富里すいかを市と一体で盛り上げ 千葉県・JA富里市 都市近郊の野菜産地確立2022年4月21日
野菜産地の千葉県で、JA富里市はスイカ、ニンジン、トマトなどの野菜で全国トップクラスの産地として知られる。生産・販売の経済事業を中心とするJAで、農業振興を町是とする富里市と一体となって、都心から60キロという大消費地に近い地理条件を生かした独自の販売網を確立し、実需者のニーズに対応したマーケットインの産地づくりを実現している。同JAの産地づくりの取り組みをレポートする。
富里市役所玄関前にあるスイカのモニュメント
すいかずくめの市 市民も含めてPR
富里市の市役所を訪れると、庁舎の玄関前の大きなスイカのモニュメントが来訪者を迎えてくれる。市役所に隣接するJA事務所の前には見慣れない郵便ポストがある。富里すいかのマスコットキャラクター「とみちゃん」の笑顔やスイカをラッピングしたオリジナルポストだ。もちろんれっきとした郵便ポストである。また、昨年の1月に解体されたが、スイカ模様の大きなガスタンクは市のシンボルとなっていた。富里市はスイカずくめの市である。
スイカをラッピングした郵便ポスト
同市の農業に対する姿勢は、令和3(2021)年に制定した「富里市すいか条例」で明確に示されている。条例の目的には「我がまち富里のすいかを、富里を象徴する特産と位置づけ、市、生産者、事業者及び市民の役割を明らかにして、それぞれが協力し、富里のすいかを更に広く知らしめ、すいかの産地として有名なまちとして、市民が市の良さを再認識するきっかけをつくり、郷土への愛着および知名度の向上を図り、富里のすいかを守ることを基本理念とする」と宣言している。
JAや行政だけでなく、スーパーや小売店はもちろん市民も含めて、富里のスイカをアピールしようということだ。特に「市民の役割」を明記しているところに、関係者の思いが伝わる。すいか条例の施行に合わせて、富里市は大々的なPRに打って出た。
首都圏のJRや私鉄にスイカの果肉をモチーフにしたポスターの中づり広告を1週間ほど出した。日本大学芸術学部デザイン学科が手掛けた果肉の赤色が目を引くデザインに「立派なスイカに、育てます」のメッセージを添え、首都圏の鉄道利用者に大きなインパクトを与えた。
JA富里市 根本実組合長
現在、同JAのスイカは、約13億5000万円の売り上げがある。買い取り販売を含めた同JAの販売品取扱高約76億円の17%を占め、ニンジンの17億円には及ばないものの、スイカといえば富里と、首都圏の市場では知られた富里市を代表するブランド商品になっている。この推進力になったのは「JAと市、それに市民が一体となって取り組んだ成果だ」と、同JAの根本実組合長は、特に行政との連携を強調する。
病害虫被害対策などでも行政と連携
JAと行政の連携の一つにJAの組合長が会長を務める富里市農業指導者連絡協議会がある。富里市、農業委員会、丸朝園芸農業協同組合、印旛農業事務所、JAの指導課スタッフからなる組織で、昭和40(1965)年に緑斑モザイク病で大きな被害を受けたときにできた組織で、野菜の病害虫や新しい栽培技術などの普及に関し、大きな役割を果たしてきた。
JAと行政の連携は有害鳥獣防止でも発揮。今年2月に開かれた全国鳥獣被害対策サミットで富里市の有害鳥獣被害防止対策協議会が優良活動表彰で農村振興局長賞を受賞した。この協議会はJA、市、猟友会が連携し、農業者を中心とした集落ぐるみの防止策を講じ、鳥獣害を防いだ。被害の大きかった2019年には1000万円近くあった。それを2020年には250万円に被害を抑えた。
「特にイノシシ侵入の兆候があったが、JAの指導課や市の職員も加わって62人の罠(わな)部隊を組織し、地域ぐるみでイノシシの定着を防いだ。みんなで富里の農業を守ろうという強い仲間意識がある」と、同協議会の会長を務める高山勇治郎常務は、地域のまとまりのよさを強調する。
このような同JAの仲間意識は、生産者部会によって支えられている。同JAの正組合員数は1691人で、作目別の生産者部会に属しているのは700人余り。同JAには支店(支所)がなく、集出荷場や産直センターなどの共同利用施設がさまざまな生産部会など組合員活動の拠点になっている。特にスイカは、昭和40年代、産地商人との競争でJAの共販を高めた歴史があり、仲間意識を醸成してきた。
一面のニンジン畑
社会環境変化に合わせてマーケティング
富里市のある千葉県の北総地域は、関東ローム層の火山灰土質のため水はけがよく水稲には適さないが、麦やラッカセイ、野菜などの栽培には向いており、畑作地帯として発展してきた。現在(2020年)の経営耕地は畑が1462haに対して水田は138ha。それに樹園地33haとなっており、圧倒的に畑が多い。
JA富里市の根本実組合長は「水稲と違って、野菜は価格保障などの国の支援がなく、生産者が所得を得るには、自ら販路を開拓するしかなかった」と言う。このため、卸売市場だけに頼らず、量販店や生協などとの契約栽培やインショップ、原料・業務用野菜の契約取引、さらにはJA出資による企業の農業参入など、流通・消費や社会環境の変化に合わせたマーケティングに取り組んできた。「いま、マーケットインに基づいた販売がとなえられているが、われわれは全国に先駆けて取り組んできた。畑作物は種類が多く、農家の規模・経営形態もさまざまなので、それに合わせた販売が必要だと考えた」と言う。
農業指導者連絡協議会を中心に、消費の変化に合わせ、その土地や土壌にあった品種育成やビニールハウスなどの施設導入、栽培技術の向上に努めてきた。
今年度からの中期3カ年経営計画では、その取り組みをさらに強める。計画では、①直接販売体制の強化②JA直売所等を通じた「千産千消」(千葉県産は千葉県で消費)の促進③eコマースを通じた販売の強化――を挙げる。
同JAの販売は多岐にわたる。①仲卸業者との契約取引②原料企業等との取引③食産業との取引、④量販店サービス⑤マーケットイン(インショップ)⑥産直センター⑦地元消費者向け取引―など多様な販売先・方法を駆使している。
なかでも同JAは、こうした取引を農協主導による契約で行っているところに特徴がある。加工業者や中食・外食産業などとの取引は契約栽培で、希望する生産者を募集あるいは選択し、農協が主導する形で、企業側に企画の提案をしている。それが可能なのは、野菜の小分け(ピッキング処理)を産地で対応することで、首都圏に近い立地を生かして流通情報を先取りするなど、マーケットインの栽培・加工を行っていることがある。なおインショップは西友、ヤオコー・イオン・ベイシア・イトーヨーカドー・ヤックスなどで展開し、新鮮な野菜や果実、花きを直送している。
このほか学校給食・養護施設・老人医療施設などへ農産物を供給し、地方卸売市場が衰退する中で、同JAの産直センターは代わりの役割を果たしている。さらに産直では人口5万人の富里市民の需要に応え、小規模産直店舗で「地産地消」を進めている。こうした多様な取引で、同JAの販売品取扱高の76億7700万円(2021年度)のうち、買い取り販売品が34億5600万円で全体の45%を占める。
農協主導で販売網構築
堀越薫・JA富里市西瓜部会長の話
30年前からスイカを作っている。今年は1.8haの栽培をする予定だが、コロナウイルスで外国人技能実習生の確保が難しくなっている。生産者の高齢化が進んでいるものの、スイカの価格はこの数年安定しており、実習生を入れて産地を維持したい。
JAに期待するのはやはり安定販売だが、世界的な情勢による肥料の値上がりが心配だ。安定した価格できちんと供給できるようにしてほしい。富里市には、スイカを栽培すると10a当たり1万円支援する、全国でも珍しい「すいかの里生産支援事業」の制度がある。行政が農業振興に熱心なのは心強い。
コロナウイルスのため、人気イベントだったスイカロードレースやスイカ祭りができなくなったのは寂しいが、スイカの時期には、富里のスイカを求めてくる人のため、直売もしている。我々のスイカは着花の時期に一つひとつ目印をつけて日数をチェックし、収穫の時は部会の役員が試食して販売しており、品質には自信がある。
最近は、サイコロ状にカットしたスイカが売れている。このため2Lクラスの大玉の価格がよい。大玉の収穫作業は大変だが、時代の変化に合わせた切りかえが必要。品種の導入や作業の機械化などに取り組み、産地を維持したい。
【JA富里市概況】
昭和23(1948)年富里村農協設立。平成14(2002)年4月
市政施行により富里市農業協同組合に名称変更。
▽組合員数=2925人(うち正組合員1691人)
▽貯金残高=242億6100万円
▽長期共済保有高=963億4,000万円
▽購買品供給高=27億3,200万円
▽販売品取扱高=76億7,700万円
(うち買取販売取高34億5,600万円
▽職員数120人(うち正職員68人)
(2021年度末)
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