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【クローズアップ:乳の価値共創】〈脳の健康〉へ新商品 過剰脱粉解消にも期待 農政ジャーナリスト 伊本克宜2021年6月7日

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コロナ禍、乳の価値向上へ新たな企業販売戦略が問われる。8日、大手乳業が売り出す〈脳の健康〉に照準を当てたヨーグルト新商品はその具体策の一つ。積み上がる乳製品過剰の解消へ市場活性化の期待も高い。

牛乳

乳酸菌市場は9000億円に迫る

乳酸菌市場は既に8000億円を超え、9000億円に迫る。健康をキーワードに、乳業メーカー以外に様々な企業が新商品を投入し、市場活性化が進む。

9日から東京ビッグサイトで健康生活を目指す食品・飲料展「ウェルネスライフジャパン2021」。乳業関連でホリ乳業(金沢)が「地球にやさしい ユーグレナのヨーグルト」などを出展する。ユーグレナはミドリムシのことで光合成によって増える藻の一つ。ユーグレナの活用技術食品をはじめジェットエンジン燃料などあらゆる分野に広がっている。乳酸菌とのコラボ商品でも応用される。

乳酸菌市場

雪メグ「記憶ケア」ヨーグルト

雪印メグミルクは8日から、「記憶ケアヨーグルトβ(ベータ)ラクトリン」を発売する。高齢化社会の中で、脳の健康は注目分野の一つだ。

同社は昨年、機能性表示食品で目や鼻の不快感を緩和する乳酸菌ヘルベヨーグルトの本格販売を始めた。花粉症の課題を踏まえたもので、ヨーグルトでは業界初の試みで注目された。だが、ちょうどコロナ禍と重なり、新商品アピールは疫病の大波に隠れてしまった。半面で、コロナ禍は健康分野への関心を高め、今回の記憶ケアの切り口で新商品を投入する。

乳酸菌傾注のキリンとヤクルト

明治、雪メグ、森永の3大乳業以外にも、乳由来の乳酸菌に注目する非乳業系メーカーが目立つ。大手ではキリンHDと創業者の名を冠したシロタ株で多様な商品展開をするヤクルト。

なかでもキリンはヘルスサイエンス領域強化を進めている。先の雪メグ新商品もキリンがグループ会社・小岩井乳業と共同で商品開発した〈βラクトリン〉を使った。既にキリンは関連のサプリメントの販売を開始した。

国内屈指の食・飲料企業であるキリンは独自のプラズマ乳酸菌仕様の商品化も広げている。今後とも伸長が見込まれるヘルスサイエンス領域に重視して、売上高を免疫分野で現在の86億円から2027年には500億円、同じく脳分野で31億円を400億円に拡大する。

最大手明治HDは前面に〈健康〉

乳業最大手・明治HDは、企業スローガンをこれまでの「明日をもっとおいしく」から21年度以降は「健康にアイデアを」に切り替える。5月の決算会見で新スローガンの意義を川村和夫社長は「コロナ禍も意識し健康をもっとアピールする必要がある」と強調した。

社内公募で決めたが、ダントツの1位が「健康にアイデア」のキャッチコピーだったという。単なる〈おいしさ〉から積極的に〈健康〉にコミットメントしていく。コロナ禍の食品産業生き残りの道を示す。

健康に関連し同社は〈明治TANPACT〉シリーズの商品化を広げる。乳業、製菓などの統合効果を最大限に生かし、タンパク質不足の日本人へ良質で手軽な乳資源を活用した新たな食の提案に力を入れる。「健康にアイデアを」の先取りした動きだ。

森永のビフィズス菌戦略

森永乳業は乳由来の腸内細菌の中でも大腸で生き続けるビフィズス菌の研究を長年重ねてきた。代表的商品「ビヒダス」シリーズは発売から50周年を迎えた。

ビフィズス菌は乳酸菌食品でくくられるが、乳酸菌とは異なる。乳酸に加え酢酸を作るのが大きな特徴だ。酢酸は殺菌効果が強く悪玉菌をやっつけ、腸内フローラを健康に保つのに効果を発揮する。同社は発見したビフィズス菌BB536は礎に商品化の幅は広がっている。

同社は20年度決算でコロナ禍にもかかわらず5期連続で過去最高益を達成したが、健康ニーズを受けて「トリプルヨーグルト」「ビヒダスヨーグルト便通改善」など機能性表示食品も販売拡大に貢献した。

業務需要苦戦で脱粉在庫の山

ヨーグルト市場全体は現在、一服感が漂う。ただ新相次ぐ新商品投入で市場活性化が期待される。

一方、コロナ禍で外食、ホテル需要など業務用需要が低迷し乳製品在庫が拡大中だ。このままでは生乳需給に悪影響を与えかねない。特に深刻なのが膨らむ脱脂粉乳の在庫だ。そこで、生乳に加え脱粉を使うヨーグルの需要拡大に注目したい。乳酸菌を通じた免疫と健康の一石二鳥が、酪農乳業の持続的発展につながる。

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