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【JAトップインタビュー】長期ビジョンで「人」「店舗」づくり着々 JA邑楽館林組合長 阿部裕幸氏2023年3月15日

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群馬県のJA邑楽館林は10年前から農業ビジョンの策定に着手し、3次に渡り3カ年計画を実践。着実に成果を上げてきた。同JAの阿部裕幸組合長にJAの姿勢や生産者との信頼関係をつくってきた背景などをインタビューした。聞き手は同JAのビジョン策定に関わったA・ライフ・デザイン研究所代表の伊藤喜代次氏。

――最初に、JA邑楽館林は組合員農家との面接や相談などをとても大事にして農業振興に実績をあげてきました。10年ビジョンの最終仕上げの第3次計画の半ばにコロナ感染拡大が発生。JAの営農・販売活動には、支障が大きかったでしょうね。

JA邑楽館林組合長 阿部裕幸氏JA邑楽館林組合長 阿部裕幸氏

阿部 参りましたね。当JAの大きなの柱である米は業務用米がほとんどです。コロナで、外食の消費が止まったことが大きかった。令和3(2021)年度の農家への支払いが1俵9600円に落ちた。
事業運営面では、生産者のみなさんとの話し合いや訪問、相談などの活動がほとんどできず、この影響は大きかったですね。いまは、ITの技術で対話はできますが、生きた営農活動は対面なんです。これが生命線ですから。今後、工夫を凝らし、うまく使う努力が必要です。

――JA邑楽館林は、10年前の2012年度から10年後の農業ビジョン等の策定に着手、13年度から3次にわたる3か年計画で大きな成果をあげました。今年度から、新たな10年ビジョンに向けた第4次の経営刷新計画がスタートしています。

阿部 JAの総合的な10年ビジョンについては、伊藤コンサルに8年間、お世話になり、当時、合併後の明確な目標がはっきりしました。中堅職員の能力開発研修を実施し、その職員が「新農業ビジョン」、JAの支所や施設などの「新店舗づくりビジョン」、そして、「人づくりビジョン」の三つを策定しました。コロナ禍までの8年間で大きな実績をあげました。とくに、販売事業は、2013年度の148億円から20年度にかけて15.2%増の170億円に。ビジョンに掲げた戦略型作目の振興、もっとも重要な経営力の高い農業経営を拡大させました。

「新農業ビジョン」で生産者が販売高伸ばす

――「新農業ビジョン」において、JAは農家をA・B・Cの三つの農家群に分けて、対応方法を変えたいと提案し、議論を重ね、臨時総代会で承認いただいた。個別課題の解決にJAが本格的に乗り出し、サポートした結果がはっきり現れました。

阿部 「新農業ビジョン」は、それまでの漠然とした農業振興策を、数値目標を掲げ、1,500万円以上の販売農家の育成・支援という使命をはっきりさせた。職員も積極的に行動できたし、生産者も応えてくれた。ちなみに、上位50位までの販売高2,000万円以上の生産者のJAの販売高は2014年度から16年度の3年間で、何と42%の生産者が販売高を20%以上伸ばしました。驚異的な結果です。
生産者と相談し、目標をきちんと設定して、実現するために実行することを職員が一緒になって取り組み、生産者の背中を一生懸命押す仕事ができたと思っています。何としても生産者の収入を増やすという職員の強い意識と行動が、生産者の販売高の伸張実現の原動力でした。

――この上位50位までの生産者の年齢と後継者の有無を調べたのですが、60歳以上の経営者のもとには、すべてに後継者がおり、それ以外は、経営者の年齢が60歳以下でした。

阿部 高い経営能力と意欲を持った生産者は、小さなサポートやアドバイスでも経営に生かし、飛躍的に経営を伸ばす能力を持っています。この時期、JAの職員も目標が明確でしたから、身を粉にした対応をしてくれたと思っています。

――信金の関係の仕事で、町の小売店や事業者でも、収入が2,000万円を超えると経営に自信が持て、後継者が生まれます。農業経営も同じですね。

阿部 JAの経済事業は、農家の収入が増えないと、取扱高は伸びないのです。当たり前のことですが。店舗や配送施設をいくら整備しても、農家の収入が増えなければ取扱高は減ります。やはり、この農家の販売高を上げ、所得を増やす、実効性のあるサポート・支援が重要です。
明確な「核」なる戦略作目の振興、「核」となる経営力ある生産者への支援サポート、販売金額と所得を確実に上げる施策が実現し、地域農業のリード役を果たしてくれました。その流れが、経営規模の大きさだけでなく、「やる気のある農家」を応援しようという新しい活動につながっています。

「やる気のある農家支援事業」に生産者の評価高く

――2年前にスタートした「やる気のある農家支援事業」の内容と実績を教えてください。

阿部 JA独自の農家支援事業で、経営規模拡大・維持、生産技術を有し、健全な経営を行っている農家からの応募で、審査して助成するという制度です。2021年度申請件数が51件、22年度が46件です。経営規模に関わらず、もう少し農業を頑張ってみたい、という前向きな生産者がいますから、JAとしても何とか応援したい。この制度全体の上限金額は1,000万円、申請件数すべてを承認しました。
この取り組みは、支援事業への生産者の評価は高く、JAの農業振興、生産者支援の積極的な姿勢を認めてくれました。JAも支援事業では足りない資金をどうするか、金融渉外の職員が訪問した結果、機械の購入の残額はJAから農業融資を利用する農家が出てきて、2年で関連する農業融資は6,400万円ほどの実績となりました。
余談ですが、この助成申請者のなかには、JAとせっかく関係ができたので、息子の住宅ローンもお願いしたい、という他の事業にまで広がりました。

――JAの農業振興への強い姿勢、生産者への熱い思い、そんなメッセージが伝わったのですね。

阿部 JAの農業への向き合い方が理解されつつあると思います。助成額はわずかなものですが、生産者の前向きな投資のきっかけになったのです。生産者からは、この支援策を続けてほしい、といわれていますし、他の生産者に広がることがうれしいです。それと、職員の行動です。昨年秋、国の肥料価格高騰対策事業でも、全職員に2,300戸の生産者訪問による申請支援活動を行いました。全職員が3~4回の研修でしたが、良くやってくれたと思います。これも生産者のJAへの信頼を高めたと思いますし、職員も生産者に接して学んだことが多かったようです。

大型農産物直売所で消費者の農業理解も

農産物直売所「でんえんマルシェ」農産物直売所「でんえんマルシェ」

――ところで、JA邑楽館林は昨年12月に、大型の農産物直売所「でんえんマルシェ」をオープンしました。

阿部 そうです。当JAには、核になる戦略型の農畜産物があり、さらに、核となる生産者群があります。しかし、不十分だったのは、中小規模でも前向きに意欲的な多様な生産者の育成、支援策です。そのために、新たな拠点としての農産物直売所を建設しました。
この直売所は、邑楽町と一体となった地域活性化事業の一環で、国道沿いに邑楽町のバスターミナルに併設した利便性の高い施設です。そこに地元の新鮮な農産物を販売するという生産者の育成とともに、地元の消費者の農業理解を深める役割を期待したわけです。
この地域は、これまで米麦中心の農業地帯でしたが、JAが持っている野菜振興の手法、ハウス栽培などのノウハウや農家支援策を総動員して、多様な農家の協力と野菜生産の広がりを狙ったわけです。たとえば、生産者にタネをまいてもらうのではなく、苗を作って配布して植え付けてもらいます。現在、登録農家は270戸で、600戸をめざしています。

「でんえんマルシェ」のにぎわいの様子「でんえんマルシェ」のにぎわいの様子

支所の再編と事業再構築

――JA邑楽館林で、10年ビジョンで「新店舗づくり」を掲げ、着実に再編し、実績をあげてきました。ここの特徴的な取り組みは、支所の再編と事業の再構築です。店舗の建設プランから、事業戦略づくり、再編対策の具体的な方法、オープンイベントまで、関係する職員チームが考えて進行するというスタイルは、全国のJAのなかでもきわめて少ない事例だと思います。

阿部 10年後の支所のあり方の調査・研究と、再編の計画づくりでは、伊藤コンサルの指導で行った実際の再編プロセスと新規店舗の建設の実例を学び、それを生かし、その支所で働く職員と本所の職員によるプロジェクトチームが店づくりのすべての段取りを行っています。これは、役員の上意下達のような店づくりではなく、また、外部の業者に任したりせず、職員自身で考え、納得した店舗をつくっていくという手法を現在も踏襲しています。理由は、職員のモチベーションが上がり、目標数値への前向きな行動が生まれ、実績を重ねてきたからです。
一方で、幸いというべきか、競合する金融機関の出張所の廃店、支店の閉店などが相次ぎ、JAをメインバンクとしたいという地域の新しい利用者も増えています。小口の資金借入などが増加し、JAが新しい店舗を開店させていることもあって、地域の身近な金融機関になってきているという実感は以前より大きいように思います。

JA邑楽館林千代田支所JA邑楽館林千代田支所

――JA邑楽館林の10年ビジョンのなかで、3次にわたる8年間の事業実績は、貯金残高が24.4%増、貸出金も23.1%増加し、支所再編を管内で実施するなかで、着実に実績をあげています。

阿部 支所の再編も長期計画にもとづいた取り組みで、ビジョンの計画に沿って新しく4店舗を新規に建設しました。目標に明確な数値を掲げて取組み、事業伸張、管理費の削減、収益性の確保ができたことで、支所再編はJA経営に大きく貢献しています。それは、私どもの上意下達で達成したのではなく、職員の前向きな姿勢と知恵と工夫です。自分たちが納得できる店づくり、計画を作るのですから、目標が達成しないということはないのです。

「窓口で客を待つ店舗」から「訪問相談」重視活動へ

――JAの金融中心の店舗の事業や経営は、厳しいといわれています。店舗建物の利活用や事業の展開、集客、組合員との関係性強化など、難しい課題に直面しているように思いますが。

阿部 悩ましい問題です。店舗の運営に関しては、新支所主義を宣言し、支所ごとに特徴的なイベントや情報発行などを行っています。まずは、「窓口で客を待つ店舗」を変革することです。組合員の投資信託などの資金運用ニーズが高くなっています。こうしたニーズへの的確な対応は、これまでの渉外活動や窓口対応とは異なる運用相談・提案・納得をいただく「訪問相談」重視の活動ではないか、と考えています。組合員の金融ニーズやライフ・デザインとしっかり向き合った事業とすることです。これは、生産者と一歩も二歩も踏み込んだ関係性をつくってきた経験が、金融や共済事業にも大いに生かせると思っています。

JA邑楽館林の10年ビジョンへの挑戦と成果

JA邑楽館林は、群馬県の東部に位置し、2009年3月に広域合併により誕生(1市5町)した。
JAは、過去の延長線上に中期計画を策定する計画づくりをあらため、10年後の地域農業、地域社会の変容を想定し、JAの長期ビジョンの策定を行い、JAの経営資源を集中・シフトする。きわめてビジネス経営論の王道で、方向性を明示、3次にわたり2013年度から中期経営刷新計画を策定し、主要目標は重要目標達成指標(KGI)を示し、高い成果を実現した。
2012年度から30歳前後の中堅職員の「ビジネス能力開発研修」を行い、受講生中心にJA管内の農業・生産者に関する調査、支所・事業所店舗の実態調査、競合企業調査、管内社会・経済動向調査などを実施。この結果を受けて、プロジェクトチームで三つの長期ビジョン(10年目標)を策定。3カ年計画と各年度の重点計画で達成に取り組む。
このうち、二つの「新農業ビジョン」と「新店舗づくりビジョン」は、理事会、地区別懇談会、生産者組織、青年・女性部組織などでの討議を重ね、明確で重要な目標達成指標を掲げて、臨時総代会で決議。13年度から第1次経営刷新計画がスタート。
さらに、もう一つの「人づくりビジョン」を策定し、日常の職場活性化に向けた実践もスタートする。
2016年度から第2次経営刷新計画、19年度から第3次経営刷新計画、そして、22年度からは、新たな10年ビジョンに対して第4次経営刷新計画がスタートしている。
JA邑楽館林は、事業活動におけるターゲットマーケティングを活用して戦略作物の伸長、核となる意欲の高い生産者・農業経営への積極経営支援などに取り組み、短期間での成果の達成、経営力の高い生産者の育成・拡大で実績をあげ、農家の販売高、所得の増加を実現する。
一方で、支所や事業店舗の再編では、支店カルテによる事業・経営分析、管内地域のゾーニング、新事業戦略方針の策定などをすべて職員チームで行い、計画的な再編、新店舗建設に着手し、ここでも高い実績をあげる。

(A・ライフ・デザイン研究所 代表 伊藤喜代次)

【JAの概要】
▽正組合員数=7954人  ▽准組合員数=8970人
▽出資金=29億円
▽役員=45人  職員520人(臨時129人)
▽貯金残高=2344億円  貸出金残高=312億円  ▽長期共済保有高=4526億円
▽購買品供給高=59億円 ▽販売品販売高=156億円

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