「組合員目線を大切に」 JA全農 折原敬一会長に聞く2023年9月29日
7月28日に就任したJA全農の折原敬一会長は「なくてはならない全農へ、会長の務めを全身全霊で全うする」と強調した。基本法の見直しなど大きな節目に向かう中、改めて意気込みを聞いた。
JA全農 折原敬一会長
農業所得常に考え
――就任会見では「『現場主義』と『組合員目線』が確固たる信念だ」と言われました。その思いを改めて聞かせてください。
私のスタートは単協の営農指導員です。とにかく現場を歩く中で組合員と対話しながら、何が問題なのかを意識していました。
それから協同組合運動という原点が常に頭にありました。一般企業とは違い「我々は協同組合である」ということが大きな柱であり、組合員目線を大事に、そこからの発想を我々の業務のなかに取り込んでいくことが重要であると思ってきました。
私が入組した昭和40年代後半は転作強化のために段階的に米の生産が制限される時代でした。農家の所得を確保するためには何をするべきなのか、それには園芸や畜産の振興を図って農家の所得をしっかり支えられるようにしなければならないと考えました。組合員には転作の理由を説明し、農家の不安に対応する必要がありました。
園芸振興ではスイカの産地化を図ろうと考え、地元で苗木を生産する組織を立ち上げて、地元で栽培体系を確立していこうと力を入れました。雪の多い地域で春の作業には苦労しましたが、植え付けができれば栽培も可能でした。問題は出荷作業でした。重量のあるスイカを一つずつ手作業で選果するため、スイカを切ってみたら良い出来ではなかったと市場からクレームが来ることもありました。
しかし、これをきっかけにブランド化の方向性を検討しました。そのころ機械の開発も進み、作業負担が軽減され、栽培面積が拡大し、品質なども機械で計測できるようになりました。結果として、生産は安定し、産地としての評価も得られるようになっていきました。平成に入ってからは、機械選果が始まった熊本を視察したり、メーカーに現場の意見を聞いてもらったりして、地元山形でのスイカの産地化に奔走しました。
――就任会見では「全国では依然として水田農業に関わる正組合員が最も多いことをしっかり意識しなければならない」と強調されました。
転作強化により、別の品目に切り替える苦労がありましたが、集落を維持する上では水田が大事な要素です。全国的に見ればどんなかたちであれ、水田に携わっている人の数は多いと思います。米づくりに対する思い、集落での共同作業などを考えれば組合員の数としては水田農家が基本だろうということです。
米の消費量が落ち込んでいるとはいうものの、水田に関わっている組合員、生産者は地域にとっても必要だという思いがあります。この現実をふまえ、我々の事業を検討する必要があると考えています。
持続可能性見据え
――農政では、食料・農業・農村基本法の見直し作業が具体化していきますが、何を期待しますか。また、全農として当面の課題にはどう取り組みますか。
JAグループ全体でも主張していることですが、国消国産、安全安心は重要だと思います。自給率向上を目指している中で、実際には逆に下がっている状況ですから、現場の意見も取り入れた見直しが重要です。
特に、物価上昇や生産資材価格の高騰が続く中、農産物価格は自分たちで決められないという大きな問題があります。再生産が可能な持続できる農業を維持していくためには、現状のままで良いのでしょうか。就農者が年々減少する中、適切な所得が得られる環境を作っていかなければ農業そのものが衰退してしまうのではないかと思います。
一方で、肥料や飼料の原料を海外に依存する割合が高く、このことが農業生産の不安要因にもなっています。国内で調達できるような方策が必要であり、全農としては、たとえば肥料では下水汚泥や堆肥、鶏ふん燃焼灰の活用など、飼料では子実トウモロコシの生産などの取り組みを進めていきます。
環境問題への対応も求められており、行政と一体となって、国内資源を活用できる体制を構築していこうと考えています。
――同時にJAを補完する全農の機能が大事になっていると思います。
農業に限らず日本全体として労働力不足が課題になっており、従来のやり方でこれからも事業運営が継続できるのかが大きな課題です。
各地のJAでは、従来のスタイルでの集荷や出荷が困難になってきているという問題や、物流の2024年問題への対応も考えなくてはなりません。効率的に事業運営を行うためにはどうすればいいか。全農が補完的に関与する形で農畜産物をどのように消費者にしっかり届けられるかを考える必要があります。ある程度広域化した輸送体制で集荷し、求められる時間までに届けることができるように、拠点を整備し輸送する取り組みが必要だと考えています。
それから、地域では担い手の大型化や法人化が進んでいます。ただ、私は日本の中でも北と南では法人組織の形態が異なると思います。北では冬も含めてどのように年間の雇用を維持していくかという問題があると思います。冬でも作れる品目はありますが、コストも上昇します。したがって経営規模の拡大だけを考慮するのは限界があると考えています。
食と農を守る要に
そうした地域の違いを考慮して、JAや全農がどのように機能を発揮するかが課題です。やはりJA合併や施設の統廃合、さらに職員数の減少が進む中、組合員から営農指導面も含めて手薄になっているのではないかと問われることもあると思います。大型の農業法人を担当する職員の育成支援も全農の取り組みとして必要です。
こうした取り組みを通じて法人も含めた多くの生産者から、系統を通して出荷していただける環境を作り、そのことが組合員からの評価につながってくると思います。
――全国のJAグループの役職員に向けてメッセージをお願いします。
我々JAグループの職員は、農業という一つの産業を預かる立場です。それぞれ所属する部門は異なっていますが、現場を意識しながら仕事を行うことが重要です。農業は大事な産業であることを再認識し、皆さんが協同組合組織の一員として日々の業務に邁進していただけることを願っています。
――座右の銘はありますか。
中学の校長先生から卒業記念に「堅忍不抜」と書かれた色紙を贈られました。様々な課題にも前向きに立ち向かうような気持ちを持って行動していくことだと思っています。中学時代はクロスカントリースキーなど運動にも力を入れ、生徒のなかでリーダー的な立場でもありました。そういうところを見て、先生は「前に向かう気持ちを持って、固い意志でがんばれ」と言われたのだと思っています。少し融通が利かないと言われるかもしれませんが。
――改めて「なくてはならない全農」に向けた決意を聞かせてください。
農業は持続性を持ちながら継続していかなければならない産業です。国民の命を預かる立場としてこれが衰退するようなことがあってはなりません。全農は国内に留まらず世界に向けて事業展開を行い、原料調達や農畜産物の輸出を行いながら、食や農業の情報発信にも取り組んでいます。これが全農の役割だと思います。全農がなければ大変なことになってしまうのではないかと改めて感じています
先日も地元に戻った際、集落の共同作業に出ました。皆さんからは、こんなことをしている時間はあるのかと言われましたが、その場での会話が全農の仕事を理解してもらえるチャンスだと思いました。組合員が今何を求めているのかを聞き出すためにもこうした場は大事だと感じています。誰のための組織なのか、現場を思い起こしながら日々頑張っていきます。
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