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牛伝染性リンパ腫ウイルス「タンパク質を作らないRNA」による干渉作用を発見 農研機構2023年9月15日

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農研機構は、牛伝染性リンパ腫ウイルス(BLV)が発現する"タンパク質を作らないRNA(ノンコーディングRNA:ncRNA)が、宿主細胞核内のタンパク質と結合してそのRNA結合能力を変化させることを発見した。このncRNAは、腫瘍細胞中で発現する数少ないウイルス因子の一つでり、リンパ腫発症の一因となっている可能性がある。同成果は、BLVが発現するncRNAが宿主タンパク質に直接結合してその機能に干渉することを示した世界で初めての報告となる。

同研究で実施したスクリーニング実験の概要と結果。同研究で実施したスクリーニング実験の概要と結果。
AS1‐S RNAおよびコントロールRNAを磁気ビーズと結合させ、
牛B細胞の抽出液と混合し、RNAとタンパク質を結合させる。
その後、磁石により磁気ビーズを回収することで、RNAと結合したタンパク質を精製することができる。

近年、"タンパク質を作らないRNA"(ノンコーディングRNA:ncRNA)が、がんなどの病気の発生の一因となっていることが徐々に明らかになり、病態解明の新たな切り口として注目を集めている。

牛の伝染病"牛伝染性リンパ腫"の原因である牛伝染性リンパ腫ウイルス(bovine leukemiavirus:BLV)もまた、ncRNAを発現することがわかっており、BLVが持つncRNAとリンパ腫発症との関連性が疑われている。BLVは、免疫細胞の一つであるB細胞に感染して、感染した牛に生涯持続感染したのち、一部の個体にリンパ腫を引き起こす。

リンパ腫を発症した牛が廃棄処分となることで経済的な被害をもたらすことから、現場では有効なワクチンや治療法の開発が求められているが、ウイルスがリンパ腫を発症させる詳細なメカニズムが解明されていないこともあり、有効な予防・治療法の実現には至っていない。そのため、BLVが持つncRNAの機能解明は、その課題解決に大きく寄与することが期待される。

農研機構は、BLVが持つ機能不明な遺伝子の一つであるAS1‐S遺伝子を詳細に解析。その結果、AS1‐S遺伝子から発現するncRNA(AS1‐S RNA)が、宿主細胞の核内
でheterogeneous nuclear ribonuleoprotein M(hnRNPM)というタンパク質と結合し、hnRNPMと宿主RNAとの結合性を変化させることを発見した。

hnRNPMは、細胞の核内にあるRNAを加工することで、様々な細胞機能を調整する役割を持つタンパク質。AS1-S RNAは、hnRNPMによる宿主RNAの加工・調節機能を阻害することで、感染した細胞の異常な増殖を引き起こしている可能性がある。

この発見は、BLVが発現するncRNAの分子機能の一端を明らかにした世界で初めての報告。牛のリンパ腫発症メカニズムの解明とその制御法開発につながる基盤的知見として、ウイルスが病気を引き起こすメカニズムへの理解を深めるための大きな手掛かりになると考えられる。

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