【クローズアップ:緊急事態下の産地は今】コロナ禍 影響じわり気候変動に懸念も―首都圏の台所・ 茨城の現場から(2)2021年8月27日
コロナ禍と異常気象によって、首都圏の台所である茨城県の農協の販売事業はどのような影響を受けたのだろうか。茨城県内の4農協の各担当者に聞いた。(取材・構成:客員編集委員 先崎千尋)
業務向けは軒並み減 巣ごもり需要で直売健闘【農協の対応と試み】
苦しい米 仕向け先で差がある青果物
水戸農協の販売事業は、メロン、イチゴを含めた野菜の比率が61%を占める。直売所、インショップでの販売も15%を超えている。直売所は8店舗あり、スーパーなどのインショップも16店舗ある。業務需要の高い品目は市場価格が下落した。メロンもコロナ禍により外食産業の需要が減るなどにより価格が下落し、前年より13%減となった。一方、直売所や二つあるAコープ店は巣ごもりの影響で売り上げが増えた。当面する問題は、直売所のパート従業員の人材確保が悩みの一つだという。
水郷つくば農協は、霞ヶ浦に面したレンコンの大産地土浦市が中心。農産物販売高の37%弱を占める。昨年は早く来た台風の影響で葉がたたかれ、レンコンの生長が止まり、減収になった。グラジオラスや小菊もコロナの影響で結婚式や葬式が取りやめになったり、小さくなったりし、影響があった。管内の美浦村に日本中央競馬会のトレセンがあり、馬ふんを使ったマッシュルームも年間の販売額が10億円に達する。
直売所を併設した水郷つくば農協本店
直売所は10店舗ある。規模は中規模で、地産地消を目指す地域の拠点として位置づけている。この内のサンフレッシュ土浦店を昨年、本店新設に合わせて市街地に移設し、郊外型とは違う、消費者に密接した店舗にした。パン、そば、菓子店も直売所と同じフロアにテナントとして入れており、今のところ順調にいっている。
北つくば農協
北つくば農協はハクサイとレタスの大産地。ハクサイのメインは秋-冬にかけての作付けが多い。コロナの影響で、忘年会や新年会がなくなり、業務用が動かなかった。前年対比で70%まで下がった。昨年、特産の梨は春先の晩霜により出荷量は6割になったが、単価が高かったので、全体としては前年よりやや増え、コロナの影響はなかった。
「幸水」出荷スタート(北つくば農協)
米は、夏場の高温により、玄米品質の低下が目立っている。米の減少は、国内の消費減だけでなく、外国人観光客(インバウンド)が減った影響もある。直売所は3店舗あり、巣ごもり需要の伸びで、販売高は伸びた。
なめがたしおさい農協
なめがたしおさい農協は、年間の販売高が県内で唯一200億円を超えている。メインは神栖地区のピーマンと行方地区のカンショ、ミズナ、レンコン、イチゴ、ハーブ類と多彩だ。正月用の松、千両という他の農協にはない品目もある。
コロナ、気象変動の影響では、ピーマンとミズナなどの葉物は業務用が動かなかった。しかしピーマンは巣ごもりによる家庭消費の需要が増え、単価もよかった。カンショも需要が伸びた。冷凍焼き芋も巣ごもりで増えている。5年前から始めた輸出も順調。25品目で2億円に達している。
ピーマンの選果(なめかたしおざい農協)
同農協は2012年5月にカンショPRの一環として、東京スカイツリーの商業施設「東京ソラマチ」の屋上にカンショ畑を開園させ、子どもたちの人気を博してきた。しかし、コロナの影響で動けなくなっている。また、2015年には菓子製造会社の白ハト食品工業とタイアップし、体験型農業テーマパーク「なめがたファーマーズビレッジ」をオープンさせたが、同施設はコロナの影響をもろに受け、現在では土日祝日の営業のみとなっている。ただ、同社へのカンショ加工用の出荷は変わっていないので、生産農家と農協事業への影響はない。
◇
このように、米は全体としては消費が減り、単価も下がっている。在庫も抱えているようだ。野菜や果実、畜産では、品目や業務用なのか個人消費用(市場出荷)なのかによって大きく変わっていることがわかる。直売所は、昨年はおおむねコロナ前よりも需要が伸び、今年前半は一昨年並みとなっている。
新規事業開拓にも意欲
次に、農協独自の取り組みや新規開拓の事業などを聞いた。
GIに登録した水戸の柔甘ねぎ
水戸農協では、水戸の柔(やわらか)甘ねぎが3年前に地理的表示(GI)保護制度に登録された。国内では59番目、県内では江戸崎かぼちゃ、飯沼栗に続いて3番目の認証。GIとは農林水産物・食品の名称で、その名称から当該産品の産地を特定でき、産品の品質等の確立した特性が産地と結びついているものを表示する制度。知的財産として保護される。
柔甘ねぎのほ場巡回(水戸農協)
水戸の柔甘ねぎはハウスで栽培する。葉しょう部分を遮光シートで覆い、軟白部(白い部分)を多くする。雨にぬらさないことにより、病害虫対策の農薬をほとんど使わず、有機質主体の肥料を使用するので、甘味が多く柔らかく、鍋でもサラダ感覚で生でもおいしく食べられる。
この柔甘ネギの試作、立ち上げに関わったのは現専務の園部優さん。園部さんは1995年に北海道に視察に行き、露地ネギとは違う軟白ネギの品質に魅了された。ノウハウはなく、国や県の研究機関、種苗会社などと連携しながら試行錯誤を重ね、2人で栽培を始めた。現在では部員20人で取り組んでおり、特別栽培農産物の認証も受けている。
地域の活性化応援「ヨリアイ農場」 水郷つくば農協
水郷つくば農協では、旧土浦市農協時代の2015年に「ヨリアイ農場」を始めた。これは、農にふれる体験イベント、子どもたちに植えつけや収穫を体験してもらう食育活動、米や野菜を購入してもらい農を支える活動を組み合わせ、「地域農業の未来と担い手農家」を応援するプロジェクトだ。レンコンやエダマメ、梨、ネギの種まきや田植え、収穫、梅酒づくりなど毎月イベントがある。年間の会費は8万8000円。日本一のレンコン産地であることから、「れんこんチャンネル」というポータルサイトも立ち上げ、レンコンのレシピや料理の動画、イベント情報などを提供している。
レンコンの出荷風景(水郷つくば農協)
買い物弱者支援のために、かすみがうら市と利根町地域で移動販売も行っている。日常の生活に必要な食料や直売所で扱っている野菜、日用品などを車に積み込み、店舗がない地域を定期的に巡回している。
こだま西瓜は新幹線に由来 北つくば農協
北つくば農協では、2008年産米から農協独自の買い取り米制度を導入している。農家の手取りアップを目指すことが農協の役割、という考えから始まり、現在では飼料用米を含め、全出荷契約数量の9割以上が買い取り米となっている。輸出用米や加工用米の取り組みも強化している。「コシヒカリ」は高温に弱いので、高温に強い品種「にじのきらめき」への転換を進め、21年産米は約350haに面積を拡大している。
レタス目ぞろえ会(北つくば農協)
同農協の特産品にこだまスイカがある。その名前は、小さいだけではなく、東海道新幹線に「こだま」が開通した1964年頃に品種改良により誕生したので「こだま」と命名された。軽量で持ち運びやすく、核家族が進むわが国で消費が増えていった。2019年には北つくば農協こだま西瓜部会が、部会員の努力により、集団組織の部で日本農業賞特別賞を受賞している。
特産カンショ輸出を伸ばす なめがたしおさい農協
なめがたしおさい農協は、カンショと葉物が中心のなめがた農協とピーマンのしおさい農協が2019年に合併、誕生した。カンショは、スーパーの焼き芋店頭売りが全国で約4000店舗。他の追随を許さない。2017年に同農協の甘藷部会連絡会が日本農業賞と天皇杯をダブル受賞した。当時棚谷組合長は、天皇杯の次の目標はカンショの海外輸出と語っていた。2018年にブランド品種の「紅優甘」をカナダに初輸出。その後輸出先はタイ、香港、シンガポールなどに広がり、昨年は291tと順調に伸びている。
輸出にも力を入れる(なめがたしおさい農協)
品目もトマト、ピーマンなど25品目以上に増えており、2億円を超えた。3月にはシンガポール伊勢丹で「なめがたしおさいフェア」を開いた。今後も積極的に取り組んでいく方針だという。
カンショの基腐病が九州から北上し関東に及び、今年になって茨城県内でも確認されたことに頭を痛めている。この病気は、芋の葉と根元が腐る伝染病。カンショに壊滅的な被害をもたらすので、スーパーや各種の店舗に注意を呼びかけるポスターを掲示している。
【取材を終えて】
自然を相手にする農業は、コロナ禍や気象変動によって大きく左右されることはわかっていても、実態はなかなかわからない。茨城は県北、県南、県西、鹿行の4地域に区分されており、筆者は県北に住んでいる。茨城は広いので、県全体の動きなどつかめない。今回、農業県茨城を代表する4農協と、県内の農協をまとめる立場にある全農茨城県本部の関係者から聞き取りを行い、それぞれの管内を車で走り、県内の状況をまとめることができた。みどり戦略への農協段階の取り組みはこれからのようだ。
見たように、影響はまちまち。同じミズナでも、市場出荷と業務用では全く違う。一言で切ることはできない。だが、コロナの影響はすべての分野に及び、気象変動も農作物や生産者の暮らしに直結している。被害を最小限にとどめ、未来に希望をつなぐための農協。首都圏の食料基地としての茨城。今回、第一線で苦闘している方々に話を聞き、その真剣なまなざしから、まだ茨城は大丈夫だという思いを抱きながら家路についた。(先﨑千尋)
★基礎データ(2020年度末)
全農茨城県本部
会員数 23(県域)
職員数 329(嘱託を含む)
取扱高 2020年度 1632億円(購買468億円 販売1164億円)
販売事業の内訳 園芸82% 米穀12% 畜産6%
水戸農協
組合員数 24,112(内准組合員12,930)
販売品取扱高74億4886万円
購買品供給高 37億8132万円
貯金残高 1401億2949万円
長期共済保有高 3738億8839万円
職員数 397人(内常勤嘱託156人)
水郷つくば農協
組合員数 27,816(内准組合員12,077)
販売品取扱高 94億8707万円
購買品供給高 33億5066万円
貯金残高2451億9019万円
長期共済保有高 5025億9443万円
職員数 596人(内常勤嘱託243人)
北つくば農協
組合員数 23,265(内准組合員7,726)
販売品取扱高 150億6418万円
購買品供給高 51億3853万円
貯金残高 2168億2451万円
長期共済保有高 5866億9728万円
職員数 627人(内常勤嘱託272人)
なめがたしおさい農協
組合員数 18,675(内准組合員5,899)
販売品取扱高 217億4698万円
購買品供給高 41億7284万円
貯金残高 1154億7111万円
長期共済保有高3451億6901万円
職員数284名(内常勤嘱託91人)
★ご協力いただいた役職員の皆様(敬称略)
水戸農協:専務理事・園部優 営農販売部長・雨谷雅彦
水郷つくば農協:総務企画部副部長・大津俊章 営農部副部長・酒井洋幸 総務企画部・倉重雄太 営農部・千野田明理
北つくば農協:営農経済部園芸課長・吉村哲哉 同部米穀販売課長・篠﨑剛 同部特販課長・高野史明 総務部・横島浩樹
なめがたしおさい農協:営農経済部副部長・山口賢一 なめがた地域センター園芸課長・河野隆徳 しおさい地域センター園芸課長・日向寺博之 営農経済部営農企画課・會田春美
ご協力ありがとうございました。
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