【JA全青協が米国農業視察】労働力と事業承継 米国でも課題2019年2月7日
・トランプ大統領移民の活用を強調
JA全青協(全国農協青年組織協議会)は1月13日から18日まで米国でJA青年組織新任役員研修を実施した。今回の研修では米国ファームビューロー連盟の年次総会視察や若手農業者との意見交換、全農グレインやカリフォルニアの農場視察などを行った。事務局として参加したJA全農耕種総合対策部TAC推進課の村山正氏に研修の概要を報告してもらった。
(写真)米国ファームビューロー連盟(AFBF)の総会を視察した研修団
◆青年農業者と議論 日米共通の課題も
研修には今野副会長を団長とする役員・盟友等14名が参加しました。この海外研修には各全国連から各1名、計4名も事務局として参加し、僭越ながら私も全農を代表して事務局として加わりました。
1月12日からアメリカに入った研修団は、ロサンゼルスを経由してニューオリンズに入り、1月13日から1月15日まで現地で開催されたアメリカ最大の農業団体米国ファームビューロー連盟(American Farm Bureau Federation,AFBF)の年次総会を視察しました。総会の内容に入る前に、アメリカの農業団体の概要についてご紹介します。
アメリカの農業団体には大きく2つの全国的な品目横断的団体があり、それは共和党系で大規模農業者や企業を主な会員とするAFBF(会員600万人)と民主党系で小規模家族農業者を中心とする全米ファーマーズユニオン(NFU、会員約25万戸)です。アメリカではこのような品目横断の団体があるものの、全米肉牛生産者連盟(NCBA)、全米生乳生産者連盟(NMPF)等の品目別団体の影響力が強く、それぞれが生産額や生産者数を背景に政権や議員への政策提言を行っているところに特徴があります。
1日目は、開会式においてAFBFの会長の挨拶、ルイジアナ州知事の祝辞等を拝聴した後、IDEAgトレードショーを視察しました。このトレードショーにはフォードを始め、世界の名だたる企業がスポンサーになって農業に関する機械や資材等を多数出展しており、日本では到底お目にかかれないような、ジョン・ディアーの巨大なトラクターに驚きを覚えました。
その後、我々研修団はアメリカの若手農業者との意見交換会に臨みました。AFBFの若手農業者はいずれも30歳代の男女3名ずつの計6名で、酪農や畜産の大規模な家族経営者でした。意見交換会の話題はトランプ政権の通商政策、日米の農業政策、和食や日本の農業についてなど、多岐にわたりましたが、日米の農業に共通した課題も見出せました。
それは労働力不足や事業承継の問題であり、アメリカの若手農業者はトランプ大統領の強い手腕でこれらの課題を解決に導いてくれるという期待を抱いていることが印象に残りました。
◆トランプ現る 「国境の壁」を力説
2日目は閉会式が行われましたが、当日にトランプ大統領本人が登壇することが伝えられ、ニューオリンズの街は朝から熱気に包まれていました。実はトランプ大統領は昨年のAFBF年次総会にもサプライズで登場しており、今回で2年連続登壇したことになります。このAFBFはトランプ大統領の熱烈な支持団体であり、トランプ氏は就任後、農業者にとって有利な税制改革を行ったことがトランプの支持につながっているとのことでした。
予定よりも数時間遅れましたがついにトランプ大統領が登場、会場はこれまでにない熱狂的な雰囲気に包まれました。トランプ大統領の演説が始まりましたが、それは日頃メディアで目にするトランプ氏の姿でした。トランプ氏の演説は聴衆を引き付けるに十分な迫力で、演説の6割は「国境の壁」建設に関するものでした。
トランプ氏はこの「国境の壁」の建設に並々ならぬ決意を持っていることが分かりましたが、演説で強調されていたのは、合法的な手続きを経て入国した移民は排除しない、歓迎する、というもので、壁の建設はあくまで不法に入国しようとする移民を受け入れないためのものであるとのことでした。
(写真)閉会式であいさつするトランプ大統領
そして、この合法的に入国した移民こそ、農業における労働力不足を解決するための鍵なのです。我々は数日後にメキシコ国境近くの都市エルセントロの大規模圃場にて、移民を労働力に活用した収穫作業を視察しますが、アメリカの農業問題は移民政策と表裏一体であることを目の当たりにすることになります(写真下)。
3日目はAFBFの代議員によるポリシーブック作成に係る討論を視察しました。現在の全青協の活動の基であるポリシーブックの元祖ですが、アメリカのポリシーブックは何百ページにも上る政策提言集であり、一つ一つのテーマに時間をかけて熱心に議論を行っていたのが印象的でした。
(写真)AFBFの若手農業者と意見交換
◆日本は協同の力で 食料の安定供給を
研修団はAFBFの会場を後にし、同じルイジアナ州内にある全農グレインを訪問しました。全農グレインは1979年に飼料穀物を安定的に調達することを目的に日本の農協資本によって設立され、協同組合組織では世界最大のカントリーエレベーターを保有しています。全農グレインは子会社のCGBが中西部の契約農家からトウモロコシ、大豆等の穀物を直接集荷し、ニューオリンズ港まで輸送、カントリーエレベーターがはしけ、貨車、トラック等で到着した貨物を荷揚げし、保管、本船への積込作業を安全に、効率的に行っています。
翌4日目はカントリーエレベーターを実際に視察し、日本の飼料の安定供給を担うそのスケールの大きさと安全に配慮された施設に度肝を抜かれましたが、それは協同組合でなければできない事業であること、そして協同組合の底力を見た思いでした。
全農グレインを後にした研修団はヒューストン、サンディエゴを経て半日かけてカリフォルニア州エルセントロに移動、翌5日目は大規模圃場の視察、さらに翌6日目はロサンゼルスに移動して全農アメリカが出資する食肉加工会社であり、日本の米穀の輸入も行っているP&Z Fine Foodsの視察を行い、帰国の途につきました。
(写真)移民を使ったレタスの収穫作業。カリフォルニア州で。
今回の海外研修の参加者には様々な感想や気づきがあったと思いますが、私が感じたことは世界に学びつつも日本の農業には発展の余地があり、JAグループは組合員のニーズに寄り沿って協同の力で様々な可能性を提案できること、そして和食や日本の農畜産物は日本にとってやはり欠かせないものであることでした。(私は研修中にアメリカの食事にはなかなか馴染めず苦労しました)
今回の海外研修の成果を基に、全青協は次代の地域農業や農協運動のリーダーの育成、ポリシーブックによる政策提言に活かすとともに、全農を始め各連合会は今後、全青協との連携をより深めて担い手対応に取り組んでいきます。
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