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【インタビュー】飛田稔章・JA北海道中央会前会長 コロナ禍が示した農業の価値2020年7月28日

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北海道は食料基地の責任果たす

日本の食料基地、北海道の農業をリードしてきたJA北海道中央会の飛田稔章会長がこの6月、中央会長を退任した。食料・農業・農村基本計画で食料自給の重要性が強調されているなか、北海道農業および日本の農業のあり方、将来の方法などえを聞いた。

◆人の命つなぐ責任が

 ――新型コロナウイルス感染症の拡大をどう受け止められましたか。

飛田元会長新型コロナウイルスは最初、北海道でも拡大しました。農業者がコロナウイルスに感染し、隔離されると営農が続けられなくなります。特に生き物が相手の酪農家には感染しないよう最大限の注意を呼び掛けました。

コロナウイルスについては、発生の原因は何だったのか、しっかり検証する必要があると思います。地球規模の気候変動も原因の一つと予想されますが、検証しながら、特に食料生産や生活を維持するためにはどうするか、我々農業者はそのことを真剣に考えなければなりません。

集中と効率化という今日の社会・経済の持つ何らかの欠陥がコロナウイルスの感染を招いたのだとみるべきだと思います。それへの対策をについて人類全体考えるべき問題です。原因の探り合いや責任のなすり合いではなく、これから人類が生きていく上で何が大切かについて考える必要があります。特に農業者には食料生産を通じて、人の命をつなげていくという大きな責任があります。

地球温暖化で、世界の食料生産が不安定になっており、すでにコロナウイルス感染の拡大で、ロシアやアジアの国々のなかには食料の輸出を制限するところも出ています。輸出大国のアメリカでさえ、食料自給率は130%しかないなかで、食料を買いたいといっても応じてくれる国がなくなる可能性があります。

この状況を日本の政府はどう見ているのでしょうか。食料自給率37%と、世界の主要国では最低の水準にもかかわらず、自由貿易を唱え、関税を引き下げて農産物の輸入を促し、一方では輸出を増やすと言っています。輸入を国民の生活の糧(かて)にするようなことを許してはなりません。

コロナウイルスには、政府と国民が危機感をいかに共有するかが重要です。その点、日本の国全体に緊張感が欠けているのではないかと感じますね。いま日本で、水はどこにでもありますが、普段は必要なくても、「いざ」という時のため、自宅に水を貯めたタンクを備えておくくらいの心構えは必要だと思います。これと同じように、とくに農業者はいかにして食料確保し、国民の生活を守るか、常にこの基本を考え、忘れてはいけません。今回のコロナウイルスは、我々に改めて教えているのではないでしょうか。

◆消費者を仲間にして

 ――国民がその意識を持つには、どこから働きかけたらいいのでしょうか。

国民が安心して生活する上で何が大切かをしっかり考えていだたきたい。トイレットペーパー騒動にみられたように、必要もないのに買いだめをしたら、店頭から物がなくなるのは当たり前で、結局多くの人が困ることになります。そんなときは、デマに惑わされない、消費者としての賢明さが求められます。

そもそも、不足するからといってすぐ増産することはできないのが農業です。ところが、あまりにも輸入に頼り過ぎる生活を続けたため、日本の消費者は、季節外れの果物や野菜、値段の安い肉がいつでも手に入ると考えるようになりました。一方で、毎年600万tを超える食料が廃棄されています。農業の生産現場を知ってもらい、消費者をいかにして仲間にするか、JAグループとっても、これから重点的に取り組むべき課題だと思います。

日本は、昭和30年代後半から、経済成長路線で農畜産物の輸入を拡大し、そのような消費者をつくってきました。農地に恵まれない日本は、原料を輸入して加工し、輸出する。これが今も日本の経済を支えているのも事実です。しかし、食料自給率が下げ止まらないことやJAグループの働きかけなどから、安倍内閣が食料の安全保障を唱えていますが、遅いという感は免れません。食料とエネルギーの安全保障、これは国の基本です。

コロナウイルスは心配ですが、経済も動かさなければならないという政府の考えはわかります。今からでも遅くはない。日本の農業、農協のよさを発揮して、いかに食料を生産するかについて考えるべきです。安全・安心という面でも日本や北海道の農畜産物は優れています。成長ホルモンを大量に使ったアメリカ産の牛肉、このことを国民はもっと知っていただきたい。

◆多様な農家が共存で

――国内生産確保のためJAはどのような役割を果たすべきでしょうか。

日本の農業は小規模です。北海道でも大きくて100haですが、ニュージーランドでは9000haの農場を見たことがあります。規模が違います。日本の農業は規模の大小を問わず、共存共栄で助け合わないと成り立ちません。それをJAが中心になって進める。それが日本の農業のよさであり、だから安全な農産物ができるのです。その特徴を国民に知ってもらう必要があります。

時間はかかると思いますが、JA自ら発信をしながら国民の理解を得ないと、最後は食料がなくなって、配給制度になりかねません。輸出国は相手国の食料事情には関係なく、金払いのよさで販売します。日本でいつまで買い続ける力があるのでしょうか。農業者は、国民に食料生産を安定して供給し続ける責任があります。

◆荒廃農地出さぬよう

 ――そのなかで北海道の農業の役割をどう考えますか。

北海道の農業者は府県の10倍以上の面積を持っています。府県の農業者は兼業だから小規模でも成り立つのです。一方、北海道の農業者の8割以上は専業で、自ら生産して生活を支えるという基本があります。そして、専業だから食料基地としての責任を果たさなければなりません。

そのためにはしっかりした生産体制を確立し、それに安全・安心をどう付け加えるかが大切です。道内約110万haの農地があり、休耕田は1%程度で、府県の10%に比べてそれほど深刻ではありません。しかしその1%も、放っておくと離農者が増え、大変なことになると思っています。農地の活用方法に知恵を出す必要があります。

その点で、スマート農業は、農地の活用をはかるうえでこれから北海道の基本になるでしょう。スマート農業やEPS農業は60歳以上でも可能です。府県で退職して北海道で農業をやろうという人も出ています。

北海道は明治の開拓以来150年、農業を中心に、環境や住宅を整備し、すばらしい農業および生活環境をつくり上げてきました。これからの課題は、収入の格差をいかになくしていくか、であり、そこに共存共栄を基本とするJAの役割があります。それが北海道の開拓精神でもあります。特に十勝地方は水田から畑作畜産へ切り替え、酪農を中心に1100%という日本一の自給率を確立し、北海道全体でも200%という食料基地になっています。北海道だからできる。これを大切にして、さらに若い人が喜んで就農できるような北海道農業にしたいと思っています。
 

◆日本の農業をリード

 ――中央会会長を引退されるにあたり、今の心境を。

15年間中央会で仕事をさせていただきましたが、北海道農業をここまで確立できたのは、組合員やJA、JAの連合会が、それぞれの立場で、営農と組合員の生活安定のために一丸となって取り組んできた結果です。そして食料基地の責任を果たすため、みんなが努力してきました。そこで発揮した協同の精神を忘れず引き継いでほしい。北海道農業が日本の農業をリードするのだという気持ちを忘れず、取り組んでいただきたい。

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