乳牛の難治性乳房炎を早期診断 理化学研究所、農研機構2019年10月28日
理化学研究所と農研機構の共同研究チームは、乳汁を小型のパルス核磁気共鳴装置(NMR)で観測をすることにより、黄色ブドウ球菌(SA)感染による乳牛の乳房炎を簡便に診断できることを発見した。酪農分野で深刻な被害をもたらす乳牛の乳房炎被害の削減が期待される。
黄色ブドウ球菌に感染した乳房と健常乳房における
乳汁の体細胞数と比表面積値の観測例
乳牛の乳房炎は乳汁生産に関わる重要な疾患。さまざまな病原微生物が乳房に感染することで発症し、日本では乳牛の乳房炎により年間800億円に上る経済損失が見込まれる。
一方、酪農の大規模経営化に伴い搾乳作業などのロボット化が加速しており、今後は、個体単位の乳牛の管理から群単位の管理への移行が進むことが予想される。さらに、多頭数の乳牛の健康状態を把握する必要が高まっていることから、人に代わって、個体や乳房単位で乳牛の乳房炎の早期診断を可能にする新たな自動早期診断技術の開発が求められている。
共同研究チームはこうした状況をふまえ、パルス核磁気共鳴(NMR)を用いた非侵襲的な自動乳房炎診断技術の開発を試みた。
パルスNMRを用いた測定により求めた乳汁に含まれる微粒子の比表面積と、乳房炎の炎症症状の指標である乳汁中の体細胞数の関係を調べたところ、SAに感染した乳房の乳汁の比表面積は、健常乳房の乳汁よりも低い値を示すことが分かった。これは、乳房内でSAが増殖する際に、乳酸発酵によって乳タンパク質(主にカゼイン)の微粒子が凝集し、見かけの比表面積が減少したことが要因と考えられる。
研究成果は、原因菌の増殖そのものを検知するため、早期に乳房炎発症の予兆を察知することができる。また、超小型NMRを搾乳機に直接設置し、乳房ごとの比表面積値を搾乳時にモニターすることで、酪農作業の省力化や生産性向上にも役立つという。
さらに、NMRによる乳汁検査でSA感染以外の乳房炎(乳酸発酵を行わない無菌性の乳房炎など)に対しても判別可能になると期待される。
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