【インタビュー】米情勢と米穀事業 JA全農高尾雅之常務理事に聞く(下)2020年12月8日
多収米で水田フル活用
--将来の水田農業に向けてJA全農の米穀事業はどのような展開をめざしますか。
現在、令和3年度の事業計画を策定しており、そのなかで将来方向の芽出しをすることにしています。今の3か年計画も10年から20年後を見据えた事業の将来方向を出していますが、そのもっと先、30年後の姿をどう描き、それにどう対応していくかというような長期的な将来方向について、今、検討しています。それを来年2月以降に示したうえで決めることになっています。
全体的な基調としては、人口減少や高齢化にともなって短期的には需給がひっ迫したり、あるいは緩和するといった浮き沈みを繰り返しながらも、30年後には国の人口統計が示すようにだんだん需要が落ちてくるのではないかということです。
また、組織の方向性としては1県1JAなどJAの広域化が進行していますが、そうした動きを考えればJA、連合会それぞれの必要な機能、または効率的な事業運営体制を早めに築いていく必要があるということです。
そういった将来の需給状況、または組織の変容を考えれば、米の生産は多収米を拡大しながら水田をフル活用する、ということが基本になると思います。多収米であれば1俵あたりの価格を低くしても10aあたりの所得としては一定のレベルで保っていくこともできます。こうした多収米を生産し、それを輸出に向ける、飼料用に仕向けるという取り組みが重要なのではないか。中食・外食からもそれぞれ汎用性のある廉価な米の提供が求められていますから、そうしたニーズも踏まえれば多収米の拡大は避けて通れないと考えています。
同時に法人化などで担い手のシェアが高くなっていきますから、今までの兼業農家も大切にしながら、大型の担い手、集落営農への対応力を強化していく。法人などの高度化した技術、販売の仕方などに対応できるのは連合会だと思っています。連合会でもノウハウを持ちながらJAがやるべきこと、連合会がやるべきことをすみ分けながら対応していきたいということです。
インフラ整備も重要になります。たとえばカントリーエレベターや農業倉庫も老朽化し建替えが求められていたり、長期保存に耐えられるような低温化設備を備えたりしなければいけないということがあります。そのため広域倉庫の整備を連合会の資金で計画的に配置することが求められています。また現在の運送事情では30kg袋を倉庫から運搬することが非常に難しくなっており、それに対応するためにはフレコン、バラや、紙袋であれば一貫パレチゼーションを推進する必要があり、そのための設備、倉庫を整備していかなければなりません。
サプライチェーン構築で生産振興
--日清製粉グループとの事業提携の狙いについてお聞かせください。
日清製粉グループ本社との業務、資本提携の狙いは大きく4点あります。1つ目は米からの転換作物のひとつは小麦でありその安定販路を築くということです。国の基本計画でも小麦の108万tへの増産という目標が出ました。現在よりも30万t程度増やすということで、それを実現するには生産振興をするという産地側の取り組みと、生産した小麦をきちんと流通に乗せ消費される、という販路の確保が大事です。
生産振興のポイントは製粉適正があること、収穫時期を梅雨時を避けるため早期化すること、汎用性のある多収品種をつくるという3つだと考えています。こうした生産振興ができれば、国産小麦を国民に提供していこうという同じ志を持つ他の企業とも提携などに取り組んでいきたいと考えています。
一方、小麦に転換できない条件の地域はやはり米を作ることになりますが、世界のグルテンフリー市場を考えれば米粉は有望なマーケットではないかと考えています。ただ、今の米粉の製造は大手の取り組みがそれほど活発ではありません。そこで今後は製粉メーカーにも働きかけを強化して米粉の増産に取り組んでいきたいということです。これが2つ目です。
また、それぞれの製粉メーカーは子会社を持ち、弁当やおにぎり、麺類などの食品をコンビニに納品しています。その原料に国産を使ってもらい、全農やグループ会社がそのサプライヤーとなっていこうという狙いもあります。これが3つ目の狙いで最終的にはコンビニや量販店等で国産原料の食品を販売してもらうサプライチェーンを構築していくというのが全農の戦略の1つです。
4つ目は営業開発部のMD(マーチャンダイジング)部会や事業提携先の研究開発部門と手を組みながら、商品開発を加速化させていきたいということです。また、それぞれが持つ物流機能のタイアップによって物流コストの低減にもつながればと考えています。
--ありがとうございました。
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