世界初 ゲノム情報から短時間で細菌ワクチンを設計する新手法を確立 農研機構2022年12月14日
農研機構は、豚丹毒菌をモデルとして、ゲノム情報から病原性に関与する遺伝子を推定し、それらの除去により細菌を人為的に弱毒化させることで、短期間で合理的に生ワクチンを設計する方法を世界で初めて確立した。同成果により、これまで多大なコストと時間がかかっていた細菌の生ワクチン開発が省力化されることが期待される。
感染症の予防には飼養衛生管理を徹底した上で有効なワクチンを使うことが最も効果的だが、新しいワクチンの開発には莫大なコストと時間がかかる。特に家畜や家きんで使用する生ワクチンのほとんどは、自然宿主と異なる動物種や細胞、あるいは、DNAの配列や構造に変化をひき起こす物質の存在下で病原体の培養・継代を重ねることでゲノム上にランダムな変異が起こり弱毒化されている。このため、多くの場合これらの生ワクチンにおける弱毒化機構は不明であり、一部の生ワクチンでは病原性が復帰して強毒化のリスクがあるなど安全性の面において問題が指摘されている。
細菌の場合、安全性と有効性の両方を備えた生ワクチンを開発するには、その第一段階として、病原体のゲノム上に存在する極めて多くの遺伝子及びそれらの発現調節機構を解析した上で病原遺伝子を同定。それらを除去、あるいは変異を導入するなどして理論的に弱毒化させる必要があるが、病原遺伝子の同定には多大な労力と時間を要するため、優れた生ワクチンを短期間で作製することは極めて難しい。
農研機構は、豚丹毒菌をモデルとして、同菌のゲノム情報からアミノ酸合成に関わる遺伝子のみを選び出し、その中から本菌がマウスの免疫細胞(マクロファージ)に感染する際に発現が増強される遺伝子を同定。その後、その遺伝子を本菌のゲノム上から除去する手法により弱毒化させたワクチン候補株を作製することに世界で初めて成功した。この手法は、「ゲノム収縮」という遺伝学的形質を示す菌で特に有効で、多くの細菌において病原遺伝子の同定が可能になることが期待される。
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