【JA全農米穀部山本貞郎部長に聞く】産地への生産提案進め 実需者ニーズに応える(1)2018年11月20日
・買い取りへの転換も促進
・インタビュー
JA全農は自己改革のなかで米穀事業については実需者ニーズに基づく作付け提案を産地に提示し、契約栽培を進めるなどの取り組みを進めている。30年産米の作柄と需給見通しとともに、米穀事業の成果と課題などをJA全農米穀部の山本貞郎部長に聞いた。
―30年産米の作柄と今年の特徴、それに基づく米の需給をどう見ていますか。
農水省の発表では10月15日現在の全国作況は「99」ですが、実感と合わないという声が聞かれます。それは今年の特徴としてばらつきがあるためだと考えています。そのばらつきには2種類あります。
1つは産地間のばらつきです。北海道と新潟という大産地の作況が90、95となり、そのほかにも「やや不良」となった県がある一方で、「やや良」となった県もあります。
もう1つはふるい下米が多いという産地と少ない産地というばらつきです。天候不順の産地では不稔の発生などによりふるい下米が多く発生している可能性があります。
ふるい下米を勘案した重量ベースでみるとやはり全体としては「99」だろうと思います。
そうすると重量ベースでは農水省の公表数値は昨年より2万t多い733万tですから、それをベースに需給がどうなるかを考えるのが基本だと思います。一方、農水省が示した需給見通しの生産量735万tよりは2万t少ないことも事実です。
農水省が7月に示した需給見通しでは31年6月末の在庫量は184万tとなっていますが、生産量はそのときの想定よりも2万t少ないので、それを単純に置き直せば在庫量は182万tということになります。
しかし、この見通しは需要量が1万t増え741万tになるという数値に基づく在庫見通しです。需要量によっては、需給見通しが大きく変わる可能性があります。農水省もこれまでのトレンドに基づく需要量見通しであるこの741万tは一度見直さなければならないとの考えをいろいろな場で示していますから、来年にかけての需給見通しを示す11月末の食糧部会ではどういう数値を見込むかはともかくとして、おそらく何らかの修正はするだろうと見ています。
これまでのトレンドで需要量は単純に1年間に8万t減少してきましたし、この3年間は毎年10万t以上減少してきています。かりに昨年の需要量740万tから、8万t需要が減少しただけでも在庫量は190万tを超えます。こうしたことから、決して在庫が182万tになるような、つまり、さらに不足感が強まるような需給環境ではなく、おおむね昨年と同じように均衡した需給環境にあるのではないかとみています。
(写真)JA全農米穀部山本貞郎部長
―30年産からはJA全農は米穀事業の転換をスタートさせたと思います。とくに実需者ニーズに基づく作付け提案を産地に提示し、契約栽培を進めるという取り組みについてはいかがでしょうか。
巷間言われるような業務用米の不足など、実需者ニーズとのギャップを埋めるために、生産側は多収穫米生産の取り組みを推進し、実需側に契約栽培で結びつけて供給するという事業を展開しています。末端の実需者ニーズをふまえて生産者に生産提案し、生産者と実需者間のウィンウィンの関係をつくっていって、それをJAを通じて扱うことによってJAと全農との関係も深め、集荷にもつなげていくという考えが基本です。
実際に30年産はすでに推進を終え、生産も終わって今は出荷の時期に入っていますが、需要に応じた生産という考えにもとづく契約栽培は1万tの目標はほぼ達成しました。
今は31年に向けて推進を開始しているところですが、目標を3万tとしています。
30年産では契約栽培1万tのうち約半分が多収品種で、残りは既存品種から生産ノウハウの確立した収量の多い品種を産地で選んで契約栽培に結びつけました。生産者手取り向上の観点からは多収品種を普及する必要がありますが、現段階では種子の確保が課題となっています。また、多収品種の生産技術は数年間の取り組みでようやく産地で確立されつつありますが、まだ課題もあります。今後は研究機関とも共同して、ニーズをふまえた専用品種を開発し全農による栽培支援と合わせて広げていきたいと考えています。
こうした多収米生産と複数年契約による取り組みは、とくに業務用米の実需者ニーズに応える取り組みの1つの柱としていきたいと思います。実需者には、数量的・価格的に年間、もしくは複数年で安定して取引したいというニーズがあります。一方で、市場には家庭消費などのニーズもありますから、生産者も業務用向けの契約栽培を経営を組み立てるうえでの1つの柱とし、そのほか、たとえば作期を分散して家庭用の良食味米も生産するなど選択をしていってもらえばいいと考えています。
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