【寄稿】組合員自らが地域の課題を解決へ 労働者協同組合に学ぶ JA全中教育企画課長 田村政司2021年3月19日
ワーカーズコープが主催する「協同労働・よい仕事研究交流全国集会2021」に参加し、自分自身のこれからの仕事、生き方に大きな示唆を得ることができた。最も印象に残ったのは、発表者、参加者いずれもやけどしそうなほどに熱いことであった。私の所属するJAグループにも同様な仲間はいる。しかし、そうした人は職場内ではどちらかというと、変わり者、異端児に見られているように思う。ワーカーズの中ではど真ん中にいるような印象をうけた。
働き方への問いかけから
働くことがJA職員においては自分と家族が生活していくための手段に矮小化されていないであろうか。JAは組合員の営農や暮らしを支えるサービスを提供し、ひいては地域全体の農業振興、安心して暮らすことができる地域づくりという高い使命・やりがいを有しているが、働く職員の立場からすると、上から落ちてくる日々の仕事や数字に追われながら働いている職員も少なくない。また、経営の厳しさへの危機感が足りないと、「叱咤激励」が行き交う今日でもある。
集会の発表者、参加者はコロナ禍での病院の清掃業務、片親の子供保育や子ども食堂、生活困窮者の一時支援など、地域で困っている人たちを仲間と共に協同労働で解決する仕事に従事している。原価率の低減など事業継続への悩みはもちろんあるであろう。しかしながら、自分たちの仕事自体への誇りと、出資者であり、経営者であり、労働者である仲間と時間をかけて話し合いを重ね、共に汗をかく協同労働という働き方への共感にあふれていた。
社会変革の力を秘めて
ワーカーズが対象とする仕事は、ディーセントワーク、エッセンシャルワークという言葉として表現される。前者は、過酷な残業や低賃金でないもっとまともな仕事にしようという思いを込めた言葉であり、エッセンシャルワークは清掃業、物流業、介護、教育など、もちろん農業も含む、人間が生きていく上で不可欠な仕事に誇りを持とうという言葉であり、いずれも自分自身が仲間とともに地域をよりよく変えていこうという変化を志向する自動詞と理解したい。
こうした仕事が、いま改めて注目される背景には、多くの情報とお金をもつ個人、法人が利益を求めて、世界中でヒト・モノ・カネを激しく行き交いさせるグローバル資本主義という経済観に基づく政策運営の歪(ゆがみ)がある。また、行政コストの低減ために安易に外出しされた仕事(指定管理)という経過もある。ワーカーズは、具体的な地域の人々の困りごとを解決する協同労働という仕事に日々従事しながら、こうした歪を生み出す現代社会そのものを変えていこうとする力を秘めているように思えてならない。
利用協同組合としてのJA
協同組合としては先輩のJAは、戦前の産業組合の資源を継承する形で、戦後GHQの指導により農村民主化、農地改革で生まれた自立経営農家の維持を目的として、全農家を組合員として組織し、生まれた。その後、紆余(うよ)曲折はありながらも、今や1000万人組合員、150兆円に上る資産を有する一大経済組織へと変貌するに至った。
さまざまな見方があるが、大きな要因は、(1)農業生産は農家が自立して行い、金融や流通を共同事業として担う経済組織としてJAを設計したことが、農家の営農意欲を喚起し、米を中心に食料増産に成功したこと
(2)戦後の経済発展の中で農業から工業への産業構造が変化する中で農地と労働力が工業に移転し、そこで生まれた資金をJAが上手く吸収するとともに(3)離農した人と共に、地域の誰もが准組合員として利用できる組織として、事業を標準化し、普及した――ことにあると思う。その背景には、行政、連合会の大きな役割・支援があったことは言うまでもない。
ところで、同じ協同組合でもJAや生協といった既存の協同組合とワーカーズ(労働者協同組合)は組織の性格が大きく異なる。前者はいわゆる利用協同組合というカテゴリーに属する協同組合であり、後者は生産協同組合という協同組合である。利用協同組合であるJAは、共感する人が出資し、運営者となり、JAが提供する事業を組合員が利用する協同組合である。
生産協同組合は、共感する人が出資し、運営者となり、組合員が事業に従事する協同組合である。利用協同組合であるJAにおいて、組合員は意思を反映すること、事業を利用することを前提とするが、事業従事は前提としない。
協同組合の源流として知られるロバートオーエンのニューハーモニー協同村は、組合員の生産と消費にかかる事業を一体的に運営する協同組合が運営するコミュニティーであったが、多くの組合員がその目的を理解し、行動する教育が不十分であったために、運営に支障が生じたと言われている。
オーエンの思想と行動に師事した弟子たち=オーエナイトは、生産・消費一体型の協同組合を将来の目標とし、まずは当面工場労働者の生活物資を供給する利用協同組合としてロッジデール組合を設立し、協同組合の本質を踏まえたわかりやすい運営ルールを定めたことで協同組合が世界に波及した。
ワーカーズは、100年余りの時間を経て、日本で生産協同組合として産声をあげ、成長してきているものと理解している。
労協に学ぶ協同の新しい形
JAグループは、組合員数、事業規模として世界最大級の協同組合であるが、組合員が抱える課題は、今の事業、組織、運営では解決しえない課題にぶつかっている。農村地域では少子高齢化がより進行する一方で、店舗閉鎖や路線バスの撤退により組合員の暮らしは不自由さが増し、農地や里山管理が行き届かずに、鳥獣害被害が年々深刻化するなど、地域資源管理は限界に達している。
一方で、金融自由化やマイナス金利の長期化により、こうした組合員の切実な課題に応える経営体力がなくなることが懸念される中で、支店統廃合や店舗閉鎖に迫られている。事業を継続していくには、やむを得ないと考えるが、組合員の課題はより深刻化していくという矛盾にぶつかっている。
ハイブリッドなJAづくり
農村地域を主として事業、活動を展開するJAにおいて、職員が事業に従事し、組合員が事業を利用する利用協同組合のみでは、今後さらに深刻化する現代農村の課題を克服する組織としての制度設計に限界があるのではないか。そして、営農と暮らしの困難さにぶつかるJAの組合員自身が、協同組合を組織し、事業に従事する生産協同組合に可能性を感じる。
今JAは、生産協同組合の運営に豊かな経験と実績をもつワーカーズから学び、JAのこれまでの成果と課題をふまえ、新たなJAづくりにチャレンジすることが求められているのではないか。
現存する利用事業はしっかりと維持しながらも、既存事業では解決できない課題を、組合員自らが協同組合を設立し、新しい事業を興していく。そこでのJAの役割は大きい。組合運営のノウハウに関する学習・教育活動、施設や機械などの装備に必要な資金の確保は組合員だけでは困難である。JAの情報ネットワーク、資金力が果たす役割は大きい。
利用協同組合としてのJAと組合員が組織する生産協同組合が役割を分担し、密接に連携する新しい「ハイブリッドなJA」を築いていくことはできないであろうか。
JAは、既にこうした経験を知らず知らずにのうちに積んできており、さらに新しいJAづくりの芽も生まれてきている。2006(平成18)年を前後して全国のJAで展開した集落営農づくりはその最たる例であり、中山間地域の撤退したJA支所や経済店舗を地域の組合員が自ら運営する地域運営組織も増えつつあり、そこでの成果と課題も蓄積されてきている。
より協同組合の高み目指して
こうした問題意識にたって、2021(令和3)年度から、全中教育部として、JCAと連携し、ワーカーズやJAのこれまでの取り組みをふまえ、JAにおける生産協同組合の設立運営に関する調査研究をスタートすることとしている。
冒頭にもどるが、JAの変わり者、異端児は、職員に限ってはいない。地域で仲間と協同し、営農と暮らしを営む熱い組合員リーダーも全国にあまたといる。そうした仲間に道標を示し、協同組合としての高みを目指し、共に奮闘していきたいと考えている。
また、世間では副業解禁という話が広がってきている。職員が本業の傍ら、就業時間の前後、土日などに、他の仕事に就き、報酬をえてもよいとする、厚生労働省が示した新しい就業の考え方である。
私自身も将来、地域の仲間と共に学校の勉強についていけない子どもたちの学習を支援する協同活動を興すことができないものかと考えている。その際には、ぜひワーカーズコープの会員となり、全国の仲間から学んでいきたいと思うし、地域から社会を変える夢を追い続けたいという思いもある。
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