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【世界の食料・協同組合は今】スイスの耕畜連携 環境、農業持続性を両立(1) 農中総研・阮蔚氏2024年10月29日

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農林中金総合研究所の研究員が世界の食料や農業、協同組合の課題などを解説するシリーズ。今回は「スイスの耕畜連携」について理事研究員の阮蔚氏が解説する。

【画像】農中総研理事研究員・阮蔚氏

農中総研理事研究員・阮蔚氏

アルプス山脈を擁するスイスは国土の70%が山岳地域であり、耕地面積は限られている。そうした不利な農業条件にもかかわらず、スイスは51%という食料自給率を達成し、豊かな自然景観と生態系も維持している。もちろん、1950~80年代に集約的農業の拡大によって農業による土壌.水.空気汚染が一時的に拡大したが、1990年代からの農業の多面的機能の発揮を図る高水準の直接支払の実施という抜本的な農政転換によって、景観や水、空気など自然環境の保全を図っている。本稿は2024年8月にチューリヒ州農政局や畜産農家などへの現地調査を踏まえてスイスの家畜ふん尿の養分収支バランスと、それに付随する農場間のふん尿のやり取り、日本でいう耕畜連携の実施状況を紹介する。

直接支払いと環境保全要件

スイスは30年以上前から、価格支持の廃止や生乳生産調整の廃止、流通の自由化、輸入障壁の引下げなど市場指向の改革を断行し、その代わりに景観維持など農業の多面的機能と農家の所得維持のために高水準の直接支払いを行ってきた(平澤2018)。

2024年の農業予算34億フランのうち直接支払いは農業予算の82.4%にあたる28億フランにも上り、名実とも直接支払いはスイスの最も重要な農業政策である。残り2割弱は市場支払(13.2%)と構造支払(4.4%)となる。直接支払いには、I供給保障支払、II農業景観支払、III生物多様性支払、IV多様な景観保全支払、V生産方式支払(有機農業や動物福祉、農薬の使用制限、効率的窒素肥料の使用等)という5大項目が含まれる。 

直接支払いを受給するのは農場を経営する農業経営者に限る。経営者は連邦の認可を受けた農業職業訓練ないしそれに相当する訓練を受けている必要があり、65歳を上限とする。スイスでは約16万人の農業従事者がいるが、農業経営者は4.8万人に留まる。4.8万人の経営者は平均22ha規模の農場を経営している。28億フランの直接支払い額と4.8万の農場を単純計算すると1農場の直接支払い額は5.8万フランとなり、2023年の平均レート:1フラン=156.57円で換算すると908万円に相当し、支持水準はきわめて高い。

農家が直接支払いを受給するには、前提条件としてまず以下の環境保全要件(PER:Prestations ecologiques requises)を満たす必要がある。

A、 動物保護令を順守する。

B、 肥料収支の均衡。窒素及びリン肥料の投入量は作物の栄養要求量の範囲内とする。

C、 生物多様性促進用地の確保。農地の7%(特別作物の場合は3.5%)、かつ耕地の3.5%(2024年から)。

D、輪作の実施。年間4品目以上作付け、単一栽培をしない。

E、適切な土壌保全。土壌の浸食や養分の滲出がない。

F、総合的害虫管理と農薬制限リスト――。

ここではBの肥料収支の均衡に絞って紹介する。

【世界の食料・協同組合は今】スイスの耕畜連携 環境、農業持続性を両立(2)へ続く

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