「時代を変える」女性の底力 「共存共栄」地域のパワーに JA女性70年の歩み座談会(1)2022年5月10日
戦後、JA全国女性組織協議会(JA女性協)の前身である、全国農協婦人団体連絡協議会が発足して70年余り。多くの先人たちの努力で農村における女性の地位は向上したものの、農村の変貌や家族関係の変化で、農業や地域で果たすべき女性の役割も大きく変わった。いま、農村の女性にどのような活動が求められているか。現場で奮闘するJA全国女性協の役員に、本紙「花ひらく暮らしと地域」の筆者、文芸アナリストの大金義昭氏が聞いた。
【出席者】
JA全国女性協副会長(JA熊本県女性組織協議会会長)太田 桂子さん
JA全国女性協理事(JA長野県女性協議会会長)久保 町子さん
JA全国女性協理事(JA福岡県女性協フレミズネットワーク委員会顧問)田中 暁子さん
司会=文芸アナリスト・大金義昭氏
自分で選択 楽しく活動
大金 今を生きる女性のリーダーとして、家庭や地域そしてJAでお忙しい毎日ですね。JA女性組織の70有余年を振り返ると、JA全国女性協の前身である全婦連が発足した1951(昭和26)年当時は食料難時代で、人びとは飢えずに暮らすことで精いっぱいでした。
農家の女性は、法律や制度が民主的に改革されたとはいえ、いまだに家父長制の実態が色濃く残る現実の中で牛馬同然に働かされ、言いたいことも満足に言えず、"針のむしろ"の上で暮らすような状態でした。しかし先人たちの涙ぐましい長年の努力が実り、女性の地位は格段に向上し、十分とは言えないまでも、自己決定も自己実現も容易にできるようになりました。
皆さんは今、家庭や地域、JAでどんな役割を果たしながら暮らしておられますか。それぞれから聞かせてください。
JA全国女性協副会長 太田 桂子さん
太田 夫と二人で水稲を60a、それにこれからが収穫期に入るアンデスメロンを作っています。私が女性部の活動で家を空けることが多いので、主人が一人で頑張っています。農業を始めたのは30年ほど前です。それまでは熊本市内から30分かけて行き来し、夫の父母が営む農業を手伝っていました。
夫の仕事は自営の建設業でしたが、建設業をやめて農業をやると言い出したときはびっくりしました。私の実家は農家だったので抵抗はありませんでしたが、なりたかった美容師を2年続けたあと、農家になりました。農業の経験がなかったので、慣れないメロンの芽摘み作業では時間がかかりました。夫の両親はイライラしたと思いますが、黙って見守ってくれました。
母(義母)が農協婦人部にいたころ、時々メロンの宣伝会などに出かけたこともありますが、母の後を継いで、自然に、当時の農協婦人部の活動に加わるようになりました。夫は仕事人間で家事を顧みることはありませんでした。しかし私が女性部の役につくようになると、洗濯も家事も自分でやるようになりました。いまは夫の協力がないと女性部の活動を続けるのは難しく、周りの人からは「ご主人に感謝しなさいよ」と言われています(笑)。
大金 かつて農家の女性は、貯金通帳はおろか現金も持たせてもらえませんでした。資産の名義もありませんでしたが、今では「嫁」と養子縁組をして女性の持ち分を保障する事例なども耳にしますが。
太田 家計のやりくりは私に任されています。仕事の分担では、夫は機械作業を担当し、私は芽摘みや摘花を、分担しています。いまでは芽摘みや摘花の作業は誰にも負けないくらい早くなりましたよ。
久保 20歳で結婚しました。当時、家には高齢の大きいおばあちゃん(祖母)もおり、母(義母)がリューマチでしたので、寮の管理人として働きながら、祖母、母の面倒をみていました。このためヘルパー資格もとりました。当時は実家の農業も手伝い、父の面倒をみている実家の母の手伝いをしながら介護で駆け回っていました。最近まで叔母の面倒もみていました。若かったのでできたと思います。
今は夫が亡くなり、前後して父も亡くなって一人で農業をやっています。機械の使い方は、亡くなる前に夫から教えてもらいました。土地も私の名義になっていました。夫がいなくなってから1年間は、何をやったらよいか途方に暮れていましたが、JAや農業委員などに相談し、田んぼのすべてを畑に改良し、露地ではヒマワリ、コスモス等を栽培していましたが、雨の日でも作業が出来るようにハウスも建てました。
2年目にはもう1棟増設し、その後、近所の農地を借りて露地の切り花を作りました。どんどん農業が楽しくなり、さらにハウスを1棟増やしました。いま約1000平方メートル近い面積のハウスを経営しています。これを一人で管理するのは大変です。とくに昨年から地域やJAのいろいろな役をやるようになったので、カーネーションから比較的手間のかからないスターチスに切り替えました。
夫は54歳で亡くなりましたが、子どもがいないので土地や農協の口座の名義など、すべて私に切り替えてありました。「ずない」(負けず嫌い)の性格で、頼まれたことは断れず、市や農協の役を引き受け、経営規模も次から次に広げ、忙しくしています。おかげさまで身体も丈夫になりました(笑)。
農機を操り一目置かれ
JA全国女性協理事
田中 暁子さん
田中 結婚して11年目になります。それまでは会社勤めをしていましたが、結婚して2、3年経って、夫が農業をしたいと言い出しました。一晩泣きましたよ。一晩でしたが(笑)。夫の実家はもともと農家でしたが、当時は副業的な農業で、父母が細々と野菜などを作って直売所に出す程度でした。
母(義母)は80歳代ですが、若いころから農業をしているけれど機械は扱えません。車の免許も持たず、一つひとつの農作業が何のためにするのか等もほとんど知りません。これまで、ほとんどの農作業は夫や義父に指示される通りやるだけだったといいます。私が機械を使い、自分でどんどん作業するのを見て良いことだと言ってくれます。
フレミズの活動をするようになって、夫は少しずつ台所に立つようになってきました。力仕事では男女の差はありますが、米研ぎ、米炊き、千切りくらいは男性でもやれるし、やるべきだと思います。キャベツ、ブロッコリー、ダイコン、カボチャを作っています。カボチャは学校給食でも使い、子どもたちには「おいしい」と喜ばれていますが、なにしろ重量野菜なので、年をとるとシフト・チェンジしなければやっていけないかなと思っています。
仲間増やし生活豊かに
大金 「優れた女性の背後には優れた男性がいる」ということですか。何やら背後には、すばらしいパートナーが控えているようですね。役を引き受ける時、周囲はどんな反応を示しましたか。
太田 県の女性組織の会長をやっていますが、家族や地域でのいざこざはいろいろあります。しかし会長をやるといったとき、夫は「若いときは2度とない。やりたいことをやれ」と言ってくれました。うれしかったですね。
田中 私も意欲はありましたが、役を務めるのは無理だと思っていました。理事を引き受けるといえば夫は難色を示すと思っていましたが、「理事なんて誰でも出来るものじゃない! それはすごい」と賛成してくれました。やはり最後は家族の理解がないとできません。
大金 女性が外で活躍することに、パートナーの抵抗はない感じですね。みなさん、それぞれどんな活動に力を入れていますか。
田中 フレミズに13人のメンバーがいます。毎年、やっているのはみそ造りです。それに小学校の新1年生に給食用のナプキンや用具入れの袋をつくり、フレミズのPRをしながらプレゼントしています。余分に作って直売店などでも買ってもらっています。「孫のため」といって好評です。コロナ禍でも自宅でできる活動です。
福岡県では筑後地方のフレミズ活動が盛んで、男性も活動に加わっているところがありますが、なかなか全県に広がりません。フレミズの年齢制限は概ね45歳ですが、45歳を超えて女性部とフレミズと両方に入っている人もいます。女性組織は年齢別にフレミズ、ミドル、エルダーの3部制になっていますが、フレミズと女性部を分けなくてもいいのではという声もあります。
私たちの世代でも、家族に気を使って活動に出てこられないという人がいます。出席のお知らせもスマホや電話でなく、ファクスで連絡してほしいという声があります。どうも姑からはフレミズの活動は「遊び」と思われているようです。そのためにファクスの文書を見せて納得してもらうのです。
加入の機会増やすべき
大金 ファクスも一つのツールですね。以前には「郵便はがき」で通知するといった事例もありました。「嫁」の集まりに「姑の悪口を言っている」と受け止める人たちもいた時代です。
田中 仲間になってもらうには、集まりや催し物も学習だけでなく楽しみも要素に加えて参加してもらうのがスタートなのに、遊びと思われるのは残念です。
大金 女性の正組合員化など、JA運営の参画についてはいかがですか。
太田 女性の正組合員加入は目標近くまで達成しています。もちろん私も正組合員です。JAでは年に1回、100人余りの部員が参加する女性正組合員大会を開いています。講演やアトラクションを聞きたい、見たいと参加し、それに女性部加入のきっかけにもなっています。
理事は女性組合員代表が1人、女性部代表1人の女性枠があります。前回、地区選出の女性理事がいましたが、残念ながら1期で交代しました。どうしても役をやりたい人がいたようです。
(関連シリーズ)
【シリーズ:花ひらく暮らしと地域―JA女性 四分の三世紀】
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