずもの岡田達文常務は大豆、麦の転作では収量が上がらず不作付地も出てきたなかで、飼料用米の取り組みは水田農業の維持に大きな成果を上げていることを強調した。生産者・産地にとって農機や施設をそのまま活用できるメリットも大きい。
 同JAでは養鶏、養豚部門などとも連携し飼料用米を使った畜産物の販売も積極的に行っている。 配合飼料を供給する立場のJA全農北日本くみあい飼料業務部の中村伊三雄次長は飼料用米の取り組みについて「消費者に“国産”農産物への意識を高めるという意義がある」と強調した。

◆政策の継続性不可欠

 飼料用米の生産を拡大するには横尾氏は「米づくり」と「飼料づくり」を、いわば意識のうえで割り切って生産することがコスト削減につながることも指摘した。ただ、生産者としての最大の課題は「いつまで続く政策か、そこがいちばん不安」と強調する。将来に水田農業をつなげていく方向であることが国の政策としても明確であれば「準備すべき機材や水田管理の方向性もはっきりする」。そのためは畜産部門での飼料用米の評価や、需給見通しなども示す必要があるとの指摘も出た。 北日本くみあい飼料の中村次長は、全農の研究部門とも連携し輸入穀物代替との問題がないことは常に確認しながら配合飼料を製造しているとし、「外国のトウモロコシより日本の米を使った畜産物を」というイメージを戦略的に打ち出すことも必要だとの提起もあった。
 また、課題のひとつが飼料用米の保管。JAいずもの岡田常務は全量JAで保管・乾燥し出荷することで養鶏農家などへの配送と、畜産物の地産地消も実現しているという成果を上げながらも、今後、生産拡大していった場合の保管倉庫の問題やコスト負担のあり方が課題になると話す。とくに主食用米の作付けは年々減らすことになることから、飼料用米とのコンタミを防ぐ保管・管理が問題になるという。同時に飼料用米の配合割合を高めた場合の畜産物の食味評価といった研究成果も、使用量と保管問題に影響すると岡田常務は指摘した。
 北日本くみあい飼料の中村次長も「使用量が増えれば年間を通した保管について倉庫業者との連携した取り組みも必要になる」と話したほか、物流自体も米産地から配合飼料工場のある沿岸部へ、とこれまでになかったモノの流れを考えていく必要も指摘した。

◆水田農業は国民的課題

 課題は多いものの、今後の飼料用米生産の拡大に向けては横尾氏は「まだ生産者の経営にとってのイメージが進展していない。モデルケースとなって取り組み、関係者で周知徹底させていきたい」と話した。岡田常務は米の生産調整政策全体として維持することが必要で、産地も需要に応じた米生産に取り組むべきと話す。ただし、主食用米価格の下落は、言うまでもなく経営に打撃を与えることになることから、「所得補てん政策」はしっかり確立させることが必要で、水田農業の活性化が農村地域の活性化につながる視点が忘れられてはならないのではと強調した。
 ディスカッションを受けて吉田教授は「穀物全体の生産構造の変化と捉えて、地域でうまく組み合わせていくことが重要」と指摘した。
 飼料用米の取り組みは生産者の所得と持続的な水田農業のために重要な取り組みだが▽飼料と畜産部門での研究の進展による消費者理解・支持の促進、▽地域内での耕種部門・畜産部門が連携したクラスターづくりによる定着・拡大なども課題とされた。
 そのうえで主食用米も含め水田のフル活用に向けた取り組みと政策構築は「国民的課題として受け止めるべき」とシンポジウムでは強調された。


【事例報告1】
県内需要は4900ha
期待高まる飼料用米

星野圭樹・岩手県農林水産部農産園芸課水田農業課長

 岩手県では26年産の飼料用米作付け面積は昨年より400ha増えて2035haとなった。県が25年度に実施した調査の結果では県内需要量(畜産経営体と飼料会社)は約2万6000tで面積換算では4900haあることが分かり、県ではこの調査結果を各地の地域農業再生協議会に提供して、高い需要が期待できることから農家と実需者のマッチングを支援しているという。
 県としても「岩手県元気な地域農業推進本部」に飼料用米の生産対策WGを設置するなど推進をはかっている。
 主食用米の生産販売戦略にも力を入れるが、主食用の需給動向や飼料用米需要をふまえ、さらに飼料用米への転換を進める。星野課長は課題として▽単収向上に向けた多収性専用品種の種子増産と栽培技術の普及、▽主食用米とのコンタミを防止するための作付け団地化、▽農協ごとの乾燥・調製・保管施設の利用調整などを挙げ、JAグループと連携して取り組むことが必要だと指摘した。

【事例報告2】
地域活性化に貢献
JAが連携の軸に

岡田達文・JAいずも常務理事

 JAいずもでは平成19年の試験栽培10aから取り組みを始めた。JAや行政、畜産生産者部会などで連携して飼料用米利活用研究会を立ち上げるなど取り組みも進めて、20年産6.6haが26年産では351haと増加、50倍もの作付け面積となっている。
 岡田常務は耕種農家側にとっては不作付け地の解消と所得の確保、作業分散というメリットがあり、畜産農家側にとっては「飼料の安全性確保と地産地消」という面と畜産物の付加価値創造(こめたまご、まい米牛などを商品化)というメリットを挙げる。地域の米を飼料に活用することで現在は8?10億円規模の飼料代が地域経済に回っているという。
 また、生協とも連携した畜産物の販売により消費者への安心・安全の提供と地域農業への理解にも貢献している。
 コスト低減に向けて養鶏農家では籾米給餌への切り換えも実現した。
 そのため耕種農家では飼料用米は「籾すり」する労力が不要となったほか、養鶏農家では籾に含まれるミネラルなど有効成分による生育効果も期待されている。
 また、いち早く鉄コーティング種子による直播栽培にも取り組み、鉄コーティング種子は近隣JAにも販売しているという。この間に飼料用米の受け入れ体制も整備、3機のカントリーエレベーター施設で最大貯蔵2400tの能力を備え、JAグループの飼料会社と連携して飼料用米の生産・流通から畜産農家への供給、さらにJA店舗や生協と連携した畜産物販売まで一貫した事業展開にJAが力を発揮している。
 今後は多収性品種の栽培技術確立や、牛への飼料用米利用拡大などが課題だが、岡田常務は「耕種と畜産、そして消費者の連携をJAがコーディネートすることで地域の活性化につなげていく」と強調していた。


【事例報告3】
牛での使用増加が課題
安定・継続した生産へ

中村伊三雄・JA全農北日本くみあい飼料飼料業務部次長

 JA北日本くみあい飼料の飼料用米利用の状況と課題を中村次長が報告した。東北6県で飼料用米の4割程度を生産しており、同社は全農飼料畜産中央研究所の試験結果や生産現場との了解を得て現在約140品目で飼料用米を使っているという。畜種別では養豚が6割、養鶏が3割の飼料用米使用比率のため、牛での使用増大を課題としている。そのため圧ペン玄米など加工技術によって肉牛用配合飼料での代替化を図っているという。
 また、物流面での課題は▽バラ受入を基本とした低コスト物流体制の整備、▽通年利用のための保管施設の整備などのほか、米は一年一作のため「飼料用米備蓄制度」の検討も必要ではないかと中村次長は指摘した。一方、製造面では産地別分別管理が増えると原料タンクが不足するため、既存の設備で対応できるよう飼料用米産地の包括化も必要だという。米生産者が飼料用米を安定して生産し続けることをはじめ、畜産農家も継続して飼料用米を活用できるようにするには、流通・保管、飼料製造など各段階での課題を関係者それぞれが検討するとともに、政策支援も重要になると指摘した。

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