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【クローズアップ:JAの移動購買車事業最前線】買い物弱者救う協同の絆 地域インフラにJA貢献(下)白石正彦東京農業大学名誉教授2021年8月6日

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地方の過疎化が社会問題となるなか、JAの移動購買車事業活動が注目されている。そこで移動販売を絡めた「中山間地域の食の貧困化を予防・改善するJAの最前線運動」をテーマに東京農業大学名誉教授の白石正彦氏にリポートしてい2回に分けて掲載、今回はその(下)。

JA紀南の「Aコープ移動スーパー」。買い物不便の高齢者に生鮮品を届けと同時に見守り活動なども。JA紀南の「Aコープ移動スーパー」。買い物不便の高齢者に生鮮品を届けと同時に見守り活動なども。

価格やサービス留意

4.近畿地域和歌山県の中山間地域でのJA紀南の移動購買車(Aコープ移動スーパー)

JA紀南の管内面積は県下総面積の約23%を占め、特に中山間地(熊野古道の中辺路を含む)や海沿いの地域では、高齢化・過疎化が進む中で、食品小売店の撤退・公共交通機関の廃止などによりライフライン機能の維持が困難となりつつあり、地域住民において食品など日常の買い物に不便を感じている「買い物困難者」の割合が高まっている。

このため同JAは2016年度に(1)JA紀南の管内における買い物不便世帯への貢献(2)高齢者世帯および地域の見守りとしての地域貢献(わが町パトロール)を目的に移動購買車2台を導入して5ルートで運行を開始した。さらに、2017年度と2018年度はJA共済連からの助成金も活用して2年間で4台を導入し、計6台で運行している。

2020年度は1~6号車のうち1~4号車はAコープ紀南アピアを供給拠点に、5~6号車はAコープ紀南あぜみち店を供給拠点として、田辺市3、上富田町3、白浜町3、すさみ町4、白浜町・田辺市・上富田町2の計15ルートを日曜日以外に原則週2回、一部は週1回巡回し、停車場所212カ所(うち120カ所は週2回、92カ所は週1回)巡回している。

2020年度の年間延べ購買者は5万9900人、年間購買高は1億716万円である。販売価格は拠点店舗の定番価格と同じであるが、1品当たり10円を清算時に支払う必要がある。さらに、同JAの組合員になれば、1000円の購買でカードに1回印字され、10回の印字で100円割引かれる。

注目したいのは、(1)買い物に不便な高齢者らに同JAのAコープ店のおいしい生鮮品などを届ける"Aコープ移動スーパー"としての個性発揮と共に(2)見守り活動という公益的役割、さらに、(3)同JAの生活文化・福祉活動などへ参加の輪づくりにも留意している点を高く評価したい。

5.東海地域愛知県の中山間地域でのJA愛知東の移動購買車(J笑門号)

JA愛知東の「J笑門(じぇいえもん)号」。買い物を楽しむ組合員

JA愛知東は、愛知県の北東部に位置し、新城地区・鳳来地区・作手地区(新城市)および設楽地区・東栄地区・豊根地区(北設楽郡)を管内として、北は長野県、東は静岡県に接する愛知県面積5分1を占める中山間地域である。

このうち、新城市(65歳以上人口は約31%)では地元商店やAコープ八名店などの閉店で、買い物に行く手段のない高齢者などの買い物弱者が急増し、市民の不安の声に新城市(自治体)とJA愛知東が応える形で、市の補助金を活用して2017年6月に移動購買車「J笑門号」(軽トラックで三方開きの冷蔵・冷凍完備)の導入が実現した。

2020年度(2020年4月~2021年3月)の移動購買車は、Aコープ新城店を拠点店舗(物流拠点)として、月曜日はA(鳳来地区:須山集会所など15カ所)、火曜日はB(鳳来地区:引地公民館など15カ所)、木曜日はC(鳳来地区:名越公民館など15カ所)、金曜日はD(鳳来地区:副川集会所など15カ所)、土曜日はE(八名地区:黒田集会所など15カ所)を巡回し、1年間の延べ購買者数は2万400人が利用し、購買実績は約4061万円である。販売価格はJAコープ新城店の定番価格に、10円加算する仕組みとなっている。

注目したいのは、(1)現物を見て買いたい商品を選べる買い物の喜び(2)利用者の生活域に出向く"人とのふれあい・安否確認"(3)欲しい物を届ける"注文対応"(4)JAの商品・サービスを提供"くらし支援に向けた、JA総合サービス機能の提供"を通じて(5)組合員や地域住民の暮らしを守りながら協同組合運動を広げるという理念・目標を鮮明に取り組んできた点を高く評価したい。

金融店舗備え便利に

6.東北地域宮城県の中山間地域でのJA新みやぎ・いわでやま地区本部の購買店付き移動金融店舗事業活動

JAしんみやぎ(いわでやま地区本部)の金融移動店舗JAしんみやぎ(いわでやま地区本部)の金融移動店舗

JA新みやぎは、宮城県北部5JA(JAみどりの・JA栗っこ・JA南三陸・JAあさひな・JAいわでやま)が合併し、2019年7月1日に誕生した。同JAは旧JA単位に地区本部を置き分権的な管理運営を行っている。このうち、JA新みやぎ・いわでやま地区本部は合併前の旧JAいわでやま当時の2016年1月に「(購買店舗併設型)金融移動店舗」を導入し、合併後も継承して展開している。

旧JAいわでやま当時、JA管内は、旧岩出山町、旧鳴子町(現在の大崎市の一部)の地域で、年々、地域の過疎化と少子高齢化が進み、JAの信用業務・店舗体制の再構築に迫られた。そのような環境下で、2015年に農林中央金庫が「JAバンク自己改革における地域貢献策」として、移動店舗による金融サービスの提供を全国JAに提案したことから、当時のJAいわでやまではいち早く導入希望の意思表示をし、その助成(導入経費の約3分の2)を活用し、導入した。

JAの信用事業改革に伴う代替策ではあるが、貯金取引きに特化せず、地域が抱える大きな課題である"買い物難民のお役立て"として、県内JA初の「(購買店舗併設型)金融移動店舗」を導入した。また、この車両の導入条件には、大規模地震などの広域災害が発生した際、毀損(きそん)した被災JAの救済に出向く旨の協定が締結されており、"JAだからこそ出来る地域貢献事業"として取り組んでいる。

鳴子地区の停車場所は、組合員・利用者が自治体に働きかけがあり、公民館・地区集会所など公共施設の駐車場を無料で借用している。

導入車両はあくまでも「(購買店舗併設型)金融移動店舗」で、信用事業(貯金業務)をメインとし、さらに食料品および日用雑貨の購買ニーズに対応して当地区本部の購買店舗(メルカド四季彩館)を拠点店舗と位置付け、この店舗が取り扱う生鮮食品(野菜、精肉、加工魚ほか)、漬物、豆腐・油揚げ・納豆、調味料、牛乳、インスタントラーメンなどの一般食品や菓子、パン、日用雑貨などの販売を行っている。

運行体制は、信用担当者が2人(管理者1人、オペレーター1人)、購買担当者が1人(※ドライバーを兼務)で、利用客数は1日当たり30~40人(である。

運行曜日はJA合併によって月~金の5日間に1日1ルートを地区本部管内に加え部分的に隣接の栗っこ地区本部管内(栗原市花山地区)も巡回し、2019年度の移動購買部門の年間延べ購買者数は3400人、年間購買高は400万円である。しかし、2020年度は、コロナ感染防止のため営業日を火~木(3日)に削減し、年間延べ購買者は1500人、年間購買高は316万円にとどまっているが、2021年度は運行を1日増やし月~木(4日間)に運行している。

注目したいのは、購買店付きの移動金融店舗事業活動は、(1)過疎化が進行する中山間地域の高齢者の金融・購買ニーズへの顔の見える協同組合らしい対応(2)地元利用者による自治体への働きかけで公共施設の駐車場の無料での借用など地域インフラの持続、さらに(3)JAの広域合併を契機に移動店舗ルートの広域化でコスト削減効果の実現にも取り組んでいる点を高く評価したい。

むすび

JAの移動購買車事業活動は、第1に、国内外の経済的・社会的格差と貧困化が深刻化しており、また都市地域ではひとり親世帯の貧困化などグローバルでローカルな空間的視野で生じている深刻な実態が中山間地域で発現しその課題解決のための協同組合らしい農協運動の一翼として位置づけ共鳴する運動として連帯して取り組む必要がある。

第2に、買い物弱者(交通手段をもたない高齢者など)のための事業活動が中軸を占めるが、近隣住民とのコミュニケーションの場、一人暮らしの高齢者の安否確認の場など人・物・情報が集まる地域の交差点の役割を果たし、JAの生活面事業や教育文化活動の革新の源流づくりとして協同組合らしい相乗効果発揮のフロンテアを開く必要がある。

第3に、自治体や集落自治会などと密接に連携した公益的機能、地域貢献活動として深化・進化させる必要がある。

第4に、この事業・経営の客観データの分析と組合員・地域住民・自治体の願いとのギャップを埋める知恵(自治体などからの助成、JAの組合員組織活動との連携など)を各JAのトップ役員がリーダーシップをとり推進する必要がある。


買い物弱者救う協同の絆 地域インフラにJA貢献(上)

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