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【農協改革】ICA調査団・ジャン=ルイ・バンセル氏インタビュー 協同組合は地域社会に貢献2014年9月8日

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・世界の協同組合運動に影響懸念
・よりよい社会へ
・葬祭事業の意義
・直売所の可能性

 日本の規制改革の動きについて調査し、協同組合運動への影響などを評価するためのICA(国際協同組合同盟)の「連携・調査団」が来日し、9月1日から3日までにJA全中の萬歳会長らと懇談したほか、JAグループをはじめ生協、漁協などからヒアリングするとともに群馬県のJA佐和伊勢崎を訪問するなど現地調査も行った。帰国を前にジャン―ルイ・バンセルICA理事に今回の調査の印象とICAとしてのこの問題への今後の取り組みなどを聞いた。

自主的に組織のあり方を
民主・自治が原則

◆世界の協同組合運動に影響懸念

ジャン=ルイ・バンセルICA理事 ICAは6月の理事会で「連携・調査団」を構成し日本に派遣することを決めた。メンバーはICAのポーリン・グリーン会長ら理事3名。このうち今回来日したバンセル理事はフランスの協同組合銀行グループのひとつ、クレディ・コーペラティフ会長でICAの原則委員会議長も務めている。
 1日の懇談で萬歳会長は日本の規制改革の動きに対して、ICAのグリーン会長をはじめ各国の協同組合が連帯のメッセージをいち早く表明したことに感謝を表明し、来年に向けての日本政府や国会の動きの見通しや、JAグループとして自己改革に着手したことなどを紹介した。
 これに対しバンセル理事はICAとして速やかな協力を決めたのは「日本の協同組合、とくにJAグループがICAにとって重要だからだ」と話し、「日本で起きている問題は世界でも起きていていろいろ影響や動きがある。だからこの連携・調査団を立ち上げた」と述べ、まずは現状を理解することが私の役割と話した。
 関係者へのヒアリングと現地調査後にインタビューでは「協同組合原則」(1995年ICA採択)の第7原則「地域社会への配慮」が重要だと再認識したことをバンセル理事は強調し、10月のICA理事会では、日本の規制改革の動きについて6月に表明した協同組合の原則である民主主義、自治への懸念に加え、協同組合が「地域社会に貢献していること」を改めて強調する方向で報告書を検討する考えも示した。

(写真)
ジャン=ルイ・バンセルICA理事

 

――日本での調査を終えて、現時点でのお考えをお聞かせください。

 今回は3日間でしたが、日本の方々からいろいろな情報収集ができJA組織のさまざまな方から多くのことを教えていただきました。次のステップは今回の調査内容を連携・調査団としての報告書にまとめることで、10月にカナダのケベックで開かれるICA理事会で決定します。
 ICAは120年前に設立された世界でもっとも古いNGO組織の一つです。もちろん各国の政策は尊重しますし農業政策に関しても基本的には日本政府が決めることだと思います。ただ、一方で協同組合の原則にとって何かしらマイナスになるようなことがあってはならないと思っています。
 日本の農協法の改正は現在進行中ですから、まだ何か決断を下すには早い時期だとは思いますが、私たちの現時点での考え方、とくに協同組合の原則に関わることについては提示できると考えています。
 今回は農林水産省からも話を伺いましたが、その場でも主張したのは3つの原則です。つまり、「民主制」、「自治」、「地域社会への配慮」です。6月に発表した日本の規制改革会議に対するICAのプレスリリースでは民主制と自治の2つの原則にしか触れていませんが、今回の3日間の調査で協同組合原則の7番目の「地域社会への配慮」もこれから主張していかなければならない重要なことであると認識しました。
 協同組合は事業だけではなく地域社会をよりよくしていくために貢献していく役割も担っているので、協同組合の事業を限定するようなかたちはあるべきではないと考えています。日本のような協同組合が定着して重要な役割を果たしている国において不当な理由で協同組合の原則が揺るがされるようなことがあってはなりません。JAグループと日本政府との関係にやはり懸念を抱いているところではあります。

 

◆よりよい社会へ

萬歳章JA全中会長(左)と握手するバンセル氏 2012年の国際協同組合年のモットーは協同組合を通じて世界をよりよくしていこう、でした。国連も、協同組合とは単なるビジネスではなく、一人一人により権限を与え、よりよい世界を構築していくという考えでした。
 もうひとつ重要なことは経済にもより弾力性を持たせるということです。世界的金融危機が起きたときに、利益追求のみが強調された結果、つまり、経済が弾力性を欠いた結果があのような事態になったのではないかとわれわれは学んだわけです。多様性ということが叫ばれるようになってきましたが、利益を追求する営利目的の民間企業に加えて非営利団体である民間組織というのもやはり必要だと思っています。これは日本のみならず世界のさまざまな国にあてはまることだと思いますし、多様性の恩恵は世界中が受けられると思います。

(写真)
萬歳章JA全中会長(左)と握手するバンセル氏

 

◆葬祭事業の意義

――日本のJAについてとくに印象に残ったこと何でしたか。

 印象深かったのはJA佐和伊勢崎のメモリアルホールです。ここまでJAの活動が広がっているんだなと非常に関心を持ちました。というのも葬儀というのは単なるビジネスで済まされるものではないと思っているからで、実際、多くの国では協同組合が葬祭事業を行っています。
 それはやはり地域社会への配慮という原則があるからだと思います。実際、葬儀は農業者だけでなくすべての人に関わることです。総合事業という意味であのようなメモリアルホールまで運営しているというのは、JAも農業者を単なる生産者ではなく地域に生きる生活者として見ているんだという印象を強く持ちました。

 

◆直売所の可能性

 それからJAの将来のあり方を示唆するものはないかとも思ったのはファーマーズ・マーケットです。そこは農業者と消費者の重要な関係を表すもので、消費者にとって価格だけが重要ではなく、どこで作られたのかトレーサビリティが非常に重要になってくると思います。
 昨日販売されていた商品にはすべてラベルが張ってあってどこの生産者が作ったのか分かるようになっていました。こうすれば商品に対する信頼感も増すと思います。消費者にとって価格だけではない重要な要素が提供できていると思います。 とくに先進国で懸念されていることは国民の健康です。JAの直売所はまさに国民の健康に配慮しているという印象も受けました。農業はやはり利益の追求だけではないと感じます。

 

――中央会、連合会を含めた協同組合組織のあり方についてどうお考えですか。

 協同組合の組織のあり方についてICAとしては固定的な見方はしていません。各国に歴史的な経過など固有な問題があるでしょうから、こうあるべきとは考えていません。ただ重要なことはやはり民主的であることですから、各国の多様性に応じてそれぞれが自主的な組織として、自分たちにとってもっともよいかたちで協同組合をつくっていくことが望ましいと考えています。
 萬歳会長も自己改革を行うことを発表されていますから協同組合として変革のときを迎えているのかもしれません。ただ、どのように今後、JAが変革を遂げていくかというのは、あくまでも日本でJAが決めることだと考えています。

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