【JA全中 比嘉政浩専務理事に聞く】全組合員調査で結果を2017年8月14日
・5年後検討条項への「取組具体策」を決定
・期限を意識し改革着実に
JA全中は7月28日の理事会で「JA自己改革の実践と改正農協法5年後検討条項をふまえた取組具体策」を決めた。改正農協法附則では、平成33年3月までに准組合員の事業利用規制のあり方について、利用状況や改革の実施状況を調査・検討し結論を出すとされている。これに対してJAグループは第27回JA全国大会決議を実践しており30年度末までに各JAが自己改革を着実に実践、十分な成果を上げ組合員から高い評価を得るとともに、内外により一層の情報発信をしていくことが重要になっている。具体的には31年4月に准組合員も含めた全1000万人組合員調査で高い評価を得ることとしており、今回決めたのはその目標に向けた取り組み。JA全中の比嘉政浩専務は「期限をしっかり認識し、危機感をもって自己改革を実践する必要がある」と強調する。取組具体策のポイントを聞いた。
◆全JA調査で「実績」を発信
JA全中は1月の理事会で「農協法5年後検討条項をふまえたJA自己改革の取り組み状況と今後のすすめ方について」を決めた。その後、2月から3月にかけて全中役員が全国を巡回してJAトップ層と意見交換し、それに基づき今回、修正を加え取組具体策を盛り込んだ。
比嘉専務はキーワードは「実績、評価、計画」の3つであり、これらを内外に向けて「情報発信」することだと強調する。
「実績」とは自己改革の実績である。JAグループは30年度を自己改革集中期間の終了年度としている。そこで自己改革の取組結果を把握し対外的に情報発信をするため、全中は31年4月1日を基準日とした「全JA調査」を実施する。
全JA調査はこれまでも毎年実施されているが、対外的な情報発信に活用できるよう調査項目を見直していく。たとえば農業経営管理支援事業について、これまでの調査では「何割のJAが取り組んでいるか」とJA事業の進捗状況を示すものだったが、31年度調査ではこの事業を「何人の農家組合員が利用しているか」を示すかたちに変える。
さらに情報発信ツールとするため「JAの活動報告書」を作成することにしており、すでに6月に28年度調査結果を「地域とともに生きる―JAの活動報告書2016」としてまとめた。これをもとに今後、調査項目や報告書のあり方などの見直しをすすめる。調査、報告書づくりは30年4月にも実施することにしており、31年4月本調査に向けて準備を進める。
(図)JA自己改革の取り組みと「農協改革」の動き
(クリックするとPDFファイルが開きます)
◆確信持って全戸訪問へ
2つめの「評価」とは「組合員による高い評価」を得ることである。
JAグループは31年4月1日を基準日とした全組合員を対象にした「組合員調査(仮称)」を実施することにしているが、この調査はJA役職員による全戸訪問アンケート調査とすることにしている。
各JAが販売事業、購買事業などの具体的な事業改革を実践することはいうまでもなく重要だ。ただ、同時に地域のJAが「どのような改革に取り組んでいるのか」、JAの「総合事業はなぜ必要なのか」などについての情報発信や自信を持った説明がなければ高い評価も得られないだろう。その意味で全役職員による全戸訪問調査は「JAグループの将来を決定する」との認識が必要だ。
そのため各JAは研修会や学習会を通じて、全役職員の情勢認識と危機感、今後のすすめ方について共有するとともに、協同組合理念やJAの役割についても改めて認識を深めることが必要になる。
組合員調査では営農指導事業や農産物販売事業、生産資材購買事業などへの期待、満足度、改善度などのほか、JAの総合事業展開や准組合員制度なども調査することになる。「農業や地域のためにJAやJAグループはよくやっている」という評価を得ると同時に、今後も総合事業を展開することや准組合員制度を維持することに賛同が得られるよう、組合員の理解促進を図る役職員のコミュニケーション活動が重要だ。
調査実施にあたり29年度はモデルJA調査(12県15JA)、30年度は全JAで試行調査(組合員を抽出して調査)を実施し、31年4月調査の内容や実務を設計する予定だ。
◆総合経営を「計画」する
3つめの「計画」とは自己改革の実績と評価をもとにした次期中期計画の策定である。
多くのJAでは31年度が次期中期計画の初年度となるが、そこに総合経営だからこそできる今後の取組計画を盛り込むことが今後の重要な取り組みとなる。
次期中期計画の検討でポイントなるのが代理店化の是非も含めた将来の経営形態を明らかにすることである。信連と農林中金は29年度上期をめどに手数料水準を含む代理店スキームをすべてのJAに提示することにしており、各JAは信用事業の運営体制のあり方を検討し31年5月までに結論を出すことにしている。したがって31年度からの中期計画では将来の経営形態を明らかにする必要がある。中期計画の策定年度が異なるJAは31年度事業計画にそれを盛り込むことを検討する。
信用事業の代理店化についてはJAによって手数料が異なるためにそれぞれのJAに提示する必要があるが、それをもとにどう選択するかは、その検討経過を明らかにしつつ、あくまでJAが判断することである。
26年の政府の規制改革実施計画では、信用事業の譲渡・代理店化方式について「活用の推進を図る」とされているが、昨年11月の自民党政務調査会の決議では「あくまでも選択肢として、JA自らが判断すること」とされた(28年11月25日「農業競争力強化プログラムの策定にあたって」)。また、3日に就任した齋藤農相も就任会見で「金融事業を代理店化しなさいといっているわけではなく、それぞれが判断する制度になっている」と明言した(3面記事)。
こうしたことをふまえて比嘉専務は「多くのJAは総合経営を選択すると思うが、堂々と判断すればいい。そのうえで、これからも総合経営を維持することや、総合事業を展開することが農業者の所得増大や農業生産の拡大に有利であることを次期中期計画で宣言してほしい」と話し、このような一連の「実績」「評価」「計画」の取り組みを情報発信することが国民理解の促進につながるとする。
◆准組合員を農業応援団に
取組具体策の重点実施事項には「組合員の変化をふまえた組織基盤強化」がある。
第27回大会では組合員との関係づくりをすすめアクティブ・メンバーシップの強化に取り組むことを決議したが、5年後検討条項をふまえ、「(1)正組合員の維持・拡大」、「(2)准組合員のJAへの理解促進、意欲ある准組合員の参加・参画の促進をはかる」の2つに取り組む。
准組合員はあくまで組合員であり員外ではない。しかし、准組合員の事業利用が「実質的に不特定多数の事業展開」だという指摘もある。それが事業利用を制限すべきとの主張の背景ともなっている。
そのため准組合員には新規加入の際に地域農業やJAに関する説明を行うほか、訪問活動を通じて積極的に接点づくりを行い、准組合員も「組合員」としてJAの「地域農業振興」への理解や「食べて応援」などへの参加促進に取り組む。
また、31年4月実施予定の組合員調査では准組合員を「地域農業振興の応援団」として位置づけるために、地域農業振興を応援する意思を確認する質問項目を盛り込むことを検討する。調査の結果、准組合員が農業応援団となる意思を示せば、准組合員も「食と農を基軸として地域に根ざした協同組合」をともに支えるパートナーであり、地域の農業と暮らしを豊かにするためにJA事業を利用する組合員であることが明確になる。
また、意欲ある准組合員には正組合員と同様の情報提供と、組織活動への参加などJAへの意思反映・運営参画の機会をつくる取り組みを行うことにしている。
比嘉専務は「われわれがJA綱領の実現をめざして活動をすることは営々と続くべきこと。しかし、今回はさまざまな取り組みに期限が設けられているのも事実。その期限までに成果を上げ分かりやすく表に出していく取り組みが求められている。とくに全組合員調査が重要だ。危機感を持って実践していきたい」と話している。
調査結果の取りまとめは31年秋を予定。それをもとにJAグループはさらに内外に発信しさらなる取り組みをすすめることになる。
「改革待ったなし」とは、本紙も含め、しばしば主張してきたことだが、今回は、いつ、どこで、どのような成果を出すことが求められているのかが明確だ。組合員の評価がJAの将来を決める――。JA役職員が全力で組合員を巻き込む改革を進める必要がある。
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