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畜産:元気な国内農業をつくるためにいま全農は

【畜産総合対策部】JA全農の食肉輸出・海外レストラン展開 「全農和牛」を世界に販売2014年1月16日

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・希少価値持つ日本産「和牛」
・直営外食店で販促活動に力
・「全農和牛」で世界に売込み

 JA全農は国産畜産物の販売力を強化するため、海外に販売拠点を設置し、現地のニーズを把握するとともに新たな商品提案を行うなど、食肉の輸出拡大をめざしている。昨年11月には米国とシンガポールに駐在事務所を開設したほか、今年3月ごろまでにEU圏への販売拠点として英国・ロンドンにも開設する予定だ。また、3月には米国・ビバリーヒルズに和食レストランも開業する。全農の食肉輸出・海外レストランの展開の意義と今後の取り組みを紹介する。

生産者の将来展望開く

◆希少価値持つ日本産「和牛」

外食店のシェフを対象にしたカッティング・セミナー わが国では少子高齢化の進行で国内需要が縮小傾向にあることに加え、景気の低迷や可処分所得の減少から全体として高額商品の販売は思わしくない。国産牛肉も同様で、とくにロースやヒレなどの高級部位、A5・A4といった高級グレードの牛肉が販売不振となっている。
 一方で牛肉生産は生産技術の向上や血統の改良などによって上級比率が年々上昇している。生産者も高級グレードをめざして日々努力をしているが、それは国内の消費者嗜好とはミスマッチ、というのが残念ながら現状だ。
 しかし、海外に目を向ければ、食をめぐる市場は様相が異なる。
 わが国の農林水産物の輸出戦略を打ち出した農水省は、世界の食市場は09年の340兆円が20年には680兆円に倍増すると推計している。なかでも中国・インドを含むアジアは3倍増の見込みだ。とくにアジアの新興国をはじめとして各国で日本食への関心は高く、今後日本食市場が拡大するとみられている。
 また、日本の1人あたりの国民所得はOECD諸国で17位だ(平成22年度)。つまり、世界には多くの富裕層がいるといえる。
 こうした世界の市場を見据え、とくに富裕層をターゲットに国内で販売不振に陥っている高級部位・高級グレードの牛肉を販売していくことで日本産和牛の総需要量の拡大につなげていこうというのがJA全農の食肉輸出の考え方だ。
 実際、「和牛」は高級食材として世界的にも希少価値がある。全世界の牛の年間と畜頭数は3億頭もあるが、そのうち日本産和牛はわずか50万頭で0.17%にすぎない。海外ではUS和牛や豪州和牛も市場に出回っているが、日本産和牛とは「見た目」も「食味」も明確に違うことは、海外の外食関係者やバイヤーなども認めている。食材として明確に差別化できる品質を備え、さらにわが国には牛トレサービリティ・システムがあるため海外にはない情報開示も可能だ。
 このような特質を持つ日本産和牛の高級部位・高級グレードが海外でコンスタントに売れる環境を作ることは、国内食肉相場の維持・上昇に貢献することになり、生産者の手取り向上も実現できることになる。

(写真)
外食店のシェフを対象にしたカッティング・セミナー

◆直営外食店で販促活動に力

 全農グループの牛肉輸出を担っているJA全農ミートフーズ(株)の24年度輸出実績は114t。国産牛肉輸出量の12%を占めた。25年度は170t、26年度は218t、27年度には250tの輸出を計画している。27年度では国産牛肉輸出量の17%となる見込みだ。ただ、シェアは全農グループの輸出対象国でみるとその比率は高まり、たとえば米国向けでは25年4?9月実績で約6割を占めている。 食肉輸出拡大のためJA全農では3つの取り組みを進めている。
 1つは自ら売り場を拡大すること。昨年11月にシンガポール駐在事務所を開設したほか、ニューヨークの米国全農組貿(株)内に食肉・農産物販売部を新設して拠点とした。また、今年3月ごろまでに英国・ロンドンにも駐在事務所を開設する予定だ。
 シンガポールは香港、タイ、さらに輸出解禁の予定があるフィリピン、インドネシアなどアジア圏のハブ拠点と位置づける。また、ロンドンは輸出解禁となり輸出認定工場の許可手続きが進んでいるEUをターゲットにした拠点だ。これで米国・カナダと近く輸出解禁が見込まれるメキシコをカバーするニューヨークの拠点と合わせ、「全世界的に拠点ができることになる」(畜産総合対策部)という。
 販売拠点だけでなく直営外食店舗も展開する。すでに昨年2月には香港に和牛焼肉店「純」をオープン。今年3月には米国・ビバリーヒルズに創作和食店を開店する予定だ。いずれも現地法人を設立し、
▽日本産食肉主体の店舗運営のノウハウ取得と現地ニーズの把握
▽現地での販売促進活動と実需者への直接販売の強化
▽全農グループの知名度向上
などをめざす。
 今後はEUも含めて直営店舗の拡大も検討していく。

◆「全農和牛」で世界に売込み

 販売チャネルの拡大にも取り組む。
 現在はどうしても外食店でのステーキ需要が主となるため、輸出部位はロイン系に限定される。そうなると1頭あたりの輸出重量は約50kgにとどまり約300kgは日本国内に残ることになる。そのため、これまでは現地レストランのシェフを対象に商品の幅を広げるためのカッティングセミナーを開いて、日本産和牛の多様な部位を使った調理法の提案などを行ってきた。
 今後も日本の食肉文化の多様な調理法を発信することが需要拡大につながるが、そのためには食肉小売店や惣菜事業などに食肉を供給できる施設が必要で、海外食肉加工場の設置も検討している。 同時にインターネット通販など新たな販売手法にも挑戦することにしており、すでにシンガポールでは試験的にネット通販で家庭向け販売を行っている。
 3つめの取り組みが輸出国の拡大だ。
 すでに触れたようにEUやメキシコ、フィリピンなど輸出解禁が見込まれる国では販売先の確保が課題となるが、中国やインドネシアなど今後の輸出可能国もターゲットに高級牛肉の現地流通調査や提携先開拓も進めていく。さらにUAEやインドネシアなどイスラム圏に向けては、ハラール対応など国内での輸出体制の整備にも取り組む。 ハラール認証のための特別なと畜処理施設の整備などは農水省も予算に盛り込み支援しており、さらにさらに輸出認定工場の施設改修費用やモニタリング経費等への支援も求められるところだ。 このような体制を整えながら、全農グループは世界に「全農和牛」の名で販売する方針だ。「和牛」は高級牛肉の名称として普及しているが、US和牛、豪州産和牛が販売されていることから、日本産和牛のブランド化を図るのが狙い。「ジャパニーズ・ビーフは全農和牛となるよう知名度を上げる」ことをめざす。これも海外での全農ブランド全体の確立につながるといえるだろう。
 全農グループの食肉輸出の取り組みは、何よりも国内生産の維持をめざすJA全農ならではの取り組みだ。JA全農は「日本産和牛が高く評価され、広く世界で販売されることを国内生産者の励みと将来展望につなげたい」(畜産総合対策部)としている。


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