【インタビュー・比嘉政浩JA全中専務理事に聞く】自己改革から新たな農協運動へ(後編)2018年5月21日
・全組合員とコミュニケーションを
・(聞き手)阿部勝昭・JAいわて花巻代表理事組合長
比嘉 そういう意見もふまえて来年実施しようという全組合員調査については改めて考えを整理し、目的の1つとして、きちんと政府と向き合うために組合員の正確な意見をJAグループとして自前でつかむということは変わりませんが、2つ目の目的として、これを組合員とコミュニケーションを深める契機とするということを加えました。最終的には試行調査の結果をふまえて8月の全中理事会で決めますが、アンケート実施期間を延長し、一次、二次と集計時期を柔軟に設定するなどの方向で検討していきます。 また、組合員にアンケートをお願いする以上はJA職員もその内容についてきちんと勉強していかなければなりませんし、自己改革の取り組みと成果を説明するためにJAで分かりやすい説明パンフレットなども作成する必要もあると思います。JA職員の方々が情勢と危機感を共有される契機にもなると思います。
阿部 この全組合員調査は、自己改革を通じて自分たちはこういうJAにしていくんだということをもう1回自分たちに問い直して、組合員に示していくということでもあると思います。
比嘉 組合員のみなさんから、うちのJAはよくやっているよと言ってもらえれば必ず将来展望はある。JAは不要と言われるようなことにはなりません。
◆農業振興の輪広げる
阿部 それからJAの事業のなかには生活や福祉など暮らしの活動もあります。これはJAだからできる事業で地域住民にもJAを利用したいという人は多い。むしろ地域からは組合員以外は利用できないのかという声もあるほどで、暮らしに果たすJAの役割は、まさに空気のように地域に根ざしています。准組合員の利用規制問題についてはどう考えるべきですか。
比嘉 事業を利用するために組合員になったのに事業利用を規制するなどそもそもおかしいことです。そんな法制度を持つ国は世界中にないという研究報告もあります。 それでも准組合員の利用規制をしようという意見があるのは、JAグループが、准組合員も組合員だと主張はしても、実際にはJAグループは組合員扱いしていないのではないかという批判からです。つまり、員外利用の延長ではないかと。もちろん、それに対するわれわれの答えは決まっているわけで、「准組合員は組合員である」です。したがって、これまで以上にしっかりと意見を聞き参加、参画してもらい農業振興の輪のなかに入ってもらうという運動も提案していきます。
地域住民が協同組合の事業に魅力を感じて利用したいと考えるのはきわめて自然なことであり、共済や住宅ローン、あるいは福祉事業などをきっかけにJAとつながりをもっていただければいい。ただ、ひとつの事業利用だけでなく、他の事業や活動への参加・参画を働きかけ、例えば、直売所を利用してもらうことが地域農業振興にもなることも理解してもらうといった、もう一段の働きかけをすることが重要だと思います。それが准組合員に農業振興の輪のなかに入ってもらうということだと思います。
阿部 まさに協同組合の輪のなかにどう取り込むべきかですね。ただ、都市部と違って地方での准組合員の捉え方はそもそも暮らしの活動や文化活動などに参加してもらい大事にしていますし、准組合員のほうもまたJAのさまざま事業に期待しているというのが実態だということも発信したいと思います。
(写真)比嘉政浩・JA全中専務理事
◆地域にねざす総合経営
比嘉 JAにとっていちばん身近な消費者である准組合員に地元の農業の特徴や現状、そしてJAの努力などを全国で伝えていって、准組合員はみんな農業の応援団だという姿を作り上げていかなければなりません。前回のJA全国大会決議では准組合員は地域農業の応援団と位置づけましたが、それを見える化し、数字にして示す必要があります。そのうえで、このようにJA運動のなかにいる人たちの事業利用を規制するのはおかしい、とこの問題を明快に断ち切らなければなりません。
一方、農水省はJA改革の評価に関する認定農業者等の調査を31年2月に行うと言っています。その調査はある意味で本番です。というのは31年5月に農協改革推進集中期間が終わるわけですが、その頃にその調査結果が公表されます。JAグループも全組合員調査をしますが、そのときはまだ結果は出ていません。そういう意味で来年2月の認定農業者等調査に向けて、この機会に地域の中心的な担い手などとJA役職員はぜひともコミュニケーションを深めていただきたいと思います。全中も優良事例をご紹介する報告書をまとめています。
阿部 認定農業者には私たちも常勤役員が意識的に訪問をしていますが、これから来年2月の調査を意識してコミュニケーションを深めていかなければならないと思います。
比嘉 それから農水省は30年度からは全JAと対話をするという方針も示しました。これにはきちんと対応する必要があります。
また、多くのJAでは次期中期経営計画の初年度が31年度になります。そこではJAとして引き続き総合経営をするか、それとも信用事業の代理店化を選択するかということを明快に示すことにしていますが、ほとんどのJAが総合経営を選択すると捉えています。
なぜJAは総合経営をするのかですが、それはJAの使命の達成、JA綱領の実現のためには総合事業が必要だからです。JAの使命である農業振興と安心して暮らせる豊かな地域社会づくりには総合経営がふさわしいということを明確にし、JA・県段階でも全国段階でも発信したいと考えています。
阿部 私は組合員のみなさんがJAは総合経営がいいと選択しているということが現場でのいちばんの強みだと思います。事業を分離して使い勝手が悪くなるような選択を組合員はしないということです。
(写真)阿部勝昭・JAいわて花巻代表理事組合長
◆新たな協同を見据えて
阿部 全中も一般社団法人になりますが、こうした全組合員の意見を集約したり、代表機能、政治的な交渉などさまざまなことを担ってもらわなければならないということはこれからも変わらないと思います。この農協改革を乗り切ってJAグループ全体の振興につながるようになってほしいと思います。
比嘉 ご指摘のような組織のみなさんの気持ちに応えて発言すべきことは発言し、行動すべきことは行動するという組織にならなければならないと改めて思います。
阿部 今年度はJA全国大会の開催年でもあります。県大会を先に開きその後に全国大会を開くという方針を聞いたとき、やはり自ら変わらなければと思いました。組合員のニーズが基本でそこからボトムアップで取り組み方針を決めていく実践が求められていると思います。
比嘉 その意味で今は将来に向けてある特定のJA像をめざすというよりも、協同組合として組合員の願いとニーズを実現するためにJAはさまざまな挑戦を懸命に行っているのが実情だと思います。たとえば労働力が不足しているという法人がいればJAとして労働力の斡旋に取り組み、GAP取得が必要だというのであればその支援に取り組むといったような個々のニーズに対応している姿かもしれません。
しかし、それを通じてこの世代交代期を乗り越えればその先に、次の協同の姿があるということだと思います。
阿部 今日の話を現場に活かしていきたいと思います。
この文章は後編です。前編は、【インタビュー・比嘉政浩JA全中専務理事に聞く】自己改革から新たな農協運動へ(前編)をご覧ください。
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