農林年金 樋口直樹理事長 ー農林年金は給付完了へ―2020年5月25日
職員の退職後の生活安定へ6.7兆円給付、人材育成も
農林漁業団体職員共済組合(農林年金)は、令和2年4月1日の改正法施行日以降、対象者全員に特例一時金を支給して農林年金の特例年金給付は終了することとなった。昭和34(1959)年、農林漁業団体の共済組合として発足して61年。その間、農林漁業団体の役職員の福利厚生を通じて、日本の第1次産業の発展に大きな役割を果たしてきた。農林年金の歴史と果たして来た役割や残された課題を理事長・樋口直樹氏に聞いた。
農林年金 樋口直樹理事長
デフレが運営に影響
――農林年金制度の歴史と、これまで果たしてきた役割について話してください。
農林年金は、職域全体の総意のもと、農林漁業団体における人材確保を目的に市町村職員並みの年金を支給することを目指して、昭和34年に共済制度として発足したものです。制度が設立してからは、制度改善による充実・整備を重ね、「年金制度の設立により職員の福利厚生を図ることを通じて、農林漁業団体に優秀な人材を確保する」という当初の目的を果たしてきたと思っています。また、発足時から令和元年度末までの間に6兆7632億円の給付金を支払ってきました。
しかし、その役割も厚生年金制度の充実や国民共通の基礎年金制度の導入など、日本全体の年金制度の改善で徐々に薄れていきました。一方で、農林年金制度を取りまく環境は、JA等の組織整備の進展による組合員数の減少や超低金利の長期化など、年金財政にとっては厳しいものとなっていきました。
こうした、さまざまな情勢を踏まえて将来を見通したときに、農林年金がこのまま厚生年金と分離独立して運営していくことが、将来、農林漁業団体や組合員にとって重い負担となっていく可能性があることが予想されました。このため農林年金制度対策本部では、平成8年3月の公的年金制度再編成の政府方針に沿って厚生年金との統合に向けた取り組みを進めることとし、厚生年金側の理解を得て、平成14年4月に農林年金と厚生年金の統合となったのです。
農林年金についての費用負担が農林漁業団体やその組合員にとって重い負担となっていくことを避けるために厚生年金との統合が行われたことから、統合後の給付設計は、農林漁業団体の費用負担に配慮したものになりました。物価等の上昇に伴うスライド改定を行わないことや、遺族・障害年金の新規発生を行わないことなど、できるだけスリムな内容として「特例年金」を支給することとし、特例業務負担金の負担を30年間と設定しました。
しかし、統合前から農林年金を受給していた受給者、いわゆる統合時既裁定者については、財産権の観点から統合によって年金額が減額となることのないようにしました。このため、統合時点の年金額と統合後の規定による年金額との差額(従前差額)を追加支給する特例措置が設けられたのです。
この従前差額は、物価上昇によって厚生年金相当額が増額改定されることになり、徐々に少なくなっていく仕組みになっており、5年~10年程度で従前差額はなくなる見通しでした。しかし、厚生年金との統合後の経済はデフレ基調のまま推移したため、従前差額は解消されず、結果として農林年金の財政を圧迫することとなりました。このため農林年金では、虎ノ門パストラル等保有不動産の売却など可能な範囲で財政改善に向けた取り組みを行ってきました。
平成22年4月には、財政改善対策の一環として統合後裁定者を対象とした一時金払い制度を導入しました。この制度は、受給者の選択により将来の年金を一度に受けとる制度です。農林年金にとっては将来的なリスクを小さくし、受給者は一度にまとまった金額を受けとることができるものでした。
しかし、この一時金払い制度導入後もデフレ経済が続きました。このまま経済の低迷が今後も長期に継続するとしたら、将来的には1900億円もの不足金が生じるという財政試算を受けて、このリスクを回避するための取り組みが必要となったのです。
そこで、農林年金制度対策本部では、平成43年度末での給付と負担の同時完了という従来の方針を見直し、一時金払い制度を最大限活用して給付の清算を早める中で財政改善を図ることを基本とした組織協議案を取りまとめ、平成25年9月に組織決定しました。
これによって、農林年金は、給付完了に向けた第1段階の取り組みとして一時金払い制度の対象拡大・再選択と選択推進を行い、第2段階の最終的な給付完了に向けた取り組みを行うこととしました。
組織決定を受けて、一時金払い制度の対象拡大のために必要な政省令の改正が行われ、平成26年度から27年度にかけて、統合時すでに年金を受けていた方や選択できる期間を過ぎている方の再選択の推進に組織をあげて取り組みました。その結果、一時金払いの選択率は目標を超えて86%となり、最終的な制度完了に向けた環境を整えることができたのです。
平成30年5月25日に最終的な給付完了に向けた法律が改正されました。この法律改正によって、令和2年4月1日(改正法施行日)以降「特例年金」に代えて「特例一時金」を支給することになりました。これで農林年金の給付を終了することになります。
皆さんの支援に感謝
――年金給付の完了となりますが最終段階への重責を担われ、就任時と現在の心境は。
急逝した松岡公明前理事長から、昨年10月に任を引き継ぎましたが、制度完了に向けて、特例一時金給付の手続きを円滑に進めるための課題が山積しています。最終的に、各団体からいただく特例業務負担金をもとに、すべての対象者に一時金をお支払いし、清算を果たす、ということについて、今もその重責を感じています。農林年金の過去の理事長は偉大な先輩ばかりですが、この歴史と伝統ある組織を繋いでいく使命を果たしたいと考えています。
一方で、農林年金は、特に平成の時代においては、前述の通り山あり谷ありでしたが、全国4833の農林漁業団体の皆さんに支えていただき、ここまで来られたことに感謝しております。残された期間は私たちの「ご恩返し」だと思っています。職員には、各団体、対象者の皆さんに対して、常に誠実に対応するようにと、呼び掛けています。
5万人が住所未登録
――解散に向けてのスケジュールと、残された課題にはどのようなことがありますか。
昭和34年1月1日の設立から61年が経過しました。農林年金は今回の法律改正によって、「特例年金」に代えて「特例一時金」を支給することで農林年金の給付が終了します。特例一時金の支給業務は、改正法の施行の日(令和2年4月1日)から5年間で終了しますが、その後も、(1)特例業務負担金の徴収業務、(2)金融機関からの借入金返済業務等は継続します。このことから、農林年金の解散・清算結了の時期は令和10年代中頃になると想定しています。
これまでの特例年金・一時金支払いの財源は、農林漁業団体からの負担金で賄ってきましたが、今回のすべての対象者にお支払いするには不足です。このため、農林漁業団体の皆さんに長期前納を昨年度お願いしたところです。おかげさまで、1500億円以上の前納をいただき、一時金支払いに一定のめどがついたところです。この支援も協同組合などの『相互扶助』の精神あってのことだと感謝しています。ただし、それでも不足が懸念されるので、金融機関からの借り入れを行う予定にしています。
なお、特例一時金を令和2年4月以降、約75万人の方に支給することになりますが、住所未登録の方が約5万人おられ、この住所未登録者の解消を支給業務が終了する5年間で行う必要があります。
給付もれ無いように
――元加入団体および組合員にメッセージを
昨年12月、本年4月と2回に分けて特例一時金の申請に関する書類を対象者の皆さんに送ったところです。本来なら年金として老後生活の安定に資するための大事な資産となるはずのものです。対象者すべての皆さんに確実に受け取っていただきたいと思います。このため、なるべく早く申請請求していただくようお願いいたします。特例一時金請求ができるのは令和6年度末までです。
また現時点で、結婚や転居等の理由で、住所未登録の方が約5万人います。連絡がつかないと請求書提出の案内ができず、支払いもできません。農林漁業団体の皆さんには住所未登録者の調査等について引き続き協力いただくようお願いいたします。
「自分は農林年金もらえるはずだと思うけど案内が来ていない」という方がありましたら、引っ越しなどの関係で、私どものほうが住所未登録で送付できていない可能性もありますので、農林年金まで問い合わせください。何としても皆さんの力添えをいただき、連絡先を入手し、すべての対象者に支払わなければならないと考えています。
また、特例一時金の支払い財源は、令和13年度末までの農林漁業団体からの特例業務負担金の負担によります。ご理解・ご協力をいただきますようお願いいたします。農林年金の最終的な役割終了に向け、農林年金の役職員一丸となって誠実に業務を進めていく決意です。
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