【報告2】多様な担い手育成を通じた地域農業振興 JA常陸代表理事組合長 秋山豊氏2024年4月24日
農業協同組合研究会が4月20日に東京都内で開いた2024年度研究大会「基本法改正の下でわがJAと生協はこの道を行く」で行われた各報告の概要を紹介する(文責:本紙編集部)。
JA常陸代表理事組合長 秋山豊氏
一人の決意が一大産地へ
元気な部会とJA子会社などの有機農業の取り組みを報告する。
JA常陸奥久慈枝物部会会長の石川幸太郎さんはJA茨城中央会の先輩にあたり、早期に退職して20年で一大産地を作り上げた。自分の故郷が耕作放棄地と高齢者ばかりなっていくなかで、どう再生するかを考えたとき、これからは枝物だと、最初は勤務しながら帰宅後に草刈りして苗を植えることから始めた。
その後、2005年に退職した人たちを中心に9人で枝物生産部会を立ち上げた。2019年にJA常陸奥久慈枝物部会に名称変更し、販売金額は1億円に達し、2022年には2億円となった。ここ数年で急激に伸びた。
部会員は144人だが、その家族や親戚も出荷しており、全部で300人ほどが枝物で所得を上げていることになる。品目は「奥久慈の花桃」、「柳類」を中心に約250品目を栽培している。
夏に竹を伐ると竹が枯れるということから、真夏にみんなで竹を伐る。山際の耕作放棄地を地主から借りて、そうやって竹を伐り苗木を植えてきた。
栽培状況(2023年度)を見ると、耕作放棄地を15ha復活させ、遊休農地を34ha、普通畑2ha、水田7haなどで枝物を栽培し合計77haとなっている。部会の活動によって耕作放棄地がゼロになった地域もある。1軒当たりの販売額は1000万円以上の人もいるが、200万円から1000万円がほとんど。中山間地の山際でもお金になるので、みんな苗木を植えた。
若手の就農者も出てきている。30代で4人、40代で3人、まったくの新規就農者が入ってきた。噂を聞いたり、部会のホームページを見たりして訪ねてきた。ホームページは産地の生きた情報を提供しようと作成し、市場や仲卸だけでなく、一般消費者にまで奥久慈の枝物をPRしている。
ただ、相当に力を入れないと新規就農者は定着しない。実際の事例だが、JAで雇用し直売所で働いてもらって研修し就農した。みんなで手を差し伸べないと後継者は育たないと感じている。
この部会は常に地域に奉仕しようとしている。これは石川部会長の考えでお金儲けだけでは部会は伸びないといつも言っている。
勢いづく有機栽培
有機農業の推進は2019年から始まり、筑西市のレインボーフューチャーという農業法人を三美地区に誘致し、5.5haで有機野菜の栽培を始めた。この年に茨城県が「いばらきオーガニックステップアップ事業」を創設し、これを利用した。
20年に常陸大宮市長に鈴木定幸氏が当選し、市内15小中学校の学校給食の100%オーガニック化を公約とした。21年には笠間の農業法人カモスフィールドを三美地区に誘致し、県はこの地区を有機農業モデル団地に位置づけ、市は有機農業推進計画を策定した。
22年にはJA子会社のJA常陸アグリサポートが有機農業の取り組みを始め、現在3.5haを栽培している。一方、野田地区では水戸市に本社がある要建設がソバの有機栽培を14haで始めた。学校給食では有機野菜の使用が始まった。
23年になると米の有機栽培をやりたいという農家が遂に出てきてJA常陸アグリサポートと一緒に取り組みを始めた。さらに今年は若手農家1人が米の有機栽培をやりたいと言ってきた。昨年から学校給食で有機米の使用が始まった。市は1俵2万2000円で買い上げている。
今年の11月には常陸大宮市で全国オーガニック給食フォーラムを開催する予定となっている。まだまだ課題は多いが、勢いはあり、市とJAが両輪となって取り組んでいるのが特徴だろう。
有機米の取り組みは鷹巣地区でJA常陸アグリサポートと生産者1人で23年から始めた。23年は3.9haで栽培、今年は9.3ha、27年には12haとすることが目標だ。地権者は75人いるが、みなさん大変協力的で、しかも有機農業と慣行農業のそれぞれの栽培管理について「有機農業を促進するための栽培管理に関する協定」を締結し市長がそれを認可した。JAは有機ブランド米を「ゆうき凜々」と名付けて今年から販売する。
ただ、オーガニック給食の問題は少なくない。野菜は天候により給食に提供する時期、数量にズレが生じる。低温貯蔵庫がないため供給期間が限られる。納品規格が定められおり規格外品が大量に発生する。給食センターへの安定供給のため、過大に生産する必要があるが、残量の販売先がない。この点については有機野菜を扱う仲卸と契約したが、価格に問題もある。
有機栽培の生産拡大にともなって堆肥の不足が懸念される。大型の畜産農場から堆肥を入れているが、さらに養鶏農家からの鶏糞などの利用も考えたい。将来的には食品残渣も検討したい。
課題を解決するため、予定していた野菜が出荷できなくなったときはJAが代替品を手配して納品することにした。また、低温貯蔵庫の建設についても検討するなどの取り組みを進めていきたい。
現在の農業を取り巻く情勢から考えると、有機栽培に取り組むことが関税引き下げのTPP時代と、SDGs時代に日本農民が生き残り、農地を次世代に伝えていく道だと考えている。
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