【中酪、酪農経営実態緊急調査】「赤字膨らみ離農検討」48%、3年後は生乳600万トン台に(2)2024年12月9日
受託酪農戸数が初の1万戸割れとなる中で、中央酪農会議は生産者に緊急調査を行った。コスト高止まりで赤字が膨らみ「離農を検討」が約48%に達し、深刻な「酪農有事」の実態が浮き彫りとなった。中酪は「このままでは生乳生産が3年後に600万トン台に落ち込む」と危機感を持ち、家族経営を含め酪農支援の拡充を求めている。JA全中は5日の会長会見で酪農家1万戸割れを「極めて重い事態として受け止めている」と危機意識を共有した。(農政ジャーナリスト・伊本克宜)
【中酪、酪農経営実態緊急調査】「赤字膨らみ離農検討」48%、3年後は生乳600万トン台に(1)から続く
■12月下旬畜酪決定でも争点に
全中が5日の会長会見で酪農家1万戸割れを「極めて重い事態」としたのは、酪農の生産基盤の弱体化が、和牛生産の受精卵移植としての乳牛の役割、飼料用米、稲発酵粗飼料(WCS=ホールクロップサイレージ)利用での水田農業利用、あるいは北海道を中心に地域経済全般に及ぼす悪影響を踏まえてのことだ。
ここで全中会長が会長を兼務している中酪が政府に求めている酪農政策の具体的要求を見よう。当面の課題である12月下旬、クリスマス前後の決定とされる2025年度畜酪政策価格・関連対策をはじめ、今後10年間の政策方向を示す次期酪肉近、改正畜安法での問題点、「みどり戦略」の基づく環境調和型酪農対応など、解決すべき項目を具体的に整理、網羅した。底流を流れるのは、酪農家の離農に歯止めがかからない中での、国内酪農存立への強い危機意識だ。
〈改正基本法を踏まえた酪農制度確立の要求〉
① 生乳生産目標は生産意欲を損なわないよう消費拡大に注力しつつ増産型水準を設定
② 2025年度補給金単価は加工向け環境整備の水準、集送乳調整金は物流コスト上昇踏まえ適切な水準、交付対象数量は国内の生乳需給の実態を踏まえ
③ 合理的価格形成は生乳生産コストの変動を反映すること。指定団体外の自主流通拡大の中で自主流通事業者等を含めた全国的な枠組みでのセーフティーネット構築を含めた需給調整対策を確立
あわせて都府県不需要期における乳製品処理脆弱化への支援。あわせて無脂乳固形分や国産ナチュラルチーズ需要拡大への支援策確立
④ 「みどりの食料システム戦略」対応と持続的酪農経営を担保するため直接支払いも含めた政策支援の構築 また配合飼料価格安定制度による影響緩和機能の堅持と積立財源安定確保に向けた環境整備を促進
⑤ 国産飼料の生産拡大へ耕畜連携、コントラクター強化、適地適作・転作田の活用による飼料用米・WCS生産を含めた国産飼料生産の推進
12月クリスマス決定の畜酪政策価格などは補給金単価、交付対象数量などが争点だが、ここに新たに酪農家戸数をこれ以上減らさない支援策、あるいは所得政策などにも議論が及ぶ可能性がある。
■大型農家ほど赤字拡大
今回の中酪緊急調査で、数度にわたる飲用乳価などの引き上げでも飼料高をはじめコスト増が経営悪化を招いていることが改めて浮き彫りとなった。
2日の酪農家1万戸割れの中酪記者会見で、経営分析をした北海道大学の小林国之准教授は「酪農では規模の経済が効かず大型農家ほど赤字が膨らむ実態は酪農危機といえる深刻な事態だ」とした。
小林准教授は北海道の草地型酪農地帯のA農協の事例を示し数度の乳価値上げで乳代(補給金含む)は50億円増えたものの飼料費は60億円増加し、「乳代の増加では支出の増大を賄い切れていない」と酪農経営を直撃している実態を説明。
また、北海道の酪農で農業所得から資金返済額を差し引いた自由に使える金である可処分所得は「規模別に見てもほぼ全ての階層でマイナス。特に70~100頭規模の中堅層で赤字割合が高い」とした。政策的な経営支援などがない場合、今後、これらの階層の離農が加速する可能性も高いことを明らかにした。
■自給飼料重視へ構造転換必須
2日の会見で酪農経営分析をした小林准教授が示した今後の方向は「高コスト時代に適応した持続的な酪農経営への転換を急がなければならない」という点だ。
小林氏は「輸入飼料依存の大規模化で所得を拡大するこれまでの酪農ビジネスモデルはもう終わった。地域実態の応じた自給飼料、あるいはエコフィードなどでコストを下げながら経営転換の政策支援と消費者との対話と理解が不可欠だ。需給調整機能強化への法制度整備と直接支払いなど所得政策も加味した酪農・乳業の総合的な政策パッケージが問われる」と強調している。
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