【農協と独禁法】JA土佐あきに排除措置命令2017年4月11日
共同販売は農協の原点
独禁法適用は「不当」の声
高知県のJA土佐あきは3月29日に公正取引委員会から、ナスの共同販売に関して独占禁止法に違反(第20条第2項)しているとして排除措置命令を受けた。同日、JAは「公正取引委員会からの排除措置命令について」と題した文書を長野隆代表理事組合長名で発表し、これまでの経過を説明するとともに、今後の対応については命令書の内容を「慎重に検討し決定したい」との考えを表明した。また、4月3日にはJA管内の7つの園芸集出荷場を利用しナスなどを出荷しているJAとは別組織である支部園芸部の代表者が、これまでの報道に誤解が多いことなどから支部園芸部の運営やJAとの関係を改めて説明、公取から支部園芸部への注意事項は真摯に受け止めるものの、「JA土佐あきが独禁法違反とされることは誠に遺憾」とする文書も公開した。今回はこれらの文書の内容を中心に、同JAや関係する生産者の声とともに紹介する。
◆支部園芸部は独立組織
公正取引委員会がJA土佐あきに対して独禁法違反とした行為はナスの販売について。組合員に対し、系統以外に出荷することを制限する条件をつけて販売を受託していたという拘束条件付取引に該当するという内容だ。一部では全量出荷をJAが強制していた、などとも報じられた。どのような事情からこうした認定がなされたのか。以下、同JAの発表した文書や関係者からの説明をふまえて、まずは経過とJA組織や事業に関する基礎的な事実を整理していきたい。
◆ ◆
JA土佐あきがこの問題を指摘されたのは平成27年7月28日のことである。このときに公取委が問題にしたのはJA土佐あきの共同出荷施設を利用する生産者組織(以下、支部園芸部)の規約が全量出荷を強制している疑いがあるというもので、JAと支部園芸部は任意調査に全面的に協力した。
JAによると支部園芸部は現在JA管内に7つある園芸集出荷場を利用している生産者組織で、戦後に総合農協が誕生する以前に園芸組合として組織されたもので、なかには大正時代からの支部園芸部もあるという。
平成10年に12JAが合併してJA土佐あきが設立された後も、従来のままJAとは別の独立した組織として存続し、規約を持ち総会で意思決定、独立採算制で各集出荷場の運営を継続してきた。
平成27年7月、この支部園芸部が規約に基づいて支部員(農家)から徴収していた手数料など(系統外出荷手数料など詳細は後述)が問題とされ、さらに当初はJAとは独立した組織ではなく内部組織であると認定された。そのためにJAが問題の手数料等を徴収しているのだから、JAが独禁法違反(排他条件付取引)をしているとの命令書「案」が示された。それが昨年(28年)5月である。
その後、意見聴取や10月の立ち入り検査を通じて、支部園芸部は内部組織ではなく独立した組織であること、支部園芸部が系統外手数料等を定め徴収していたと認定した。そして今回、公取が改めて示した命令書はそれを認める内容にはなっている。
◆運営は構成員の合意で
JAと独立した組織である支部園芸部は園芸集出荷場を利用している農家の組織だ。集出荷場を運営する事務、会計業務、パート従業員などの経費を独立採算制でまかなっているが、それらの事務処理を農家が行うことは無理なため、農協と事務委託契約を結び、経費の支払いなどをJAに代行してもらっている。
さらに集出荷場に導入した自動選果・包装ラインなどの機械もJAに支払いを立て替えてもらっているため支部員から徴収し支払っている。
今回問題とされた手数料などは、こうした事務経費や機械導入費の支払いなどの負担に関して支部園芸部の構成員が合意のうえ取り決めたルールなのだが、それについての誤解や事実と異なる報道が多いとして、4月3日には支部園芸部組織の代表者である本部園芸運営委員会の齊藤仁信会長が文書を発表した(「公正取引委員会からの口頭注意について」)。
そこで強調しているのは、公取委などが参考資料で示しているJAが支部園芸部から徴収している「手数料」とは「事務委託経費」のこと。
事務委託を受けたJAは農家の販売代金から諸経費を差し引いた2.7%を事務委託経費として預かり、別途0.8%を支部園芸部の代表者口座に振り込み、それは支部園芸部が活動費として自由に使っている。
こうした仕組みになっているのだが、JAの説明図(図参照)にあるように、ほとんどの農家が系統だけではなく系統外にも出荷している。その割合は農家によって異なるが、全体で系統出荷は5割程度である。共同集出荷場のなかには商系業者の置き場を設置しているところもあるという。これも支部の判断である。
しかし、系統出荷量が少ないと事務委託経費が不足することになりかねない。そのような事態にならないよう、一部の支部では農家の申し合わせで、支部員の自主申告制で「系統外出荷手数料」を集めることにしていた。目的は事務委託経費をまかなうためなのである。
管内7つの集出荷場のうち6施設には自動選果・包装ラインが導入されている。導入によって栽培作業に専念できるため高品質・高収量をめざす若手農業者が増えてきているという。繁忙期には集出荷場利用は負担軽減になるし、高齢農家にとっても栽培を続ける手助けになる。
◆事実を基に認識共有を
こうしたことから集出荷場が存続していることは地域農業にとって重要であると支部員たちが考え、そのために「系統外出荷手数料」を自主的に集めて自らが所属する支部園芸部の運営にあてていた支部園芸部もあった。
公取委が命令書とともに公表した参考資料ではJA土佐あきが販売手数料を徴収しているかのような図が掲載されているが、実際は先にも解説したように経費の預かり金であって、JA土佐あきの「ナスの委託販売は収益がないのです」(齊藤仁信会長)ということである。
さらに公取委は罰金を徴収していたと指摘しているが、これも支部員がみんなで公平に機械導入費を負担するために知恵を絞ったものだ。
自動選果ラインなどは支部員が望んで共同購入したものであって、当然、代金を立て替えたJAに支払う義務がある。ただ、当初は自動選果ラインを利用しようとしていた農家のなかに、あまり利用せず部会が定めた目標出荷量に満たない人もいる。そうなると計画出荷している支部員にだけ支払い負担がかかることになるため、目標未達の支部員にも通常機械利用料金の半額を負担してもらうことにした。これを「反当徴収金」と呼ぶが、当初に約束した利用料金に対するいわばキャンセル料というのが「正確な意味」。予約していた宿泊を取りやめたら、キャンセル料をとるというようなものである。それを部会として決めた。罰金といった性格ではなく系統外出荷を制限するものでもない。支部員が公平に負担するために合意した知恵だといえる。
ただ、販売単価の上昇などで手数料収支は改善し、現在は系統外手数料は廃止された。また、反当徴収金は機械費用の支払いが終了したことから徴収はなくなっている。
◆ ◆
ここまでJAや齊藤会長からの話をもとに整理したが、報道されていることと大きく違う。むしろ各地のJA、生産出荷組織で取り決めているルールと本質的に大きく異なるものではないことが分かるのではないか。同JA管内の出荷組織は共同販売の原点であり、これまで自主独立で運営してきたことは先駆的な組織だともいえる。
そうした組織が結集力を高め、安定供給を果たすこともブランド力、販売力につながる。組織への加入脱退はもちろん自由だが、一方で組織として信用を失うことにならないよう退会などのルールはどこにもあるはずである。
今回の件では、当初から支部を「除名された」という生産者の存在が問題になっている。ただし、齊藤会長によると事情はある問題をめぐって本人自身から除名扱いの申し出があり、支部総会としてもその申し出を了承したのだという。
ただし、支部員を除名になったからといってJAの組合員まで除名になっているわけではなく、JAが販売委託を拒否したなどという事実はない。また、そうした農家から販売を委託された事例もないという。
こうした実態にありながらも、公取委の排除命令措置は、系統外に出荷することに制限を設けた販売受託を行わないことや、それを理事会で確認し組合員に通知することなどを求めている。しかも、組合員への通知方法は公取の承認を受けなければならない。
高知県のナスの出荷量は全国出荷量の15%を占めて全国1位である。そこに共同販売の力があったことは言うまでもないことだろう。
長野隆JA土佐あき代表理事組合長は「高知県は必ずしも農業に適した県ではありません。山林が84%、農地が16%です。少ない面積のなかで高収入を上げていこうと努力して日本一といわれるナス産地を確立してきました。そのための生産者や生産組織の長年の努力は評価されるものであり、出荷先についても生産者が選択してきました。JAが制限をするようなことはありません」と話す。
また、齊藤仁信会長は「集出荷場のルールはわれわれ農家が決定することであって土佐あき農協から支部園芸部に対して指揮命令を受けることはなく、ましてや土佐あき農協から系統外出荷することを制限されたこともないにも関わらず、土佐あき農協が独占禁止法に違反したとされることは誠に遺憾」と強調している。
同JAでは今回の件はJAグループの共同販売に関わる問題だとして抗告訴訟を視野に命令書の精査を進めている。
(写真)JA土佐あきの本店、高知県は日本一のナスの出荷量を誇る
(資料/JA土佐あき)
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