高機能バイオ炭「宙炭(そらたん)」でカーボンクレジットの事業領域を開拓 TOWINGの挑戦2023年10月23日
名古屋大学発のベンチャー企業「TOWING」(トーイング)は、土壌微生物の培養技術を用い、バイオ炭に微生物を定着させた高性能バイオ炭で脱炭素・減化学肥料・減化学農薬を両立する農業エコシステムを目指している。10月11日~13日に千葉市幕張メッセで開催された「第13回農業WEEK」の「AgVenture Lab(あぐラボ)ブース」に出展し、同社取締役COO(最高執行責任者)の木村俊介氏がセミナーを行った。
「第13回農業WEEK」に出展したあぐラボブースでセミナーを行うTOWING取締役COOの木村俊介氏
土壌微生物の培養技術で世界の食料問題と環境問題を解決
同社の主力商品は高機能バイオ炭『宙炭』(そらたん)で、地域の未利用資源であるバイオマス(もみ殻、畜ふん、茶殻、コーヒーかす、せん定枝、サトウキビ圧搾後の繊維等)を炭化したバイオ炭に土壌微生物を定着させたもの。農地にまく形態と育苗培土として利用する二つのパターンがあり、カーボンクレジット獲得やプラント開発も事業の柱にする考えだ。
同社は、世界共通の社会課題である①化学肥料の枯渇、価格高騰②温室効果ガス排出の削減③未利用バイオマスの処理、という三つの課題を解決するためにアプローチしている。『宙炭』は、「バイオ炭への土壌微生物の定着技術」「有機肥料分解を得意とするアンモニア化成菌・硝化菌叢(そう)の選択的培養技術」という二つのコア技術で成り立つ。名古屋大学、農研機構の技術シーズとともに、独自技術開発により量産化を実現した。
TOWINGの製品
高機能バイオ炭「宙炭」を活用した3つの課題の同時解決
木村氏は「炭単体だとアルカリ性になるが、土壌微生物の機能によって中和し、pH6~7付近にキープできる。また、有機肥料は化学肥料の10分の1程度の価格で販売されていることから有機肥料の利用効率を高めることによって、営農収支を向上させることができる」という。
硝化菌とアンモニア化成菌を同時にバランスよく培養することにより有機肥料の中に含まれる窒素成分の有機態窒素をアンモニア態窒素に変え(第一段階)、さらにアンモニア態窒素を硝化菌が硝酸態窒素に変える(第二段階)ことによって、はじめて有機肥料が栽培作物に有益な形で使えるようになる。
一方、木村氏は「(農水省が推進する)みどり戦略で有機転換がキーワードとなっているが、(現場で)なかなか進まない理由には、主に化学肥料を使ってきた農地に対して、いきなり有機肥料に切り替えても肥料の利用効率が悪くなり、収穫量も3分の2程度となり、元の収穫量を実現するには5年はかかる」と指摘する。
こうした中で「宙炭」を農地に施用することで「土づくりの期間を(これまで有機転換に要した)5年から1ヵ月に短縮する。肥料の利用効率を従来より8倍に高め、炭素の貯留を同時に実現する」と木村氏。「現在30都道府県で60品目の栽培実証試験を行っており、収量が1.2倍から1.7倍程度の向上効果を確認できた。小松菜やキャベツなどの葉菜類やナス、ピーマンなどの果菜類でも効果を実証できた」と付け加えた。
利用できるバイオマスの原料
育苗培土としての利用から農地の利用効率を高める
『宙炭』を農地に施用する場合、マニアスプレッダーやブロードキャスターなど通常使っている肥料散布機を使用でき、堆肥に比べて『宙炭』は軽いため作業を軽労化できる。
さらに、水稲や野菜の育苗培土としても利用できる。「今年は約10軒の水稲生産法人やJAと実証実験を行い、高機能バイオ炭と粒状培土を混合して使うというパターンでは、従来培土に対して遜色のない根張りと出来栄えの『宙苗(そらなえ)』になった。特にプール育苗だと苗箱が重いのが難点だが、『宙炭』を使った育苗培土は、従来比3分の1程度の重さのため作業性が格段に良くなり、非常にメリットがある」と強調した。
また、耐病性の向上という観点からは、「ラボでの実験結果になるが、連作障害を引き起こすフザリウムと青枯病菌の抑制効果が確認できた。連作障害を起こさずに営農できることは農地の利用効率を高めることにつながるメリットは大きい」と語った。
野菜「宙ベジ」の販路開拓とカーボンクレジット獲得
『宙炭』で作った有機野菜の販路開拓では、生産物の販路開拓に困る生産法人や、JAの中でも直販ルートが欲しいという要望が多いため、給食事業者「LEOC」や青果物市場の仲卸「大治」と連携している点などを紹介。「現在、国内では30都道府県で試験導入するとともに、海外では米国を含む約5ヵ国(ブラジル、メキシコ、タイ、フランス)でフィージビリティー(実現可能性調査)を始めており、グルーバルな事業展開をめざしている」という。
また、バイオ炭を使うことで炭素が実質的に農地の中に貯留できる効果があることから、バイオ炭を使ったクレジット獲得が実現できる。今年6月23日に認証(みどり法認定事業者)を取得したことで、クレジット申請から販路の構築までを新たな事業の柱にする考えだ。
高機能バイオ炭製造プラントで事業採算性が向上
「バイオマス発電所よりも採算性の高いプラントとなる」と自信をのぞかせたのが高機能バイオ炭製造プラントだ。木村氏によれば、例えば飲料工場では1工場当たり年間1億円を払って5000tの飲料加工残渣を産業廃棄物処理しているが、これを高機能バイオ炭に変えるプラントへの設備投資は5億円程度と見積もる。主な装置は炭化装置と微生物培養槽からなる。「5億円の設備投資で補助金を活用すると約2年で投資を回収できる。補助金を活用しなくても約5年で回収できる」と試算した。また、「産業廃棄物にお金を払っている事業者がこのプラントを建てることは、これまで払っていたお金が、逆に使えるお金に変わるので事業採算性は高まる」と付け加えた。
地域での循環経済から地球全体でのGXが最終目標に
こうした事業の行き着く先について木村氏は「農地への施用により、グリーンな栽培体系に転換するという農業セクターでの課題解決はもちろん、各地で処分に困っている未利用資源のバイオマスを農業資材に変えて、農地に還元していくことで地域特化型のサーキュラーエコノミー(循環経済)を実現できる」と語り、「日本国内はもちろん、海外でも同じモデルをつくることで、地球全体のグリーントランスフォーメーションを実現することが最終目標になる」と締めくくった。
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