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【インタビュー】大竹和彦農中総研会長に聞く(下)食農バリューチェーン通じ所得向上 100年の歴史見つめ「次」を展望2022年1月25日

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大竹和彦農中総研会長に、農林中金創立100年も踏まえ今後の系統金融事業の行方を聞いた。環境重視の持続可能性をキーワードに、農業を核とした地域との共生社会実現を挙げた。また、食農バリューチェーン構築による農業者所得向上への貢献を強調した。(聞き手 農政シャーナリスト・伊本克宜)

大竹和彦農中総研会長大竹和彦 農中総研会長

■「成長の限界」から半世紀
――今年は、1972年に人口と食料の実態を直視したローマクラブが唱えた「成長の限界」提言からちょうど半世紀。今、同じように成長至上主義の現代資本主義は「曲がり角」に来ています。

ローマクラブは、人口増と食料生産から「成長の限界」を説いたが、当時と今は状況が違う。一方で、経済成長優先は格差、分断とさまざまなひずみが出ている。環境、気候変動、食料問題、経済格差など多方面から現状の経済の在り方を今一度見直す時期でもある。
その意味で、前述した相互扶助の協同組合の「つながる」は、大きな役割を果たすはずだ。

■新自由主義とは「別の道」
――地球環境問題と岸田文雄首相が唱える「新しい資本主義」をどうとらえればいいでしょうか。「脱成長」を主張する新進気鋭の研究者・斎藤幸平氏は話題の著「人新世の『資本論』」でマルクスの言葉「宗教は大衆のアヘン」になぞらえ、「SDGsは大衆のアヘンだ」とさえ言っています。

国連の持続的な開発目標SDGsはどれも重要な項目が入っており、協同組合、系統金融機関としても積極的に関わっていかなければならない。「大衆のアヘン」は気候変動が放置できない中で、このままでは地球環境が大変なことになるとの危機感を示した表現だろう。問題は、新自由主義など成長至上主義ではない環境と社会発展が調和した「別の道」の選択だ。そこに、相互扶助、助け合う協同組合としての価値がある。
農林中金も、地球環境を念頭に存在意義を示したパーパスで組織の方向性を明確化して持続可能な「サステナブル経営」を強調した。今後は事業展開で「持続可能性」が一番に問われなければならない。

■今こそ「FEC自給圏」
現在の環境問題、成長至上主義弊害の議論を見ていると、かつて経済評論家・内橋克人氏が提言した食料・エネルギー・ケア(福祉)を地域内で相互補完する「FEC自給圏」の先見性を思います。「社会的共通資本」を見いだした経済学者・宇沢弘文氏との13年前の共著「始まっている未来」のタイトルも、現在の課題を言い当てています。

生前の内橋さんには「農中もっと頑張れ」とよく厳しく激励された。今思うと、「FEC自給圏」はかなり未来を見通していた。食料、燃料、福祉を地域包括的に対応、実践できるのはJAグループしかない。確かに、SDGsの世界的うねりは「始まっている未来」の体現かもしれない。協同組合、系統金融機関として、地域に根ざしながら共生社会を築き地球環境の「未来」にどうやって貢献していくか。「見える化」が問われる。

■JA全国大会「目指す姿」
――第29回JA全国大会は令和初の大会で、今後のJAグループ全体の組織・事業指針を明らかにしました。系統金融との関連でどう読み解きますか。

10年後のJAグループの「目指す姿」は、持続可能な農業実現、地域共生社会実現、協同組合の役割発揮をどう実現するかだ。
特に地域共生社会の実現は、JAの総合事業を通じて地域の生活インフラ機能の一翼を担い、多様な関係者と共に協同の力で、豊かでくらしやすい地域共生社会の実現に貢献している姿を描いている。持続可能な地域社会へ多様な関係者に系統金融が貢献できる素地が大きく広がっている。

■総合事業生かすJAバンク
――JAバンクの今後の事業展開はどうなるでしょうか。貯金残高は増え続け110兆円が迫ります。

かつて100兆円の大台を目指してきた。だが今は貯金量だけを追い求める時代ではない。
昨秋の第29回JA全国大会で確認した今後10年後の「目指す姿」を実現すべく、JAバンクは系統組織の総合事業性を最大限生かした役割発揮をすることで、各JAが抱える地域の課題解決を行っていく。

新たなJAバンク中期戦略(2022~24年度)では、JAバンクならではの総合事業を生かした価値提供として、資金供給を中心に経営相談などコンサル機能を含めた仲介機能を強め農業、くらし・地域といった各領域で役割発揮をしていく。その上で、JA大会で決めた「持続可能な農業」「豊かでくらしやすい地域共生社会」「協同組合としての機能発揮」を、信用事業を起点に着実に実現することが重要だ。
農業分野では農業者の所得向上の実現を目指す。家族経営から農業法人まで幅広い農業者のニーズに応じた資金供給と、多様な担い手へのコンサルティング。さらに、食農関連企業との投融資拡大を通じバリューチェーンの確立・強化が欠かせない。
くらし分野では、組合員・利用者のライフプランに応じ、一人ひとりの資産状況や要望に添った提案活動がこれまで以上に大切になる。コロナ禍でデジタルサービスを活用した新たな接点構築にどう取り組むのかも課題だ。

■農中1世紀の歴史を俯瞰
――農中100年の歴史と今後をどう見ますか。先日、創設時の歴史的背景も描いた「農中50年史」を読み込みましたが、力作です。最近の「農中90年史」は2008年以降の金融危機対応と東日本大震災への支援活動をリアルに取り上げました。

農中はそのつどの節目で「年代史」を作成し、後世へ記録を残してきた。特に分厚い「50年史」は、産業組合中央金庫としての創設の歴史、農村の資金不足といった時代背景も同時に深掘りした特別な物だ。「90年史」はリーマンショックで農中自身が大きな経営的打撃を受け、系統内での支援の経過やその後の大震災での系統金融全国機関としての役割発揮、食と農への関わり深化などを書き込んだ。
23年末に100周年を迎えるに当たり、1世紀の歴史を俯瞰することも大切だ。発足時の農村での資金需要不足から現在の国際市場を念頭とした資金運用まで、その重点や手法は大きく様変わりした。ただ一貫していたのは、第1次産業の発展を通じた国民経済への貢献だ。
歴史の証言も必要かもしれない。農中総研は調査・研究機関として、必要なら「100年史」を描く手助けをしたい。

■「次の100年」脱炭素へ大胆目標
――農中「次の100年」と、地球環境、脱炭素へ大胆な数値目標を掲げた今後10年の中長期目標は延長線上にありますね。

農中の存在意義、パーパスを「持てるすべてを『いのち』に向けて。」として、「豊かな食とくらしの未来づくり」「持続可能な地域環境への貢献」の方向を決めた。これは「次の100年」にも明確につながる。

その中で、2030年の中長期目標の温室効果ガス(GHG)50%削減(2013年対比)と大胆な目標を掲げた。特に農中の自己努力と共に投融資先にもGHG大幅削減を求めたことは、経営姿勢を示す。日本の国土は森林に多く覆われている。脱炭素には林業の役割も大きい。GHG半減目標には森林由来のCO2吸収施策も組み込んだ。農中が農業ばかりでなく、水産、林業と1次産業全体をカバーしている金融機関としての特色を生かした対応だ。

持続可能性を重視したサステナブルファイナンス10兆円の新規実行との具体的数字を挙げ農中の決意を内外に示した。つまり、今後、農中が支援する企業は具体的なGHG削減といった環境に配慮した持続可能性が問われることを意味する。具体事例は、案件ごとにメディアに公表している。現状6%強の女性管理比率の倍増なども示した。ジェンダー平等、女性活躍は国内外で待ったなしの課題で、数値を示した。

■「1丁目1番地」の食農ビジネス
――食農ビジネスは農業者の所得向上のカギを握ります。ファミリーマート、日清製粉などへの出資など経済事業を担う全農との連携も強まっていますね。

食農ビジネスは事業展開の「1丁目1番地」だ。長年蓄積してきた農中の持つ食農ビジネスのネットワークを生かし、生産現場にも付加価値をもたらす食農バリューチェーン構築を一歩一歩進めていくことが大切だ。ファミマの案件は当初、農中に話があった。それを全農にもつなぎ、具体的な形となった。消費最前線に位置するコンビニの持つ顧客情報は、消費者ニーズを適切に把握する意味でも川上の産地にも極めて有用だ。
今後、産地、農畜産物、物流、販売先を持つ全農との連携が欠かせない。農中・全農連携はますます強まっていくだろう。

■おにぎり国際展開モデル
――食農ビジネスで最近の動きでは、1月に農中出資の「百農社」の香港を起点とした日本産米「おにぎり」の国際展開が注目を集めました。社名の由来ともなった同社理念は「百年先の農を創る」。農中「次の100年」とも重なりますね。

コメの需要拡大は日本農業の持続的発展にとって大命題だ。今回の「百農社」はその典型例だろう。JAグループ挙げた日本産米、日本食品の輸出拡大を担う。農中も積極的に支援、食材や新商品提案を行っていく。アジアを視野にした同社の「おにぎり」戦略は食農ビジネスモデルの国際展開の一つになる。

■農中総研のこれから
――10年先の農中総研の方向性はどうしますか。

現在、若い研究者らによるプロジェクトなどで議論を深めている。
単なる調査・研究の枠を超え、農中、JAバンクと一体となり、農業者、組合員らにどんな貢献ができるのか。農業経営のコンサルタント機能、デジタル技術が進む中でJA経営のDX支援など、農中総研ならではの役割がますます問われる。それに応えていきたい。

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