友好JA協定 オールジャパンの起爆剤に JAいちかわと鹿児島きもつき 1000キロの距離超え活かし合い2023年6月28日
千葉県のJAいちかわと鹿児島県のJA鹿児島きもつきは、農業と地域社会の発展を目的に友好JA協定を締結した。協定には災害時の相互支援活動への取り組みや、1000キロ離れた両JAがそれぞれの特産品を連携して販売することで販路の拡大と国消国産を進める狙いもある。地域特性の異なる両JAの職員の交流・研修にも取り組む。今なぜ友好協定なのか。両JAのトップに聞いた。
JAいちかわ 今野博之組合長、JA鹿児島きもつき 下小野田寛組合長
「組合員の生活を守る」思いが共通
――協定を結ぶきっかけは?
今野 昨年10月、ある会合で下小野田組合長から声をかけていただきました。短い会話でしたが、同じ感性だというのが第一印象でした。昨年、JAいちかわ管内はひょうで梨に大変な被害が出て(=写真)、そのとき、職員に農協の役割とは組合員の生活を守ることだと話しましたが、同じ考えの人がいた、という思いを持ったということです。
友好JA協定を結ぼうという話は下小野田組合長からいただきました。
ひょうで傷ついた梨をJAが買い取って販売(昨年8月)
下小野田 出会いからつながりができ、友好協定の締結でさらに広がり、われわれ組合長だけではなく、お互いの職員、組合員も含めてもっとつながりが広がっていけばいいと思っています。
両JAの友好JA協定書の調印式
今野 2020年から新型コロナ感染症が拡大しましたが、私はここまで長く続くとは思っていませんでした。そのコロナ禍のなか、農協を変えなければいけないと考えるようになりましたが、1000キロ離れたJA鹿児島きもつきとの出会い、自分たちが変われるものが何かあるのではないかと感じたということです。私はバブルも、バブルの崩壊も経験し、とくに貸し付けを担当していましたから非常に苦しい時代も分かっています。リーマンショックも経験しました。そして、長引くコロナ禍で向かい風が吹くのではないかと怖かったというのが本音です。そこに声をかけていただいたということです。
当JA管内には日本一だと思っている立派な梨があり、ドバイにも輸出をしていますが、JA鹿児島きもつきの産品とコラボして新しく世界に発信していけないかと考えています。これが組合員のみなさんのためになると考えています。それから職員の教育です。今回、友好協定で"つながり"ができました。私はタテのつながり、ヨコのつながり、そしてナナメのつながりが大事だとよく言っています。今回の友好協定はナナメのつながりであり、本当にいいきっかけをいただきました。
――コロナ禍のなか、農協としてここで変わらなければならないという問題意識を持っていたということですね。
今野 私は農協の事業にとってコロナショックになるのではないかと思っていました。そのなかでJA誕生60周年を迎えたこともあって、職員に新しい種をまこうと言っていましたが、友好JA協定がその起爆剤になったと思っています。
下小野田 私も同じです。JAを変えていこうという思いがあり、この8年間で内なる改革は進めてきました。ただ、やはり内なる改革だけでは本当に変わっていかないと感じており、外の力を生かした改革を進めたいと考えていました。そのためにわれわれはもっと広い世界に出るべきだということです。広い世界に出ていろいろな刺激を受け、そのことで変わっていく、変わっていかざるを得ない、そういう状況をつくりたいというのが私の思いです。
そのためには1000キロ離れたまったく環境が違うJAとの交流は大いに刺激になると思います。
共通のブランドづくりを
――JAいちかわ管内の人口は約50万人と過密地帯の都市JAです。一方、JA鹿児島きもつきは2市3町の管内人口約14万人の農村JAです。双方の違いをどう生かそうとお考えですか。
今野 JAいちかわは残念ながら経済事業は赤字です。JAは総合事業体ですから、信用、共済、そして当JAには資産事業がありますが、それでも経済事業もどうにかして黒字にしようと言ってきました。そのためのアイデアが私たちの10倍以上の経済事業を展開しているJA鹿児島きもつきの取り組みにあるかもしれないという思いはあります。
一方、信用事業で自負することは3700億円の貯金と2300億円の貸出金で貯貸率が60%以上あるということです。昨年8月にJAバンクローンは1000億円を突破しました。こうした事業で収益は生んでいますが、経済事業もっと改善しなければならないと考えています。
下小野田 貯貸率60%以上ということですが、まさに日本一だと思います。これは金融事業で地域を支えているということだと思います。農業を支えるということはJAにとって大事なことですが、地域を支えるという点でがんばっておられると思います。さらにいろいろな取り組みをしていきたいということですので、われわれが得意な経済事業の面でぜひ貢献したいと思います。
JAいちかわのイベントで「茶美豚」の豚汁がふるまわれる
そこで今日私から提案したいのは、共通のブランドづくりをしませんかということです。われわれは畜産が盛んで鹿児島黒牛、かごしま黒豚、茶美豚(チャーミートン)を組合員農家が生産していますし、またJA自らも生産しています。その強みを生かして共通のブランドを作れないか。われわれの地域で子牛や子豚を産み育てて、その後に食肉となるわけですが、その過程のなかでJAいちかわから飼料として活用できるものを供給してもらえないかということです。
そうすれば、この豚肉はJAいちかわ産の飼料を一部使った茶美豚です、あるいは鹿児島黒牛です、といった取り組みになります。もちろんJAいちかわ管内のみなさんにも食べていただくよう供給します。
今野 それは私も考えていました。たとえば、捨ててしまう規格外の野菜を活用するなど検討したいですね。捨ててしまうものを生産者に少しでも収益にしてもらうということは大事だと思います。
下小野田 先ほど人口の話が出ましたが、JAいちかわ管内は消費の現場だと思います。そして我々は生産の現場です。消費の現場と生産の現場がうまく結びつけばいろいろな事業展開できるのではないかと期待しています。
今野 こうした取り組みが実現すれば鹿児島から肉をたくさん購入することになると思います。使われている飼料の一部はJAいちかわ管内から提供されているということになれば、地域住民にもアピールできます。
私は何しろJAを変えたいということです。当JAは平成16(2004)年にJA船橋市と合併しました。船橋にも梨がありますが、市川のようなブランド力は正直言ってありませんでした。しかし、同じJAいちかわになったのだから何か変えていこうと思い、3年前に船橋市の梨生産者に「箱がおいしい、と言われるようなデザインに出荷箱を変えませんか」と呼びかけました。歴史のある出荷箱ですからみなさん変えようという発想はなかったようですが、勇気を持って提案したら賛同してくれました。そこで2年前にJAと協力関係がある千葉工業大学のデザイン科にデザインをお願いしたら、学生たちが集まってくれ、今年の出荷から新しい出荷箱になります。
いろいろなところで変えていこうとしているということです。
「船橋のなし」
職員の相互派遣で学び合いを
――事業提携だけではなく職員の交流によってレベルアップしようということも計画しているということですね。
今野 職員を送って研修をしたいと思っています。とくにわれわれの地域にはない和牛や黒豚の生産を見て、これが農業だという現場に触れてもらいたいです。農業地域に行って本来の農業協同組合の姿を見てもらいたいと思っています。
下小野田 私がいつも言っているのは職員は組合員のパートナーであるということです。16人の理事ではやれることに限界がありますが、700人の職員がしっかり組合員に向き合って取り組めば、組合員に喜んでもらえるいろいろなことができると思います。ですから職員に貴重な経験をしてもらうことはとても大事なことで、私もJAいちかわに職員を派遣していろいろな経験をしてもらいたいと思っています。とくにこれからは梨の収穫期に入りますから、そのお手伝いに職員を派遣したいと考えています。
日本全国にはいろいろいい産品があり、それを作っている素晴らしい生産者、組合員がいるわけですから、その生産者と交流することで何かを職員は感じるだろうと思います。それから今野組合長が培ってきたドバイとの交流も貴重なものだと思います。今年、もし現地に行くことがあれば私も同行したいと思います。
積極的に輸出戦略も
――では、JAいちかわのドバイへの梨輸出について改めて聞かせていただけますか。
今野 平成19(2007)年にいちかわの梨が商標登録を取得しブランド化しました。それを機にアピールしようと東京などで宣伝しましたがあまりいい反応はなく、それでドバイに行ってみようということになりました。そのときに5㌔で3万円の値がつきました。梨1個4000円ぐらい、生産者はびっくりです。
ただ、皮をむいて薄く切ってなどと食べ方を教える必要がありますし、そんな簡単には売れるものではなく、何回も足を運ぶこともできませんから日系の卸業者と提携して販売をしてもらいました。それをきっかけに注文が入るようになったのが10年前です。ただコロナ禍で中断を余儀なくされ、今年再開しようということです。
――輸出の取り組みにはどんな期待を持ちますか。
下小野田 たくさん売れるということを最初から期待していません。ただ、非常に高い値段がつくということですね。つまり、日本の農産物にはそれだけの価値があるんだということを組合員に伝えられれば非常にいいと思っています。だからがんばって輸出をしたいと考えています。
県域を超えた連携積み重ねを
――コロナ禍で事業や組合員との交流が制限されるなか、大変な危機感を持ちながらも、これを機にJAは変わらなければならないという思いを背景に、今回の友好協定があるということが今日のお話でよく分かりました。改めてJAとしてめざすことを聞かせてください。
今野 JAまつりや盆踊りなど次々とイベントを中止せざるを得なかったわけですが、やらなかった3年間を無駄にしないで、こんなことを新しくやるようになったんだ、と組合員から言われるような発想でいろいろなイベントを再開したいと思っています。それから友好JAになったわけですから、いいところはこちらも全部取ってしまおうと思っています。真似をするのは得意ですから(笑)。
当JAの組合員は2万5000人ですが、正組合員は4700人で准組合員が約2万人です。昨年の1月から3年間の准組合員拡大運動に取り組み、最初の1年間で4600人ほど増えて、今は増えた准組合員は5000人を超えました。これまで正組合員には広報誌を発行していますが、准組合員向けにも広報誌を作成し年に3回発行、職員ができるだけ対面で配布するようにしています。都市JAですから准組合員を増やしていく必要がありますが、JAに興味を持った人に准組合員になってもらいたいと考えています。支店の統廃合もしますが、新しい支店の設計は隈研吾さんにお願いしました。木造建築で地域に合った建物にしようと考えており、これも地域住民にJAに興味を持ってもらうためでもあります。
JA鹿児島きもつきの直売所に設けられたJAいちかわのコーナー
下小野田 私たちのJA管内はまさに農村、農業生産地帯です。JAの役割は何かと言えば、農業生産を続けていくというということです。今、国も食料安全保障の強化を課題としており、そのためには生産基盤を守らなければなりませんが、生産者が現場で生活ができる農業経営を実現しなければなりません。
そのためにわれわれが何をやるかということですが、私はやはり再生産ができる販売価格を実現したいと思っています。それには輸出を強化する必要があり、しかもオールジャパンで取り組むべきだと思います。そのときに県域を超えて取り組む意義が出てくると思います。今回の友好JA協定を契機にした輸出の取り組みは、その先駆けになりたいということでもあります。海外に対してはみんなで手を結ぶ必要があると思います。
――1000キロ離れたJAが手を結ぶということがオールジャパンの一歩になり、そうした県域を超えた具体的な提携の積み重ねがオールジャパンを作るということですね。
下小野田 お互いに素晴らしい産品があるわけですから、こんなにおいしい梨や和牛がある、これがジャパンだ、と示していくことだと思います。それを期待しています。
――ありがとうございました。
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