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畜産:JA全農畜産生産部

採卵事業で 和牛と酪農の生産基盤を強化2017年4月4日

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 JA全農では和牛繁殖基盤の強化に向けた総合対策の柱のひとつとして「農家採卵による和牛受精卵の増産」を進めている。繁殖母牛に和牛受精卵を生産してもらう取り組みで、繁殖農家にとっては子牛の生産・販売だけではなく、受精卵の販売で所得を向上させる新しいビジネスモデルでもある。それによって繁殖母牛という経営資源を維持できるとともに、乳牛による和子牛の増産にもつながり酪農生産基盤の強化にも貢献する。この事業の28年度の成果と今後の展望をレポートする。

繁殖農家の所得向上に貢献 農家採卵事業は全農ET研究所が開発、発展させてきたET(受精卵移植)システムを活用した事業である。
 ET技術とは、優良血統の雌牛に過剰排卵処置をし、そこに優良な雄牛の凍結精液を人工授精(AI)することで複数の受精卵をつくり、それを取り出して他の雌牛に移植する技術である。
 これまでは全農ET研究所で飼養している雌牛で受精卵を作っていたが、農家採卵事業は、それに加えて繁殖農家の母牛で受精卵を作ってもらって採卵し、その受精卵を買い上げることで新たな農家所得につなげていこうという事業である。
 今、この事業は和牛繁殖農家の経営維持発展だけでなく、酪農の生産基盤向上にも貢献しており、いっそう期待が高まっている。

◆繁殖農家に展望拓く

和牛素牛取引頭数と価格の推移

 和牛繁殖雌牛の飼養頭数は平成22年の68万4000頭をピークに高齢化による離農や口蹄疫の発生、さらに大手牧場の破綻などで27年には58万頭となり15%減少した。5年間で10万頭減少したことになる。このため21年に1頭36万1000円だった肥育用や繁殖用の素牛価格は28年1月には75万4000円と2倍以上に高騰し、最近では90万円近い相場となっている。
 その和牛繁殖農家には高齢化が進行している。平成17年では65歳以上は59%だったが、27年には65%となった。そのなかで75歳以上は21%から31%とさらに比率が増加した。後継者の確保が大きな課題だが、和牛繁殖を新たに始めるには牛舎の建設費に加え、素牛導入や購入粗飼料など多額の費用が必要となる。まして現在は素牛がかつてなく高騰している。
 一方、それだけ投資できたとしても、収入は母牛に出産させ子牛を9か月程度育てた後に市場で販売して初めて得られる。約2年がかりとなるが、それは子牛販売以外の収入がないためだ。しかも、子牛販売は、子牛の事故や疾病、市場価格の変動リスクがあり収入が不安定である。
 こうした繁殖農家経営の問題を解決し新たな所得源となりつつあるのが農家採卵事業である。結論を先に示せば、28年度の平均生産者収入は1採卵あたり1頭約30万円となった。

◆酪農経営にも貢献

牛繁殖牛の飼養戸数・頭数の推移 同時に、農家採卵事業は酪農の生産基盤強化にも貢献する事業でもある。
 平成27年の北海道の酪農家戸数は6900戸、成畜飼養頭数は77万4000頭で頭数は10年で約7%減少した。都府県は戸数1万1700戸、頭数は58万6000頭で、10年間で約26%減少している。
 乳牛の減少には地球温暖化などの環境変化も影響しているといわれる。とくに経産牛は外気温の影響を受けやすく、外気温が高いと体温も高くなる。いわゆる夏場のヒートストレスが受胎率の低下をもたらしている。
 北海道人工授精師協会の調査報告によると乳牛経産牛の初回受精受胎率は40%台だったのが平成25年では37・2%へと低下し、最近はさらに下がっているという。気温の上昇によって体温も上昇、そうした高温下では受精初期に発育が停止してしまう。
 夏季のヒートストレスで夏場のAIの受胎率が特に都府県で低下し、秋以降へ妊娠時期が遅れるため8月~9月の暑熱期に分娩が集中してしまい、周産期病が増加するなど、生産寿命が短縮するという「負のスパイラル」を抱えているのが酪農の現場だ。
 こうした課題を解決するために、JA全農ET研究所では乳牛への新鮮(チルド)受精卵の移植を行っているが、夏場(7月~9月)のAI受胎率が平均で15%程度にとどまっているのに対して、ET受胎率は50%前後と高率であることが示された。その理由は受精後7日目のヒートストレス(受精前後数日が最も受精卵の品質に悪影響を及ぼすため)をバイパスした受精卵を使用しているからだという。
 これらの成果を受けて酪農生産現場でも暑熱期における繁殖技術をAIからETへと切替えを進めることなどを通じて、ヒートストレスによる負のスパイラルから脱却を図る道筋も見えてきた。そのための体内受精卵をJA全農ET研究所が生産しているが、同研究所が年間に採取している受精卵は1万6000個程度。それでは現場のニーズに応えられないことから新たな受精卵の生産・供給体制整備も求められており、これも農家採卵事業という新たなビジネスモデルが構築される要因となった。

◆地域単位で取り組み

廃校を利用した士幌町の「全農繁殖義塾」 農家採卵事業は現在、ET研究所が中心となって十勝地域で展開されているだけでなく、ET研究所と連携して全農県本部やJAが地域の中心となり各地で取り組みが進められている。
 具体的には、JAなどが核となって地域内の供卵牛(和牛繁殖母牛)と受卵牛(乳牛)候補のリストアップを行う。
 同時に定日集約採卵を行うため牛を集めるサブステーションも整備する。
 採卵を行う候補牛が決まれば、▽超音波診断による卵巣・子宮の診察、▽子宮内薬注、▽発情同期化・過剰排卵処理、▽人工授精へと進み、定日集約日にサブステーションでET研究所メンバーが採卵を行う。
 そのうち一部は地域内の乳牛や和牛に新鮮卵・チルド体内受精卵として移植される。そのほかは全農ET研究所がすべて買い取り全国的なニーズに応えて供給する仕組みになっている。
 サブステーションでの定日採卵とともに、現地で集約した新鮮卵を採卵日とほぼ同時に新鮮卵として乳牛などに移植し、地域の増殖、改良を図ろうとするのもこの事業の大きな特徴だ。
 酪農家には、▽AIを3回以上実施しても不受胎の乳牛に対するETへの切替(=受胎率の向上による生乳生産の確保)、▽後継牛が確保されていることを前提に空胎牛へのET(和牛産子販売による収入増)、また、和牛繁殖農家にも、▽血統の古くなった高齢和牛へのETなどを基準に移植を実施している。
 全農岩手県本部では全農ET研究所と連携して、年間1000頭程度の受精卵移植を行っている。28年度の農家採卵は100頭ほどで「若手の繁殖農家に非常に高く評価されている」とのこと(大津信一・生産指導課長)。酪農家への新鮮卵移植は受胎率50%以上の成績で人工授精より高く、また事業に参加することによって候補牛には繁殖診断の検査が実施されるため、不受胎牛かどうか的確に診断がつくことも酪農家に評価されているという。
 神奈川県本部はいち早く農家採卵事業に取り組んだ地域だ。平成27年12月にスタート。これまでに7回実施した。
 県本部事務所近くの廃業した酪農家の農場をサブステーションとして活用し採卵する。これまでに1頭あたり平均14卵が採卵できたという。
 同時に県内の獣医師の協力を得て乳牛への新鮮卵の一斉移植も実施、受胎率は65%程度を確保しているという。県本部では酪農家に対してET促進のために独自に1卵1万円の助成(年間300万円)も準備して活用を促してきた。「子牛の販売価格も高く酪農家からも評価されている。県内の畜酪農家から継続を求められており、29年度は5回実施する計画を立てている」と畜産部でET事業を担当している安池和芳さんは話す。

◆先端技術で地域資源守る

地域での生産基盤強化のために胚活用の効果の最大化を図るには......

 佐賀県のJAからつも農家採卵事業に積極的に取り組んでいる。同JAの山口武寅・畜産部次長は「酪農家の協力で和子牛の生産拡大を図ることができています」と話す。
 サブステーションには肉用牛の集出荷施設を再利用しているほか、採卵日にはET研究所のスタッフの作業場としてJRのコンテナを活用するなど環境を整備してきた。それらによって1日15頭程度の採卵頭数が20頭程度に増えているという。
 また、同JAは和子牛を共同育成するキャトルステーションを運営している。同ステーションでは生後7日目から預かる。子牛は農家の所有物であり販売時に委託料を精算するかたちをとる。
 新鮮卵を乳牛に移植することによって、地域内に和子牛を増やすとともに、キャトルステーションがあることによって酪農家が和子牛を育てる負担を軽減することにもなっている。
 「受胎率が上がることから酪農家も協力的です。所得向上はもちろん、受精卵移植によって乳牛の検査や適切な治療にもつながる面も評価されています」と山口次長は話す。
 現在は繁殖農家の新たな経営モデルをつくるために繁殖母牛からの採卵を2回続け、その次に子牛生産のための種付けをするなどのサイクルを試行してもらうなど地域で新たな挑戦も始めているという。
体育館を利用し牛を集める場所に。 JA全農のまとめでは28年度の農家採卵事業は12府県、道内8か所のサブステーションで実施。採卵述べ頭数は1109頭。平均買い上げ個数は1回の採卵で平均11・1個、合計1万2305個の受精卵を新たに生産した。国内での受精卵生産量は10万個程度とされていることから1割強のシェアを占めていることになる。
 技術料金を差し引いた1回の採卵あたりの平均生産者収入は30万1000円となった。
 JA全農では29年度は地域の繁殖技術者と連携して農家採卵・一斉移植の効率化や、X精液(90%の確率で雌が生まれる精液)を交配して作出した乳牛雌受精卵を増産して乳牛後継牛の確保も課題としているほか、各地区の農家採卵サブステーションの設備整備など機能の充実も課題としている。
 また、JA全農はこの事業の新たな拠点として士幌町で廃校になった旧北中音更小学校を活用して「全農ET研究所繁殖義塾」を立ち上げた。ここは農家採卵・移植事業の拠点となるほか、技術者(人工授精師、受精卵移植師)の育成のための研修事業も行っている。研修生には地域の畜産農家の子弟もいるという
 波山功チーム・リーダーは「5年後、10年後を見据えて、地域の核となるET技術者に成長してほしい。全国に研修生のネットワークを広げて畜産生産基盤の強化につなげていければ」と話している。
(写真上から)繁殖農家の所得向上に貢献、廃校を利用した士幌町の「全農繁殖義塾」、体育館を利用し牛を集める場所に。

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