地域を支え支えられ 酪農家が先進経営を発信2015年10月1日
優秀な酪農経営者を表彰し、その経営内容と技術を広く関係者に発信し酪農経営の発展に役立てようとJA全農が開催している全農酪農経営体験発表会が9月25日に東京都内で開かれた。33回を迎えたこの発表会では全国から6名が先進的な取り組みを発表した。
◆意欲あふれる酪農家たち
酪農をめぐる状況は、今年度は生乳生産がやや回復基調となっているものの、後継者や新規就農者の確保、労働力不足、さらに生産資材価格の高騰など、酪農生産基盤の強化が大きな課題となっている。
主催者あいさつでJA全農の小原良教常務は日本の酪農発展のための体験発表会の意義を強調するとともに全農として「中央酪農会議と連携、酪農の実態を消費者に理解してもらうとともに、牛乳の消費を喚起する取り組みを一層強化するとともに、生乳の手取り乳代金の維持、向上のため生乳の広域需給調整を的確に行うとともに、牛乳、液状乳製品などの需要拡大も強力に進めていく」、「繁殖成績の改善、生産寿命の延長など、労働負担の軽減を図る技術開発にも取り組み、酪農家の期待に応えたい」と話した。
最優秀賞に選ばれたのは北海道猿払村の小川学さん。「地域が支え地域を支える担い手として」と題して発表した。
小川さんは後継者でありながらTMRセンター(浅茅野システムレボ)の従業員を経て、自らの経営理念に基づいて新規就農した。審査委員長の小林信一日大生物資源学科教授は「自主創造の気風にあふれている」と評価した。
経産牛88頭の酪農専業。牛の能力を最大限発揮させるため基本的な牛の観察、牛舎環境の維持、牧場管理システムや乳質検定などのデータを活用し生産性を上げ高収益を上げている。乳量は1万キロリットル台。乳質も脂肪率4.05%、無脂固形分率8.90%、体細胞数1万前後の成果。飼料生産はすべてTMRセンターに委託し、搾乳ロボットを導入するなど搾乳部門に投資と労働力を集中しめりはりのある経営を行っている。
小林委員長は「地域が酪農家を育てるという点でJAひがし宗谷などの力も選定の大きなポイントになった」と指摘した。
小川さんは「地域が支えてくれて今の私がいます。今後、みなさんが支えてくれたように後輩たちを支える立場になりたいと思っています」と語った。小川さんは宗谷地区農協青年部協議会の副会長を努め、青年部活動を通じて後輩指導にも意欲的に取り組んでいる。
農林水産大臣賞、農畜産業振興機構理事長賞、全農会長賞が贈られ、第55回農林水産祭の参加作品として選定された。
(写真左から)全農の小原常務、最優秀賞の小川さん夫妻、審査委員長の小林・日大教授
◆困難はねのけ地域貢献
特別賞には奈良県奈良市の植村牧場の黒瀬礼子さんと福島県新地町の水戸崇宏さんが選ばれた。
植村牧場は明治16年創業。黒瀬さんは「こつこつ身を粉にして働くこと」という祖父の教えを守って酪農を続けてきた。都市近郊という立地を活かして宅配牛乳、アイスクリーム製造、地場産の農産物を使った加工製品やレストランも経営。「6次化の先駆け」に取り組んできた。障害者も雇用し長年にわたって生活も含めて支援している。地域の農家とのたい肥交換を通じた環境対策や酪農教育ファーム活動にも積極的に加わっており、「経済を超えたまさに多面的機能を発現して地域の住民と協調、調和する姿勢を貫いて地域に存在感を見せている」と評価された。
福島県の水戸さんはカウコンフォートに配慮した牛群管理を追求。原発事故という困難のなかで堅実な経営を行っている。飼料は毎日配送される新鮮な飼料の活用による省力化、外部委託による後継牛の確保で経営を継続してきた。新技術も積極的な活用し、その結果、頭あたり乳量1万キロリットルを実現している。「原発事故という困難な状況のなかでこれまで酪農経営を継続させ、さらにカウコンフォートに配慮するという前向きな姿勢」が評価された。
(写真)6人の発表者みなさん
◆耕種農家との連携も
そのほか優秀賞は次のとおり。
熊本県菊池市の藤本保美さんは「すこやかファーム」の看板のもとに夫妻が力を合わせて経営をしている。審査員からは「これぞ家族経営の原点」と評価された。とくに評価されたのはコンポストバーンを柱として牛がリラックスできる飼養方法や、TMRの自己調製で乳質の改善に努めている点なども評価された。
高知県南国市の濱口雄一さんは、牛舎が住宅に囲まれているという立地のなかで、精力的に飼料作付け面積を増やし乳飼率の改善に努め高い乳量を確保や小中学校などを酪農体験に積極的に招いていることが評価された。
神奈川県伊勢原市の石田陽一さんは、都市近郊という立地を活かしてジェラート店を開店し高付加価値化をめざしている。そのジェラートづくりには地域の若い、果樹・野菜農家と連携して製品開発を行っている。仲間の農家には出資を募り経営の透明化と主体的な関わりに努めている点が先進的と評価された。またコーヒー粕やシュレッダーゴミを敷料として利用し環境対策に努めている。
小原常務は「各地域でみんなが助け合いながらすばらしい経営をされていることに本当に勇気をいただいた。家族が団結して助け合い、また地域の絆を大切にして地域に貢献している姿に感銘を受けた。全農グループとしてこの成果を必ず全国の酪農家のみなさんにお伝えをしそして全農自らも日本の酪農の発展のために全力を尽くしたいと思っている」とあいさつした。
【第9回全農学生「酪農の夢」コンクール】入賞作品集
○最優秀賞=「私の目指す酪農経営」福島県立相馬農業高等学校生産環境科3年・髙山直哉さん
○優秀賞=「COWもーん、花嫁さん!」北海道名寄産業高等学校酪農科学科3年・森川亮太さん、「地域環境を創造する酪農体系の確立を目指して」北海道名寄産業高等学校酪農科学科2年・平間健太さん、「生産者としての一歩を踏みしめて」神奈川県立相原高等学校畜産科学科3年・金子純子さん
○佳作=「私の酪農経営への夢~あほづら牧場への道のり~」八ヶ岳中央農業実践大学校専修科2年・山極さくらさん、「私の夢~将来の展望~」岩手県立盛岡農業高等学校動物科学科3年・菊池なつきさん、「マイナス×マイナス=プラス∞(無限大)宮城県柴田農林高等学校動物科学科3年・髙橋大翔さん、「私の酪農経営への夢~父の姿を見つめて~」福島県立福島明成高等学校生物生産科2年・髙橋歩夢さん、「人が利用できないものを牛に~都市で酪農を経営したい」大阪府立農芸高等学校資源動物科3年・松崎なつみさん
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