【JAトップインタビュー】JAあつぎ組合長 大貫盛雄氏 生産組合こそ協同の要2023年2月14日
神奈川県のJAあつぎは都市型農協であるなかでJAの屋台骨である生産組合など組合員組織の育成をモットーにする。「人と人のつながりが何よりも大切だ」という大貫盛雄組合長へのインタビューと合わせて同JAの軌跡と今後の方向を8年前に事業改革のコンサルとして関わったA・ライフ・デザイン研究所代表の伊藤喜代次氏に報告してもらった。
「人」が地域守る基盤
――都市地域にあるJAあつぎは、都市型JAでありながら、農業振興とともに、各種組合員組織の活動が活発で、組織育成に人一倍エネルギーを費やし、長期的な人的投資を続けてきています。そんななかでのコロナ感染でした。歯がゆく辛かったと思いますが。
JAあつぎ代表理事組合長大貫盛雄氏
大貫 コロナ禍により、長く協同活動が停滞し、これまで通算して半世紀にわたり職員・役員として組合員とその組織に関わってきましたが、これほど苦しい経験は初めてでした。でも、今年度は3年ぶりに一般の来場者を迎えて農業まつりが本所・各支所で開催できました。会場では、久しぶりにお会いする方々、マスク越しでも笑顔を感じ取れました。組合員からは「やっぱりこういう活動は絶対必要だよ!」と力強い声を多数いただいた。JAはいかに「人と人とのつながりが何よりも大切であること」を再認識させられました。
JAは何よりも、「組合員が主体性をもって協同活動に取り組んでもらえること」が強みである、との信念は変わりません。
――3年に及ぶコロナ禍で、組織活動に大きな影響が生じていると思いますが。
大貫 コロナ禍では「人と人とのつながり」が何より大切な組合運営にとって、組合員と対面で話ができない、組織活動ができない、活動が止まってしまったようで、深刻な事態でした。また、その長期化によって、組合員との関係性の希薄化への懸念が膨らみました。また、職員の協同の学びの停滞と精神的なストレスの増幅による影響なども懸念していました。
――私とJAあつぎとのお付き合いは長いですが、8年前に30歳代の職員のプロジェクトチームとともに、各種組合員組織の現状や課題の調査・研究をスタートさせ、理事会など組織的な課題検討を始めました。
大貫 管内の農家経営や農業形態が急速に変化していくなかで、地域農業の課題とともに、とくに「自主・自立の組合員組織」である地域の生産組合は、JA事業の共同利用組織であり、総代の選出や理事の推薦を行う基盤組織です。といって、現実には、生産組合の役員のなり手がいない、実際の活動がない、組合員が減少している、なかには、生産組合という名称を変えたらどうか、などの声が耳に入っていました。
そこで、JAの将来を考えれば、「自分たちの地域の農業を、そして自分たちの組織である生産組合をこれからどうするか、組合員自身に話し合ってもらいたい」と考え、組合員組織にかかる組織基盤を強化するためのプロジェクトチームで、調査・研究に取り組むことにしたのです。
その際、地域的なJAの基盤組織である生産組合とともに、生産部会組織、資産保全部会、法人部会、青色申告部会などの組織を現状に合わせ見直す必要があると考え、調査対象を主要な組合員組織に広げたのです。
――調査時点の平成27(2015)年には、JA管内に177の生産組合があり、当時、生産組合の組合員数は6743人で正組合員が4065人、准組合員が2678人、4割が准組合員でした。正直、驚きましたし、将来への可能性がある、と感じたのです。
大貫 生産組合の組合員の4割が准組合員であることは、前向きに考えれば、将来への多様な可能性が考えられます。
ところで、よくよく考えたら、JAの生産組合の長い歴史やJAの基盤組織としての意味を理解しているJA職員がいかに少ないか、に気づいたのです。今後の組織の課題解決のためには、職員の力は不可欠です。そこで、平成30(2018)年に全役職員向けの生産組合学習誌「生産組合を知ろう、学ぼう、考えよう」のテキストを作り、31年早々から全支所店、施設で、全職員一大勉強会を展開しました。さらに、直後には、組合員向けの啓蒙(けいもう)誌として『明日の生産組合を考えよう ~みんなで見つけよう生産組合の新しい価値』を発行して、生産組合のみなさんにも読んでもらい、考えてもらうきっかけづくりをしました。
さらに、組合員組織の課題を継続して研究し、長期的な組織のあり方を実践的に研究するため、支所経済課長と本所幹部職員などで構成する「組織基盤研究チーム」を創設、現在も毎月研究会を開催しています。
さらに、3年前からは、新たに「組織文化部 組織基盤対策課」を設置し、基盤組織全般の維持・活性化のための企画や活動に注力しています。
――組織基盤研究チームで、具体的な177の生産組合の実態把握と職員による組合員組織のフォロー活動は、実に論理的で、ここまで具体的に行っているJAは他にないと思います。
大貫 組織基盤研究チームでは、平成31(2019)年から、全生産組合長へのアンケートとヒアリング調査を行い、活動報告書を作成、この概要をすべての生産組合員に配布しました。177の生産組合のうち、活発に活動している組合もあれば、休止状態の組合もあります。そこで、調査では、今後の活動に向けた具体的アイデアや状況の改善に向けた工夫などの提言もいただくことにしました。
加えて、177の生産組合を、支所店の全職員が担当する体制をスタートしました。生産組合の課題を一緒に考え、サポートすることが目的です。全生産組合長と担当職員が、密接な関係を構築し、随時訪問や、会合等による意見交換を重ね、各々の状況や課題を共有しながらサポートに努めています。この体制ができたのも、職員に生産組合の組織的価値や歴史を学んでもらったからです。
2年前からは、担当する職員には、生産組合の「取り組み状況シート」を毎年、作成してもらい、177生産組合の活動状況を具体的に把握しています。これをもとに、画一的なサポートではなく、「取り組み状況シート」の内容によって管理し、当面の支援につなげています。こうした一連の活動が功を奏し、177生産組合数は減少していません。
また、地区ごとに生産組合長会議を毎月行っていますが、JAの報告事項を少なくし、生産組合の理解を深める内容や多様なテーマでの協議、意見交換の必要性を求める声がありましたから、グループ討議を織り交ぜ、かつ、テーマを絞っての話し合いをしたところ、他の生産組合の状況を知る機会になるなど、活発な意見交換ができて好評です。
主体的連携が強みに
――やはり、支所を中心に、農業振興や組合員組織対応を行う「地域主義」をJA運営の基本に据えていることで、スピード感のある対応ができているように思います。そのなかで、生産組合長会としての提案で新しい活動が始まったようですね。
大貫 昨年度からですが、一つは、全生産組合員に「花の種子(ヒマワリ)」を配布し、育ててもらう活動です。「生産組合への理解・重要性をメッセージで伝えつつ、コロナ禍における「農を感じる活動」として、「全生産組合員に花の種子」を配布する提案を行い、採用されました。この取り組みは、准組合員にもメッセージを発信でき、一部の生産組合や支所のヒマワリ活動としても展開されるなど、地域的な活動として取り組んだ事例もありました。
さらに、全生産組合長にJAあつぎのオリジナルロゴの「帽子」を制作、配布しました。生産組合長の認知・理解促進、一体感を図る活動の一環で、帽子の着用によって生産組合長が職員にも一目で分かり好評で、昨年の農業まつりでも着用してくれていましたよ。
小鮎打越生産組合ヒマワリ種まき
――これからの組合員組織活動の位置づけ、今後のJAの組織運営や事業活動との関係をどのように考えられますか。
大貫 JAあつぎの基盤組織である生産組合は、「自主・自立の組合員組織」であり、農業や社会環境が変化しても、「最も重要な基盤組織」という位置づけは変わりません。組合員には「地域の主体的な組織である」という意識を持ってもらい、「組合員自身が、どう考えていくか」がとても重要です。いま、私たちが注意したいことは、生産組合の対応を間違え、組織を壊してしまったら、もう二度とつくることができない組織である、という認識と危機的な意識です。
例えば、私の地域では自治会や他のつながりの組織よりも、JAの生産組合のつながりが最も強い。農業機械の共同利用、農地を守る活動、土地活用や地域のこと(交通信号、進入禁止・スクールゾーンの設置要望など)まで生産組合の仲間がかかわっています。
しかし、都市社会や地域の農業全体を見渡せば、その関係性は希薄化しているし、徐々に変わってきています。加えて家族構成の変化、組合員の世代交代もあり、組合員組織の意義や目的も伝承されにくく、組織の大目的が薄れていくのではないか、という危惧もあります。
――どんなに社会が変化しようが、都市化地域でも、農業や農家や農地が消えてなくなることはないでしょう。
大貫 ですから、当JAだけでなく、全国の都市化が進んだ農業地帯のJAは、多くの共通する課題を有するJAからも学びたいはずです。今後はJAあつぎだけでなく、県域を越え、全国のJAとも課題を共有し、ともに解決策を模索する研究組織が必要だと私は思っています。
目の前の組合員の高齢化、役員のなり手不足などの問題は、一朝一夕に解決できない課題ばかりです。組合員との対話の継続や組合員組織への必要な働きかけ、サポートを継続させていくことで、組織の維持・活性化の「炎」をつないでいきたい。時間はかかります。しかし、これがJAの組織の「強さ」につながり、先々の事業活動にもプラス効果として返ってくることを信じています。
その意味では、やはり農業協同組合の理念をもう一度掘り起こし、耕して、生産組合は地域で何ができるか、協同組合の良さや強みを組織的にどのように生かしていけるのかを考えていかなければなりません。地域農業の振興や暮らしを豊かにすること、JAの基盤組織として地域の組織運営についても、生産組合が中心となって活動していくことが必要です。
私は協同組合としての本質を、この生産組合の中に見出し、生産組合がJA綱領を体現する組合員組織であってほしいと考えています。
下戸田生産組合ジャンボタニシ対策泥上げ
現場主義で正准組織化
JAあつぎは、神奈川県の中央部に位置し、1963(昭和38)年7月に隣接する清川村農協との合併により誕生(1市1村)。
管内は、自然豊かな田園地帯、早くから鉄道、高速道路の開通で、首都圏の良質な住宅地として開発が進む。近年、市街地の拡大、再開発、新たな高速道路網の整備で交通の要衝に。自然との調和ある地域として、首都圏では"住みたい町"として人気が高い。
管内の農業は、販売金額こそ少ないものの、豊かな自然環境に恵まれ、米、露地野菜、果樹、施設野菜、花きなど、きわめて多種多様な農業が営まれている。ファーマーズマーケット「夢未市」は、生産者と消費者の地産地消の拠点、交流の場となっている。
JAあつぎの特徴は、地域を軸にした組織・事業活動を展開してきたこと。営農経済事業を集約・拠点化せず、支所の活動として、総合事業機能、地域マネジメント機能を生かし、農家対応、農業振興に取り組んできた。また、都市型JAながら、各種の組合員組織の活動を重視、多様な支援を行ってきた。女性部などの活発な活動は広く知られている。この支所を基点とした諸活動が、分権による現場主導で行われることで、柔軟で強力な実践的支援を生んでいる。
玉川地区女性部「敬老の日お花プレゼント」
今回の大貫組合長インタビューの基盤組織の生産組合に対しては、さまざまな問題を抱えていることに、しっかり向き合い、先送りせず、現状理解、課題整理によって、職員や組合員の学習活動を組織するという画期的な取り組みが行われた。さらに、全生産組合に支所の担当職員を張り付け、個別対応、現況把握・支援、活動報告と評価を行う。生産組合の活動継続を基本に組織をあげての積極的な活動を展開する。
大貫組合長は、「JAは組合員組織を基盤とする事業組織であり、基盤組織の動向は、JAの将来を考えるうえで重要。一度、組織を壊したら、二度と再生できない」と確信している。だからこそ、組合員組織にこだわり、経営資源をつぎ込み、研究し、行動するJAあつぎの姿は全国的にも希有な存在であり、先進的で、この実践・経験は多くのJAにとって、貴重な事例となる。
今後は、他のJA組織と情報の共有や共同研究を通じて、組合員組織のあり方、正・准組合員の組織化などに果敢に取り組む意向だ。
【JAあつぎの概要】
▽組合員数=1万8478人 (正組合員数=4301人、准組合員数=1万4177人)▽役員=32人、職員=368人▽出資金=24億円▽貯金残高=3739・6億円、貸出金残高=900億円、長期共済保有高=6131億円▽購買品供給高=36億円▽販売品販売高=12・9億円
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