【みどり戦略リポート】有機栽培 やっと時代が追いついた 日本農業賞大賞の茨城県やさと農協有機栽培部会(1)2023年3月23日
農水省が進める「みどりの食料システム戦略」は農林水産業のCO 2削減や、耕地面積に占める有機農業の取り組み面積を25%、100万haに拡大することなどの目標を掲げている。このような中で有機農業を実践する茨城県やさと農協有機栽培部会は今年度の日本農業賞大賞を受賞した。同部会の取り組みや方向を取材した。
(本紙客員編集員・先崎千尋)
活発に意見を交わす有機栽培部会の総会
三位一体の歩み20年 開花
「やさと農協に有機栽培部会が誕生して25年経ったので、その記念として日本農業賞に応募してみたら大賞を受賞できた。仲間と喜び合った。正直な気持ちは、やっと時代が私たちに追いついてきたということだ」。茨城県石岡市にあるやさと農協の有機栽培部会長・岩瀬直孝さんは胸を張る。
全国農協中央会と各都道府県農協中央会、NHKが主催する日本農業賞は52回目を迎え、個別経営の部で8人、集団組織の部で7団体、食の架け橋の部で7団体が受賞した。同部会は、そのうち集団組織の部で大賞を受賞し、今月4日、東京渋谷のNHKホールで受賞式が行われ、関係者が出席した。
同部会は今月8日、同農協が運営する「やさと温泉ゆりの郷」で総会を開き、受賞を祝った。
神生賢一組合長
この席で同農協の神生(かのう)賢一組合長は、「今回の受賞は、東都生協をはじめ理解のある消費者がいて、生産者が有機栽培に熱意を持って取り組んできた結果だ。その両者を農協がつないできた。いわば三者が三位一体となって、20年以上にわたって取り組んできたことが評価された」と、関係者の努力を讃えた。
販売先の産直確立
有機栽培部会長岩瀬直孝氏
部会長の岩瀬さんは電機メーカーに勤めていたが、30歳で就農、7haを経営する。そのうちの4haの水田は半分を有機で栽培し、畑でのジャガイモ、サトイモ、ニンジン、ピーマンなどはすべて有機栽培で育てている。
「八郷地域の有機生産農家は点在していて、圃場があまり大きくない。そのため、近隣の農家とトラブルを起こすことがない。ヨソの目をあまり気にしないで有機農業に取り組むことができた。むしろ温かく見守ってくれていた。有機農業の場合、生産したものが売れるかどうかが気がかりだが、農協が進めてきた産直によって販売先が確保されていることもよかった。相手先に農協の担当職員と一緒に出向き、話し合いを重ねながら、出荷品目や出荷量、価格などを決める。生産者の思いを込めたメッセージカードを野菜に入れて、交流も活発に行ってきた」と、これまでの歩みを語った。今回の総会で、12年間務めた部会長を田中宏昌さんにバトンタッチした。
NPOで交流事業
同農協管内で有機栽培を進める原動力となったのは、長いこと営農事業を担当していた柴山進さんだ。現在はNPO法人「アグリやさと」の代表として、石岡市が2017年に開設した新規就農者研修農場「朝日里山ファーム」の責任者を務めている。
NPO法人「アグリやさと」は、柴山さんが定年の少し前に農協を退職し、農協のOB、OGらの仲間とともに立ち上げた。同時期、廃校になった朝日小学校を石岡市が食・農・工芸の体験型交流施設として開設した。この施設は「朝日里山学校」と命名され、アグリやさとがこの施設の管理者となり、ここを拠点に消費者との交流事業を進めてきた。
そうした中で、周辺の耕作放棄地を利用する農場「朝日里山ファーム」が開かれ、その農場を利用する主な事業として新規参入希望者の研修事業が始められた。そのモデルは、農協の「ゆめファームやさと」だ。
柴山さんは今回の受賞を喜び、今後の展望や見通しを語ってくれた。
「有機農業で名の知られている地域は全国各地にあるが、有機生産者が八郷地域には80~90人はおり、日本一だと思う。それは、農協も有機農業の事業や運動を進めているからだ」
「農協では以前から生協との産直に取り組み、有機への転換もその延長線上にある。産直で八郷の有機農産物を食べてくれる人がいるから、事業が伸びてきた。生産者が農協に任せるのではなく、販売まで直接携わっているのが特徴であり強みだ。一部の品目だが、市長の理解もあって2022年から学校給食への取り組みも始まった。国のみどり戦略は追い風になるが、野菜は手間がかかるので、そんなに急に増えることはないだろう。米や麦、大豆なら、技術の進歩と開発によって増える可能性がある。情報をしっかり集めたい」
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