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【クローズアップ:JAの移動購買車事業最前線】買い物弱者救う協同の絆 地域インフラにJA貢献(上)白石正彦東京農業大学名誉教授2021年8月5日

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地方の過疎化が社会問題となるなか、JAの移動購買車事業活動が注目されている。そこで移動販売を絡めた「中山間地域の食の貧困化を予防・改善するJAの最前線運動」をテーマに東京農業大学名誉教授の白石正彦氏にリポートしてもらい、上下2回に分けて掲載する。

買物弱者を支援する移動購買車(JA鳥取いなば)買物弱者を支援する移動購買車(JA鳥取いなば)

見守りや交流効果も

はじめに 格差拡大で「分かち合い」の動き

コロナ禍がパンデミックとして広がるなかで国内外の経済的・社会的格差と貧困化が深刻化している。わが国の都市地域ではひとり親世帯の貧困化などを予防・改善する「フードバンクかながわ(公益社団法人)」の活動が注目される。子ども食堂を運営するNPO組織や生協、社協、フードバンク活動に協力する企業、ワーカーズコープ、農協、漁協、森林組合などの協同組合が連携して「食の貧困化を予防・改善」に取り組み、「分かち合い」と「ありがとう」の運動が広がっている。

JAの移動購買車事業活動については、中山間地域の食の貧困化を予防・改善するJAの最前線運動であると考えるので、その視点から事例を紹介したい。

1. 沖縄本島と宮古島地域でのJAおきなわの移動購買車(あじまぁ号)

JAおきなわの「あじまぁ号」。「あじまぁ」は沖縄の方言で「交差点」のこと。JAおきなわの「あじまぁ号」。「あじまぁ」は沖縄の方言で「交差点」のこと。

JAおきなわ(沖縄県農業協同組合)は、2002年4月に県下の全27JAの合併で発足した。さらに、2008年8月に同JAの子会社「(株)JAおきなわAコープ」を創立した。

本テーマとの関連で沖縄県の状況は、高齢化の進展や量販店の進出を背景に、地域において生鮮三品をはじめとする生活必需品取扱店舗の減少により、買い物困難地域が広がっている。

このため、J Aおきなわ暮らし丸ごと応援本部では、「組合員・利用者が安心して快適に生活できる地域づくり」に向けた取り組みの一つとして、買い物困難地域において、日常の買い物に不自由する高齢者らへ食料品などの供給体制を整備し、組合員・利用者の生活支援に応えることを目的に2016年4月に移動購買車(あじまぁ1号)1台(本島北部地区の基幹店舗のモーレ店に軽自動車)をJA共済連沖縄県本部の寄贈により導入した。

その後、同年月に(あじまぁ2号)1台(先島宮古地区の基幹店舗の城辺店、軽自動車)、2017年3月に移動購買車(あじまぁ3号)1台(本島中部地区の基幹店舗の中城店、軽自動車)、2018年3月に移動購買車(あじまぁ4号)1台(先島宮古地区の基幹店舗の下地店、軽自動車)、2019年3月に移動購買車(あじまぁ5号)1台(本島南部地区の基幹店舗の玉城店、1t車)、2020年3月に移動購買車(あじまぁ6号)1台(本島北部地区の基幹店舗の今帰仁店、1t車)を同様にJA共済連沖縄県本部の寄贈により導人した。

移動購買車(あじまぁ号)6台の事業活動は、上記の6拠点店舗と結びつき、月曜日から金曜日まで週5日間、1日平均6ルートで1日の停車箇所は38カ所(1車両6.3回)、巡回関係市町村は6市6村である。2020年度(2020年4月~2021年3月)の年間延べ購買者は3万9100人で年間購買高は6093万円である。販売価格は各基幹店舗(Aコープ店)の定番価格と同価格となっている。

2020年2月20日付琉球新報は、「島で唯一の店が閉店・困る住民を助けた購買車」という見出しで報道。「うるま市勝連浜(浜比嘉島)で唯一営業していた商店が12月に閉店し、地域住民の生活に影響がでているため、1月中旬からJAおきなわAコープの移動購買車『あじまぁ号』が毎週木曜、旧浜中学校に来て、食材や日用品を販売している」と紹介している。

さらに、買い物弱者(交通手段をもたない高齢者など)を支援し、地域コミュニケーションの活性化や地域の見守りに取り組んでいる。

「あじまぁ号」は、沖縄の方言で"交差点"を意味し、注目したいのは(1)おきなわSDGsパートナー(だれ1人、取り残さないパートナー)に移動購買車「あじまぁ号」の運用を位置づけ(2)買い物弱者(交通手段をもたない高齢者など)のためにAコープの安全安心な商品を届けること(3)近隣住民とのコミュニケーションの場、一人暮らしの高齢者の安否確認の場など人・物・情報が集まる地域の交差点に(4)JAグループが大切にしている地域に根ざした活動に貢献すること――を目指して取り組んでいる点を高く評価したい。

2.九州地域熊本県の中山間地域でのJA菊池の移動購買車(きくちのまんまGO)

JAきくちの「きくちのまんまGO」2号車の出発式JAきくちの「きくちのまんまGO」2号車の出発式

JA菊池の管内は熊本県の北東部に位置し、その東北部は大分県に隣接し、阿蘇外輪山系を含む中山間地域で、管内の自治体は、合併により現在は、菊池市、合志市、大津町、菊陽町である。

移動購買車(きくちのまんまGO)は、JA菊池役員とJA菊池女性部役員との対話集会で女性部(特に旭志支部)から要望が出され、これが契機として2019年4月に1号車(きくちのまんまGO)事業活動がAコープ旭志店を拠点店舗として開始された。

2019年度のはじめは菊池市旭志地区だけ3ルートの巡回から、その後は隣接する大津町北部を含む6ルートを巡回し、2019年度と2020年度の年間延べ購買者は9634人から1万3364人に増加し、年間購買高は1315万円から2154万円に増大している。

2021年8月2日には、きくちのまんまGOの2号車が、大津町町民の要望に応え、町役場の協力(2号車導入への一部助成)もあり南部地域を中心に運行を開始している。

注目したいのは、(1)三角修組合長が大津町の金田英樹町長など関係者が出席して開かれた2号車の出発式でのあいさつで、JA綱領で明示されている「1.環境・文化・福祉への貢献を通じて、安心して暮らせる豊かな地域社会を築こう」の理念を大切に取り組む決意を表明したこと(2)JA女性部提案の買い物弱者の思いを実現するために導入したこと(3)自治体や地区自治会との連携を深めている点を高く評価したい。

巡回ルート調整重ね

3.中国地域鳥取県の中山間地域でのJA鳥取いなばの移動購買車(ふれあい号)

JA鳥取いなばの「ふれあい号」(若桜町で)JA鳥取いなばの「ふれあい号」(若桜町で)

鳥取県の総面積のうち中山間地域が92%で、その人口割合は2015年に43.9%、当地域の高齢化率(65歳以上)は33%である。JA鳥取いなばの管内は兵庫県、岡山県に隣接した東部エリアに位置している。JA鳥取いなばと子会社トクス(株)は、移動販売車事業活動を2010年11月からを開始し、現在6台を運行している。

2020年度(2020年2月~2021年1月)の移動販売車の6台は、岩美町、八頭町、若桜町、鳥取市で月曜日から土曜日まで、四つの拠点店舗(物流拠点)から6ルートで月曜日から土曜日まで6日間運行し、1日当たり平均6コースを巡回し、1日当たり75.8カ所(1車両は12.6カ所)に停車し、2020年度は1年間の延べ購買者数は3.1万人が利用し、購買実績は約6315万円である。

注目したいのは、(1)運行ルートの策定に地域からの要望(必ず自治会長経由で周知と販売箇所の了解)を得ており(2)同JA支店からの情報や既存小売店の商圏への配慮に努め(3)公益的なインフラ機能の持続効果を発揮しており、最近は三つの自治体(町)から燃料代などの運営助成を受けた取り組みを高く評価したい。

【JA】クローズアップ JAの移動購買車事業最前線
買い物弱者救う協同の絆 地域インフラにJA貢献(下)に続く(8月6日掲載)

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