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【農協と独禁法(2)】高瀬雅男福島大名誉教授に聞く2017年4月11日

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独禁法適用拡大傾向
協同組合の否定にも

 JA土佐あきが公正取引委員会から排除措置命令を受けた問題は、農協の共同販売が初めて独禁法違反とされた事例となった。公取委の認識に対して同JAは反論しており今後抗告訴訟も視野に入れている。協同組合と独禁法適用除外を研究してきた高瀬雅男福島大名誉教授に聞いた。

◆適用除外で独占抑制

高瀬雅男・福島大名誉教授。近著に参考文献とした『反トラスト法と協同組合』日本経済評論社2017 独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)は昭和22年(1947)に制定された。福島大学名誉教授の高瀬雅男氏は独禁法の制定と公正取引委員会の導入は、戦後の民主化の一環で▽財閥を解体し経済力を分散する、▽協同組合や労働組合など民主的勢力を育成する、という目的があったと指摘する。いわば巨大経済勢力への対抗軸を育成することで独占の抑制を図ろうということだった。そのために協同組合などの組織には、独占禁止法の適用を除外することを規定した。それが22条だ(平成11年〈1999〉以前は24条)。
 独禁法22条は「この法律の規定は、次の各号に掲げる要件を備え、かつ、法律の規定に基づいて設立された組合(組合の連合会を含む)の行為にはこれを適用しない」とし「ただし、不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における競争を実質的に制限することにより不当に対価を引き上げることとなる場合は、この限りではない」と規定している。
 そして適用除外となる組合について、"次の各号に掲げる要件"として4つあげている。
 「一、小規模の事業者又は消費者の相互扶助を目的とすること。二、任意に設立され、かつ、組合員が任意に加入し、又は脱退することができること、三、各組合員が平等の議決権を有すること、四、組合員に対して利益分配を行う場合には、その限度が法令または定款に定められていること」。
 つまり、農家、小規模事業者、または消費者らが、協同組合の要件(相互扶助、加入脱退の自由、平等な議決権、出資配当制限など)を満たし、法律に基づいて組織した組合は独占禁止法の適用除外としたのである。ただし、どんな行為でもいいわけではなく、不公正な取引を用いる場合などは独禁法適用となる。
 条件はあるものの、条文に明記されているように独禁法適用除外は「組合の行為」が対象となっている。共同購入、共同販売は組合の行為以外の何ものでもないと思われるが、高瀬氏によればこの「組合の行為」をどうとるかが問題で、学説も分かれているという。また、公取委も、その時々で「組合の行為」をどう解釈するのか、立場が変わってきたという。

◆農協解体も狙いか?

 高瀬氏によると、今回のJA土佐あき事件と類似の事例としては平成22年に警告を受けたJA新はこだて花き組合の事例があるという。花き組合が農協への全量出荷を義務づけ違反すると除名にしたなどの行為に対し、農協ではなく花き組合に警告した。農協は違反行為を働きかけておらず、組織的関係はないとした。農協に対しては指導を着実に実施することを要請するにとどめた。
 一方、JA土佐あきの事例も支部園芸部を外部組織と認めたうえで、園芸部には口頭注意、にも関わらずJAに対しては排除措置命令となった。その差はどこにあるのか、現時点で理由ははっきりしないものの、高瀬氏も「違和感がある」と話す。 そのうえで指摘するのが独禁法適用事例の拡大傾向である。
 当初は明らかに不公正な取引方法を適用していた事例が多かったが、近年では農協に対して私的独占や不当な取引制限、組合間の価格協定などを適用し、明らかな法運用の拡大もみられるという。 同時に農協改革との関連も指摘される。公正取引委員会は、農協法改正に合わせ農業分野タスクフォースを設置し、独禁法違反の疑いがある場合は「厳正かつ効果的」に対処する方針を示しているほか、農業者、商系業者からの情報提供窓口も設置した。
 さらに、適用除外を厳しく狭めるのではなく、そもそも農協を適用除外の対象でなくせばいい、との考えも出てきた。農協の株式会社化がそれだ。今回の農協法改正で可能になった。
 「適用除外を規定した独禁法22条を改正するのではなく、農協を株式会社にして独禁法の適用対象にする。つまり協同組合は否定はしないが農協は敵視するという現政権の姿勢が垣間見えると思います」(高瀬氏)。

◆農民が勝ち取った権利

 戦後の日本に導入された独占禁止法と、農協などへの適用除外は実は米国の農民が歴史的に勝ち取ったものである。
 南北戦争後に株式会社が発達した米国では、カルテルを結び物価を釣り上げたり、一方、農民から買い叩くなどの行為が生まれたことから、19世紀の終わりに独占行為を違反とする法律が生まれた(州の反トラスト法、連邦のシャーマン法)。ところが、その法律は農協も労組も、取引を制限する農民や労働者の結合であるとして、シャーマン法が適用されるなど弾圧を受けたのだという。大資本に対抗して組織した農協や労組に、逆に反トラスト法が適用されてしまったことから適用除外運動が起きた。
 その後、農民運動を背景に20世紀になって、価格決定力がない農民に対等な立場で販売する機会を与えるため、組合を設立する権利などを法制化し(クレイトン法、カッパー=ヴォルステッド法)、そのなかで反トラスト法の適用除外を規定していったという歴史があるという。カッパー=ヴォルステッド法はわずか2条の「農産物の生産者の組合を承認する法律」である。ところが、そこで組合員要件や組織要件、活動要件などが、反トラスト法の適用除外要件として位置づけられている。一定の要件を備えた組合を組織すれば、それは適用除外の対象となるという権利を農民が勝ち取ったといえるだろう。高瀬氏は「このような歴史もふまえて、農協と独禁法についてもっと研究し、公取委の勧告等に従うだけでなく、JAグループも法的に主張する体制をつくっておく必要があるのではないか」と話す。
 平成25年(2013)の独禁法改正で審判手続が廃止され、排除措置命令に不服のある者は裁判所に抗告訴訟を提起できることになった。今回、JA土佐あきが抗告訴訟をすれば初の訴訟となる。高知大学の教員経験もある高瀬氏は「高知の人々には自由民権運動の伝統があり間違いだと思うことは、長いものに巻かれず主張する風土がある。訴訟も辞さないとの思いは当然だと思う」と話している。
(高瀬雅男・福島大名誉教授。近著に参考文献とした『反トラスト法と協同組合』日本経済評論社2017)

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