「何もかも値上がりで赤字に」「まず乳価アップを」 農業産出額全国一の宮崎・都城市の酪農家の思い2023年6月12日
ウクライナ危機などによる資材高騰や乳価低迷で農業の中でも最も厳しい経営に直面しているといわれる酪農家。中央酪農会議の調査では全体の85%が赤字経営という結果が出ている。改めて今、酪農家はどんな思いを抱いているのか。市町村別農業産出額が全国一の宮崎県都城市で取材した。
酪農経営を受け継いで5年目を迎える松原健一さん
鹿児島県との県境に近い宮崎県都城市。市町村別の農業産出額は3年連続全国一で、酪農も盛んだ。
同市南西部で酪農を営む松原健一さん(47)は2019年に父親から経営を受け継いだ。約60頭の乳牛とともに、経営委譲を受けた時期に肉用牛の繁殖も始め、合わせて約80頭を飼育している。
経営を受け継いで4年目の昨年、ウクライナ危機などによる資材高騰の直撃を受けた。「酪農だけではないと思いますが、何もかも値上がりして厳しいです」と松原さんは語る。昨年4月には配合飼料価格が史上最高値まで高騰し、飼料代は前年より300万円ほど増えた。令和2年と比較すると約1000万円増になるという。さらに電気代も値上がりするうえ、夏の暑熱対策として畜舎に換気扇を新調しようとしたところ、以前から1.5倍の価格に上がっていたという。
「高騰した配合飼料を減らしている酪農家もいると聞きますが、乳が減るだけならまだしも、繁殖成績が悪くなったら経営にとってプラスになりません。飼料は変えずに続けたいと考えています」
資材が上がる一方で乳価は期待するほど上がらず、負担増を賄うことができないという。松原さんの農場では、2日ごとに3.2tの生乳を出荷しており、全国的に今年8月から1キロ10円を引き上げる動きはあるが、「それでも黒字に転ずるかは見通せない」という。副収入として自家で採取した和牛受精卵をホルスタインに移植して産ませた和牛など年間約20頭を出荷しているが、JA都城の子牛セリ市場での平均価格は、令和元年の79万3000円から昨年は64万6000円と大幅に下落した。
松原さんは「昨年の収益は前年からざっと1000万円は減りました。経営を受け継いでから初めての赤字です」と語る。
もっとも松原さんは積極的に飼料の自給化に取り組み、酪農家の中でも飼料の自給率は高い。約18haの農地でトウモロコシや牧草を生産し、トウモロコシは収穫する約720トンのうち600トンを自家で消費、イタリアンロール(牧草)は90トンすべてを自家消費している。自給割合は、搾乳牛は粗飼料で約7割、配合飼料まで入れると約4割に上るという。
こうした中、松原さんが今、期待を寄せているのが、農水省が生乳価格などの適正化に向けて4月に設置した有識者会議だ。会議の中では、生産コスト上昇分を生乳価格に反映させる仕組みを検討する方針が示されており、動向を注視している。
「やはり乳価が第一です。売るものが上がれば今の状況にはなっていませんので。消費者に受け入れてもらえるかという課題はありますが、何とかどんどん牛乳を飲んでいただいて酪農経営が成り立つ形に進めてほしいと思います」
JAは価格高騰対策や消費拡大運動で支援
JA都城によると、管内の酪農家は昨年4月時点で92戸あったが、今年4月に84戸まで減った。高齢による離農が大半だが、資材高騰の状況を受けて離農したケースもあるという。
こうした中、JAとしても支援に乗り出し、令和4年度に飼料・粗飼料・肥料などの価格高騰対策として、約9500万円に上る農家支援対策を実施。さらに以前から、酪農家が宮崎県酪農公社に子牛の育成を預託する際、都城市などとともに頭数に応じて補助金を出して負担を減らす取り組みも進めている。
酪農をめぐる厳しい状況が続く中、同JA酪農課は「やはり乳価をいかに上げていくかが重要だと思います。飼料の切り替えなど生産体制をすぐに変えるのは難しいので、消費者の理解を得るためにも経済連などと一緒に消費拡大を進めていきたいと考えています」と話している。
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