3・10「農山漁村女性の日」 JA改革を牽引する女性参画2017年3月8日
営農・生活両面で存在感
超高齢社会で「生き方」示す
特別寄稿:伊藤澄一JA全中元常務理事
3月10日は「農村漁村女性の日」である。JA全中元常務理事で、女性部組織を含めたくらしや広報・教育部門を担当して女性参画を推進し、4月から家の光協会登録講師予定の伊藤澄一氏に、女性のJA運営参画について寄稿してもらった。
第27回JA全国大会では自己改革の基本目標として、「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」および「地域の活性化」を定めた。これらを進めるために農業や地域に根ざした女性の視点が必要となっている。そこで「女性のJA運営参画」の運動経過を見てみたい。
以下の図と表は、女性のJA運営参画データ(JA全中)だ。平成11年から(1)正組合員比率(目標25%以上)、(2)総代比率(10%以上)および(3)役員数1JA2名以上の3目標数値があり、平成28年に(3)が横ばいとなったことを除き、右肩上がりで伸びてきた。平成28年/平成11年でみると、(1)は1.8倍、(2)は4.4倍、(3)は8.3倍となった。この間はJAが広域合併や地域によっては「最後の合併」、さらには支所・支店等の統廃合など厳しい組織改革を行ってきた時期でもある。組織の見直し・合理化と女性のJA運営参画はベクトルが異なる取り組みに見えるが、現下のJA改革に先行するとともに自己改革をけん引する運動でもある。
◆女性の正組合員化
正組合員は農業生産者としてJA組織の構成員のコアである。そのコア部分の多様化の一つが女性たちの登場だ。もともと女性農業者は農業従事者の半分に近く、活動内容も多様で農産物の加工など6次化の担い手でもある。
正組合員数は漸減傾向を経て平成28年は443.77万人、うち女性は93.75万人となり、(1)は21.13%となった。目標の25%に達するためには、現在の正組合員数を減らさないとすれば、女性をさらに23万人程度増員して117万人にするという取り組みだが、これまでの推移からみて容易ではない。しかし、農業に従事する女性たちの正組合員化は、担い手の多様化やJAの女性総代・役員登用、女性認定農業者、女性農業委員へと道を拓くためにも、必須のプロセスだ。女性は暮らしの場での生活実務の担い手でもあり地域事情にも精通している。これまでのキャリアをもとに農業生産の主体的な役割に就くことでその姿も可視化されることになる。
◆多様な女性たちの活躍
女性の准組合員にあっても、地域の農業・農産物に関心をもち、安全・安心な食材をJA直売所に求める生活者として、またJAがインフラ機能としてもっている多様な事業の利用者として、さらには「くらしの活動」や学習の場としてJA女性部などで活動するパートナーとして、その存在と役割は大きい。なお、平成28年は准組合員が584万人、うち女性は225万人となり、女性比率は38.5%となった。間もなく40%を超えることを視野に准組合員問題を検討する必要がある。
ちなみに、正・准組合員全体では1028万人、女性も318万人となり、女性比率は30%を超えた。また、全国のJA女性組織60万人のメンバーもJA改革に向けた発言と行動を続けており、JA経営に参画するリーダーも数多い。加えてJAの課長職以上の女性管理職も2679人、女性比率8.3%となり、20%を超える県もある。職場から女性の視点で日々の仕事の見直しを行っている。
なお、この数年、都会の若者たちが農山村に移住する田園回帰の流れが鮮明になってきた。都市生活者の3割が農山村に移住してみたいと考え、移住希望者の9割は農業とのかかわりを意識しており、自治体・JAのサポートを望んでいる。農山村のもつ自然的・人間的な包容力や雇用調整の緩衝機能を若者が認め始めている。農山村に移り住み農業を志す若者をJAが支援し定着させることは、新たなJA組合員を迎えることにつながる。家族をもてば地域社会の活性化につながる。農村で輝いて生きてきた先輩組合員たちと移住者との交流の場づくり、受け皿づくりは自治体とも連携して進めるべき急務のテーマとなってきた。このような新たな潮流のなかにも若い女性たちがいる。
◆総代としての経営参画
平成28年のJA数は660。うち総代会制度を導入していない123JAを除いた537JAが母数となる。総代数28万4000人、うち女性総代は2万3900人となり、(2)は8.4%となった。平成11年以降、右肩上がりを続け、目標の10%に近付いた。総代の役割を通じて、総代会やJAによる地域ごとの座談会や説明会でJA経営を理解し注文や意見を述べることができる。このような女性たちの活動の受け皿になっていくことで、JAは協同組合として社会的な教育組織、経済的な事業組織の両面の機能を果たしていくことになる。それぞれの地域に根ざすJAならではの風景だ。JAが自己改革で成すべきことを営農と生活の両面で理解するのも女性総代たちだ。
◆活躍する女性役員
JAの役員等(理事・経営管理委員・監事)は減少の一途できたが、女性役員は増加してきた。660JAの役員総数は1万7467人、うち女性役員数は1305人となり、(3)は7.5%となった。1JAの女性役員数はほぼ目標の2名(1.98人)となり、役員0JAは122となった。大規模な農業が展開され離農者の農地を引き継ぐなど事情が異なる北海道を除いた内地JAだけでみると、(3)は8.15%となり、1JAの女性役員数は2.34人、女性役員0JAは24となる。平成21年当時、女性役員0JAが全国で400あったが、農水省の特例措置でJAの定款に女性理事枠を設けたこともあって弾みもついた。
一方で、28年の女性役員数は前年の1306人から1名減となった。これは役員等のうち、理事数が1143人から1136人となり7名減となったことによる。女性のJA運営参画をけん引する重要な指標である理事数が初めて減少する事態である。1JAの女性役員2名の到達感、さらなるJA広域合併や1県1JAの動きなどによる理事等の総枠の減少、農協法改正で理事の構成要件も議論されるなかで、女性の役員数が右肩上がりで増えるこれまでのトレンドに変化が生じている。1万1000人を超えた女性認定農業者などからの登用やこれまで上昇トレンドの女性役員比率が注目の指標となる。また、JA役員を経験した女性たちが農業のかたち、地域ごと、JAの特質ごとに得意分野でリーダーシップを発揮して2期、3期目の任期を活躍してほしい。女性組合長もこれまでにも誕生しているが、このような動きのなかから3人、5人の輩出を期待したい。
今年、農協界は3年に一度の大きな役員改選が行われる。理事会、経営管理委員会という執行体制のなかで、もう一段の女性役員の登用を積極的に進めてほしい。
◆3目標達成JAが増加
運動というものは、その途中であらたなモチベーションをもつことがある。(1)、(2)および(3)の目標をすべて達成するJAが現れるようになり、それに続くJAが平成28年には84、15.6%となった。これは各JAの中長期計画やそれを受けた単年度計画に明確な方針と具体策を講じて、しかも時間をかけて実現していく過程があるので、地道な取り組みだ。3目標を達成した先行JAを目標にして、2目標達成のJAが170、1目標達成のJAが230となった。もう一つの指標ともいえる3冠JAへの道ももう後戻りすることはない。3目標ともに未達成のJAは53に減少した。このように女性参画を前提としたJAづくりが自己改革につながっていく。
◆女性活躍と健康寿命の創造
「女性活躍の場づくり」などというが、農作業・家事・子育て・舅姑の世話などを経て老境にさしかかったとき、女性たちは疲れている。ここに至る女性たちの役割をいかにシェアし軽減していくかがテーマだ。そのうえで、男女ともに健康寿命を延ばすことを目標とする超高齢社会を生きなければならない。人の手助けを必要とする期間を経て人生を閉じるのだが、その期間は、一般的には男性が9年、女性が12年くらいとされる。女性たちの農業や地域とのかかわり、JAを通じた学習・教育の機会との出会い、JAの運営・経営を通じた社会参画、そのような生き方を先生として次世代にリレーする積極的な生き方を選択する個々人とその仲間には、自らの健康寿命の創造という副次的効果がもたらされるに違いない。
世界は超高齢社会の日本の農村・農協の女性たちの社会参画を「生き方のモデル」として注視している。今後もJAが踏み固めた右肩上がりの女性活躍の動きを着実に進めていくことが大切だ。
◆「農山漁村女性の日」とは
女性の社会活動への参加を促し、21世紀の農林水産業、農山漁村の発展に向けて女性の役割を正しく認識し、女性の能力の一層の活用を促進することを目的に、1987年度に設けられた。3月上旬は農林漁業の作業が比較的少ない時期であり、また、古くから女講等女性の自主的な活動が行われ、女性が学習や話し合いをするために適切な時期であること、そして、農山漁村女性の3つの能力(知恵・技・経験)をトータル(10)に発揮して欲しいという願いも込め、3月10日となった。
(写真)農山漁村男女共同参画推進協議会による優良活動の表彰式(3月7日、東京大学安田講堂)
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