【現地レポート】JAの水田農業戦略 「東川米」の国際ブランド化めざす JAひがしかわ(1)2024年3月19日
主食用米の国内需要が継続して減少していくなかで、地域の水田を維持し農業を持続させるため生産から販売までのJAの戦略が期待されている。今回は米の輸出事業に取り組んでいる北海道東川町のJAひがしかわを取材した。
牧清隆組合長
東川町は北海道のほぼ中央に位置、大雪山連峰旭岳から流れる豊かな水に恵まれている。
「大雪山の水で栄え、先輩たちが水田を開いてきた。その水資源を利用した水稲生産がこの地域の生産基盤を維持することだと考えてきました」と牧清隆代表理事組合長は話す。
農業生産に欠かせない「水の価値」を発揮させることに挑戦し続けるJAをめざそうと2016年に「みずとくらすJAひがしかわ」ブランドを立ち上げた。豊かな水と環境に配慮した栽培法で作られた「東川米」は2012年に北海道米で初めての特許庁の地域団体商標に登録された。
JAは、この「東川米」ブランドで国内販売に力を入れてきたが、人口減少に伴い国内需要の減少が見込まれている。このため、「国内需要に合わせて生産を維持するだけでは地域の水田農業は衰退に向かう。新たな需要を獲得すべきだと輸出を本格化させることにしました」と話す。
海外市場への進出は地域の水稲生産を守るためでもあり、地域団体商標「東川米」ブランドを世界に広め、「世界に誇る東川米ブランド」として国内での需要の高まりをめざす輸出戦略でもある。
ただし、輸出先は国内の他産地が進出しているアジア市場だけにこだわらず、欧州など非米食文化圏への輸出を通じて米食文化の魅力を広めることも目標にしている。むしろ米の輸出実績がない国に積極的に輸出し、その国のトップポジションを獲得することもめざす。つまり、その国で初めて食べた米が「東川米」という位置づけを狙う。
輸出は2021年から本格化させ台湾、中国、香港などへ計209tを輸出。22年にはシンガポール、フィンランド、ブラジルも加わり計257t、23年にはオランダ、ベトナム、米国が加わり計440tを輸出した。2024年は702tを予定している。
JAは販売先との交渉や現地での販促活動に力を入れてきた。
ライスボール試食宣伝会も
現地の日本食レストランでのおにぎりの調理や東川米と現地の高級食材を組み合わせた「ひがしかわボール」を考案した。今年1月にはフィンランドの大型スーパーとヘルシンキ駅でひがしかわボールの試食会を2日間にわたり開催したところ、両日とも予定していた時間を延長するほど好評だったという。
JAでは今後、ウズベキスタン、タイ、英国を新規輸出国にすることを目標としており、2025年までに計12カ国以上への輸出を計画し、総輸出量1200t以上をめざしている。
管内の水田全体の面積は約2100haで1万2000tの出荷量がある。品種は「ゆめぴりか」と「ななつぼし」。25年の輸出目標の1200tは出荷量の1割に当たる。
JAの組合員数は1600人ほどで正組合員は475人(23年1月末)で、このうち水稲を生産している組合員は113人。平均の水稲作付面積は約20haになる。
牧組合長が強調するように輸出用米への取り組みは水田という生産基盤を維持して農家所得の維持向上を図ることが目的だ。
輸出向けの水田面積は22年産で44ha、23年産で75ha、24年産で118haを見込む。水田全体の水張り面積の推移をみると22年産2111ha、23年産2094ha、24年産2144ha(予定)であり、国内向けの主食用米作付面積は「生産の目安」と「国営事業」のため減少しているものの、水田全体の水張り面積は維持されている。
生産者の所得は水田活用の直接支払交付金のほか、町独自の交付金などを利用して輸出分も主食用米と同程度の所得を確保するようにしている。
米価は収穫前に買い取り価格を組合員に提示し、年内中にすべての精算を行う。東川町で生産される米の多くは複数年契約を行う各取引先に販売されている。
JAひがしかわは、輸出用米だけではなく、その他の取組も積極的に行っている。
美味しいコメと豊富な水資源を求めて岐阜県の酒蔵が東川町に移転、その需要に応じて酒造好適米の生産も始めた。また、そこでできた日本酒もJAが海外へ輸出している。
同町に移転した酒造メーカーの本社
また、昨年からは資源米生産の試験栽培にも取り組んでいる。プラスチックの原料となる米「ライスレジン」の生産で4haを作付けした。今年からその資源米を使用したゴミ袋が東川町で使用される。水田の維持が環境負荷軽減にもつながる取り組みとして今後が期待されている。
「ライスレジン」用の資源米を試験栽培
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