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「蔵の街」の"商人道"に学ぶ 福島県喜多方市から(1)【全中・JA経営ビジョンセミナー】2024年4月10日

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JA全中教育部は3月13、14の両日、福島県喜多方市でフィールドワークによるJA経営ビジョンセミナーを行った。「蔵のまち」喜多方のまちづくり、再生可能エネルギー自給をめざす会津電力(株)の施設などを視察し、次々と新しい事業に挑戦する合資会社・大和川酒造店会長の佐藤彌右衛門氏から地域を基盤にした企業のパーパス(存在意義)、リーダーシップのあり方などについて学び、ディスカッションした。今年度計画した最後のセミナーで、これまでの4回のセミナーを含め、各自がその成果・感想を述べた。

相互扶助から実利 再生可能エネで事業創出【大和川酒造】

酒蔵を改造したセミナー会場酒蔵を改造したセミナー会場

信用が企業継続の鍵

喜多方は「蔵のまち」として知られる。会津盆地の北部に位置し、飯豊連峰からの豊かな水と平地に恵まれ、古くから米や麦、大豆の栽培が盛んで、酒やしょうゆ、みそなどの醸造業が栄えた。室温が一定で火災に強い蔵は酒やしょうゆの醸造・保存に不可欠の施設だった。

佐藤会長の大和川酒造店は1790(寛政2)年に創業した老舗の酒蔵で、ブランド名にもなっている「彌右衛門」の名前は代々引き継がれ、現在の佐藤会長は9代目。喜多方の酒造業は、藩政の時代から「酒株」による独占的な権利が認められる一方で、農業振興など地域への貢献度も考慮された。いわば酒造業者のメンバーシップで、それによって商人同士の相互扶助が生まれ、喜多方独特の地域とのつながりが根付いた。

佐藤彌右衛門氏佐藤彌右衛門氏

エネルギーを自給

太陽光発電のソーラーパネル(角度30度の雪国仕様)太陽光発電のソーラーパネル(角度30度の雪国仕様)

地域に災害があって道路や橋が壊れたときなど、有力な商人が私財を投じて復旧に携わってきた。それには酒米を安定して運び込むという実利もあるが、これが喜多方の伝統・風土になっており、これを怠ると地域での商売継続が難しくなる。「自分の利益しか考えない商人は、長く続かない。地域のためにどれだけ貢献できたか、そこで得た信用が代々引き継がれてきた」と佐藤会長はいう。

こうした考えの延長線上に会津電力の設立がある。2011年の東日本大震災を契機に、東京電力福島第一原発事故の影響は直接はなかったものの、佐藤さんら地元の有志が立ちあげた「ふくしま会議」で、脱原子力発電、再生可能エネルギーによる自立した地域社会づくりが課題になった。

地元の官民ぐるみ

福島県には原子力発電所や多くの水力発電所があるが、そこで生み出された電力はほとんど県外の首都圏で使われている。「これを取り戻し、原子力に依存しないクリーンエネルギーの自給ができないものか」と考えた。会津電力の設立は会津地方8市町村、金融機関5行、企業20社、個人50人が出資する、文字通り官民あげての事業となった。

現在、県内で88カ所の太陽光発電所と、1カ所の小水力発電所が稼働しており、発電量は一般家庭約1600世帯分に達する。このほかペレットボイラーによるバイオマス熱事業、国営の開拓事業の行き詰まりで荒廃した農地にブドウを植え、ワイナリー事業なども手掛けている。

農場で酒米を自賄

大和川ファームのライスセンター大和川ファームのライスセンター

よい酒を造るには、原料となる品質のよい酒米(酒造好適米)の確保が前提になる。大和川酒造店はグループ会社に、生産者を組織化した有限会社・大和川ファームを持つ。水田約50haを借り上げ、無農薬と減農薬無化学肥料の米を生産する。

酒造会社(酒蔵)が米を自社生産することは、①トレーサビリティーの実現②地元の米を使うことによる地域農業の振興③酒づくりに適した原料米の確保――などのメリットがある。同ファームは地元産の原料にこだわり、大手酒造会社との差別化をはかる狙いがある。耕作放棄地でのソバの作付け、自然エネルギー農業のためのソーラーシェアリング事業、さらには、もみ殻からシリカ(ケイ素)をつくるプロジェクトも進んでいる。

JAのパーパスは

セミナーのディスカッションでコーディネーターの落合康裕静岡県立大学教授は、「なぜ大和川酒造店は世代を超えて地域に密着するのか」で問題提起。9代目の佐藤氏は、事業だけでなく、蔵のまち喜多方のまちづくりにも尽力しているが、こうした有形・無形の資産にこだわり、地域に貢献(投資)する理由のほか、特に「JAの経営者としてパーパスをどう考えているか」「地域の人々が集うJAとなるために、JA経営者としてやることは何か、具体的にどこから手をつけていくか」について議論した。

このなかで同教授はJAのパーパスの要件として、①その組織ならではのもの(オリジナリティー)②身の丈にあったもの(実現可能性)③社員(職員)のワクワク感(動機付け)――の三つを挙げた。

同じくコーディネーターを務めた慶應義塾大学の奥村昭博名誉教授はセミナーの五つのセッションを踏まえ「アンラーニング(学びなおし)を提唱。「新しいビジネスを起こすには、視点の転換が必要。変革はここから始まる。それが組織の持続へつながる」と指摘した。

「蔵の街」の"商人道"に学ぶ 福島県喜多方市から(2)へ続く

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