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【インタビュー】農林中央金庫 秋吉亮理事兼常務執行役員 「JAバンクならでは」の発揮へ2021年12月16日

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農林中央金庫は12月13日にJAバンク次期中期戦略を公表した。JAバンクならではの金融仲介機能の発揮をめざす。JAバンクをめぐる課題と次期戦略のポイントを秋吉亮理事兼常務執行役員に聞いた。

農林中央金庫 秋吉亮 理事兼常務執行役員農林中央金庫 秋吉亮 理事兼常務執行役員

--JAバンクをめぐる状況と課題をどう見ていますか。

農村部では全体として高齢化し、集落そのものが消滅しかねない地域もあります。農業も担い手が減少していますが、農業生産をどう強化するかという場合、こうした農村地域の問題にJAグループとしてしっかり対処していかなければなりません。

信用事業をめぐっては超低金利環境が続いているわけですが、貯金を集めれば利ざやを確保し十分な収益を得られるという構図はすでに終わっています。これは金融機関全体の問題です。そこに加えて、デジタル化で競争環境も加速度的に変わっています。こうした状況をJAバンク全体としてまず直視しなければならないと思います。

そのなかで、われわれは農業や地域の活性化を担う中心として期待されているはずです。もちろんその期待に応えているJAも随所にありますが、JA全体として、そのような役割を果たす方向に向かっているか、あるいは農林中金自身がJAと一緒になってその役割を担っているかといえば、まだまだ不十分だと厳しく捉えなければいけないと思っています。

さらにコロナ禍という想定していなかった事態に直面し、デジタル化も含めて従来のコミュニケーション手段ではない方法が加速度的に広まっています。高齢者の方々は比較的デジタル嫌いで不得手だと言われていましたが、そのままでは環境変化に取り残されてしまう人が大変多くなるということになりかねません。

しかし、コロナ禍において、人と人がつながることこそが社会だという価値観の変容も確実に起きているのではないでしょうか。そうするとわれわれに対する期待も出てくると思います。協同組合は所有と経営が一体であり、出資者が利用者でもあるという特性がありますが、これは新たな環境下で大変な武器です。われわれのポテンシャルだと考えるべきではないかと思います。

厳しい状況は直視しながらも、われわれが持っている強みはきちんと掴んで、今後どうしていくかを考えるというのが今回の中期戦略を考えるうえでの基本的な認識です。

--中期戦略のポイントはどこでしょうか。

これまでの戦略は金融サービスを供給する側の視点が強かったと思います。このサービスはいいサービスだから利用されるはず、いう考え方です。これは農林中金自身がもっとも強かったと思っています。

しかし、新たな社会において、協同組合が求められているのはそうではないのではと思います。協同組合の利用者は出資者、つまり、仲間です。また、地域で一緒に社会を構成する企業や地方公共団体もお客さま、ステークホルダーと捉えて、相手にとって本当に必要なものは何かを考える視点に立とうということです。

視点を転換して、今までわれわれがやってきたものを大きく変えていくことが必要ではないかというのが最初のポイントです。

そのように視点を変えてわれわれが果たすべき領域をもう一度再定義しようと考えました。それはJA全国大会議案にある農業、くらし、地域の3つです。しかも、それぞれが独立する話ではありません。

われわれは農業の協同組合としてステークホルダーの視点に立ってサービスを転換、強化し、また、くらしの協同組合、地域の協同組合として役割を果たしていく、これに徹底してこだわっていくということです。農業、くらし、地域を関連させてどうサービスを提供していくかです。
 
--「JAバンクならでは」の機能を発揮とはどういうことでしょうか。

1つは総合事業であるということです。これは他業態にはありません。JAの総合事業であるがゆえに金融だけではない複合サービスができるはずだし、もともと求められているはずです。総合事業というポテンシャルを生かせるのがJAバンクならでは、ということです。

もう1つはJAの事業のなかで、金融仲介機能は信用事業ならではの取り組みだということです。
ここでいう金融仲介機能とは資金をしっかりと融通して価値をもたらすだけでなく、利用者に対する相談機能やソリューション提供といった広い意味でのコンサル機能を複合させることです。

つまり、総合事業であることと、本当の金融仲介機能を果たしていくこと、これを農業、くらし、地域それぞれの分野で果たしていき、それぞれのステークホルダーに価値を感じとってもらうということです。これを徹底していけば、われわれは事業体として選ばれ続けるだろうし、それは農業が活性化し、地域に住む人たちの生活が豊かになって、地域全体が豊かになるという循環が生まれると思います。

ただ、地域のインフラ機能といっても、地域によって求められるものが違うので、一律に考えるのではなく、その地域を活性化するためにJAが中心となって、どう地域を支える役割を発揮するかをJA自ら考えていただくようにお願いしていきたいと考えています。

たとえば、JAの施設を利用した太陽光発電による地域の防災拠点としての機能や、子ども食堂の運営、買い物弱者支援のためのコンビニや地元企業との提携による地域の人々の拠点づくりに対するコンサル機能をJAバンクが持つようなことが考えられます。

ただ、その場合、われわれは一定の考え方を示すにしても、さまざまな地域の課題解決をJAとしてどこまでめざすかはJAの判断です。こうした内容について、今回の中期戦略でわれわれから数値目標などを示すものではありません。

今回は基本的な考え方は示しますが、地域の実態をふまえたJAそれぞれのビジョンと戦略はそれぞれ違います。金融仲介機能を中心としたビジョンと戦略を農業、くらし、地域の各分野でJAにしっかりつくっていただく。そのための材料をわれわれが提供し、ビジョンと戦略を策定したら、われわれがさまざまなノウハウや人などを提供して、一緒に農業と地域を盛り立てていくということです。ここが大きな転換です。

経営としての持続性、健全性は当然、金融機関ですから確保しなければなりません。そのためにはまず自らの現在の経営と将来の経営をみていく必要がありますが、農業、くらし、地域の各分野でJAバンクならではの金融仲介機能を発揮することが、最終的には経営の継続性が実現できる収益にもつながっていくということだと思います。

JAが自らきちんと経営基盤を確立しながら、どう役割を果たしていくかを考えていただいたときに、こういう支援が必要だということをわれわれに示していただき、われわれがそれに一緒に応えていく。そういう関係にしていきたいということです。

(あきよし・りょう)1968年生まれ、東京都出身。東京大学経済学部卒業後、1990年入庫。2014年JAバンク経営指導部長、2017年執行役員JAバンク統括部長。2018年常務執行役員を経て2021年より現職。

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