【クローズアップ】梨畑の7割に降ひょう被害 不安募らせる農家 JAいちかわ2022年6月24日
千葉県市川市内は6月初めに梨畑の約7割が傷つく降雹(ひょう)被害を受けた。JAいちかわは被害対策本部を立ち上げ、被害状況の把握とともに農家支援対策に取り組んでいる。深い傷がついた幼果も多く生産者は不安を募らせるが、できるだけ多く出荷させようと肥培管理に努めている。230年の歴史がある産地で海外輸出にも取り組む。「市川のなし」として地域ブランド登録も取得している産地では「傷ついた梨でも、中は甘くみずみずしいいつもの梨と変わりません」と強調している。
降ひょう被害を受けた梨
JAいちかわ果樹部会の荒井一昭部会長によると今年は4月12日に「幸水」の花が満開を迎えた。その後、天候に恵まれいつもより着果量が多く、摘果作業に時間がかかったという。
JAいちかわ果樹部会 荒井部会長(左)
降ひょう被害に遭ったのは「作業が終わってみんなほっとしていた」6月3日の午後4時ごろ。柏井地区に集中的にひょうが降った。
柏井梨業組合の染谷幸弘組合長は「親指大の角ばったひょう」が降ってくるのを自宅で確認すると梨畑に駆けつけた。傷だらけの幼果を見て「ちょっと震えが来ました」と話す。
柏井梨業組合 染谷組合長
染谷さんの梨畑は60aで約200本の梨が植わっている。例年なら「幸水」3t、「豊水」5t、「新高」2.5tと計10.5tを出荷してきた。しかし、今回、ひょう被害で落果したものはないが傷を受けたのは9割強に及ぶ。葉も落ちたり穴が開いたものも多く、傷ついた枝も。今まで枝葉の生育に回っていた養分がこれから幼果の成長に回るという矢先に、葉や枝がダメージを受けたことで今後の生育への影響が懸念される。
葉や枝にも被害
「7月末にならないとどれだけ出荷できるか分かりませんが、それまでの間に被害のひどい実は取り除く作業をしていくことになります」と染谷さんは肩を落とす。
JAは3日に被害対策委員会を立ち上げ、翌4日には役職員が被害状況を調査した。市川市内の梨農家は203戸。このうち170戸が大きな被害を受けた。梨畑は247haで被害面積は174ha、被害割合は83.7%に及んでいる。
被害にあった梨畑からすべての果実が出荷できないと13億4000万円の被害額が見込まれている。
これまで5月の連休前後に降ひょう被害はあったが、6月上旬の被害は千葉県で初めてだという。過去に経験がないだけに今後どう生育が進むのか産地には不安が募る。
市川の梨は230年の歴史があるという。「豊水」、「あきづき」の親品種である「石井早生」は市川の農家が育成した。2007年に「市川のなし」として特許庁の地域団体商標登録制度に登録されている。2012年からドバイに輸出するなど海外への販路も拡大している。
しかし、被害によって例年より品質の低下と価格低下が避けられない状況が予想される。
今野博之代表理事理事長は「高品質の梨にプライドを持っている生産者は強いストレス感じている。203軒の梨農家を守るために、できることから取り組んでいきたい」と話す。
今野理事長
被害果実の買取販売へ
JAは、被害果実を買い取り直接販売に取り組む方針を決めた。箱売りは出荷基準外の企画品として今年度から開始するインターネットでの販売に取り組む。
また、袋詰めにした梨を各種イベントへの参加や企業などと連携して販売するほか、JAの支店での店頭販売も行う予定だ。
被害果実については手数料を徴収しないで販売していく。
こうした農家支援活動は被害発生時のフードロスの軽減にもなり、JAはSDGsの「持続的な消費と生産」にも貢献することになると力を入れる。
一方、「市川のなし」はこれまでも「梨ウォーター」など加工用としても活用されてきた。山崎製パンは例年10tほど加工用として受け入れてきたが、被害を聞きつけてすぐに、今年は15t程度の受け入れをすると連絡があった。和梨ピューレ製造のリカンヌもこれまで加工用に受け入れており、さらに新規に不二家も受け入れを検討している。ジャムやゼリー、ジュレなどの商品が想定されている。
染谷さんをはじめ現地の生産者は、「この地域は自然災害の少ない地域だったのに......」と今回の被害に衝撃を受けている。
今野理事長は「気候変動により今後も地域で災害はあるのではないか。来年もう1度ひょう被害を受ければ梨栽培をやめる人も出てくる」と危機感を持つ。今年、販売で生産者を支えるとともに、網目の細かい多目的防災網の導入で被害を防ぐことも考えなければならないという。ただし、導入費用は10a当たり150万円。国による2分の1助成はあるものの「それでも高い」としてJAとして千葉県に独自の助成を要請している。
降ひょうの被害は埼玉県や群馬県でも起きた。いずれも想定していなかった大きな被害となっている。
21日にJAが開いた現地説明会で染谷さんは最後に報道陣に向かって「傷はついていますが、甘くてみずみずしくおいしい。味には自信があります」と呼びかけていた。
重要な記事
最新の記事
-
【特殊報】モモほ場で「モモ果実赤点病」県内で初めて確認 愛知県2024年12月27日
-
【特殊報】ブドウにシタベニハゴロモ 県内の果樹園地で初めて確認 富山県2024年12月27日
-
【注意報】かぼちゃにアブラムシ類 八重山地域で多発 沖縄県2024年12月27日
-
米輸入めぐるウルグアイ・ラウンド(UR)交渉 過度な秘密主義に閣僚も「恥」 1993年外交文書公開2024年12月27日
-
1月の野菜生育状況 さといも以外の価格 平年を上回る見込み 農水省2024年12月27日
-
(416)「温故知新」【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月27日
-
東京23区の12月の消費者物価 生鮮食品の前年同月比は2桁増2024年12月27日
-
JA全農あきたがスマート農業研修会 農機・担い手合同は初2024年12月27日
-
【農協時論】石破新政権へ期待と懸念 地方創生自任し民主的な議論を 今尾和實・協同組合懇話会代表委員2024年12月27日
-
ブランドかんきつ「大将季」登場 銀座三越で「鹿児島の実り」開催 JA全農2024年12月27日
-
「鹿児島県産 和牛とお米のフェア」東京・大阪の飲食店舗で開催 JA全農2024年12月27日
-
【世界の食料・協同組合は今】化石補助金に対する問題意識(1)循環型社会 日本が先導を 農中総研・藤島義之氏2024年12月27日
-
【世界の食料・協同組合は今】化石補助金に対する問題意識(2)化石資源補助削減が急務に 農中総研・藤島義之氏2024年12月27日
-
【人事異動】日本農産工業(2025年4月1日付)2024年12月27日
-
TNFDを始める企業必見 農林中金・農中総研と共同セミナー開催 八千代エンジニヤリング2024年12月27日
-
「産直白書2024年版」刊行 記録的な猛暑で農業の難しさが顕著に 農業総研2024年12月27日
-
農林中金 医療メーカーのニプロとソーシャル・ローン契約 10団体とシンジケート団2024年12月27日
-
協同組合振興研究議員連盟に国会決議を要請 IYC全国実行委員会2024年12月27日
-
2025国際協同組合年全国実行委員会がSNSで情報発信2024年12月27日
-
インターナルカーボンプライシング導入 井関農機2024年12月27日